これは少し前に、ネットワークエンジニアである私の身に起きた、ある“残念な案件”の記録です。

ここまで極端に問題のある案件は、今時、なかなかないと思いますが、特にエンジニア経験の少ない方が炎上案件の雰囲気を少しでも理解してもらえればと思います。

恐怖“法案件対応”

お酒の席でかつての同僚に誘われたのが始まりでした。「某金融機関が、業界知識のあるエンジニアを探しているのだけど、どうだろう? まったりだし、単価も悪くない」との言葉に、酔っ払っていた私は、うかつにも了解してしまいました。

翌々日、面接を受けて、そこで気が付きました。実は、まったり保守要員ではなく“法対応案件”での募集であることに。

法対応案件とは、その名の通り、法律の改正に対応して行うシステム作業の総称です。法対応案件は、新たな法律の適用日前までに完了させる必要があります。つまり、スケジュールは絶対に動かせないのです。うっかりスケジュールが狂って、新たな法律の適用日前までに完了ができなければ、何人かの首が飛ぶ世界です。

特に金融機関は信頼が最重要ですから、スケジュールのプレッシャーもひとしおです。しかも、金融機関は「システム作業のために営業止めます」とはなかなか言えないため、だいたい作業日程がタイトです。

「ネットワーク機器の交換は東証とニューヨーク証券取引所の取引が止まる、早朝数時間のうちに完了させてください。この時間に終わらなくて、取引開始にうちの銀行のトレーディングシステム使えなかったら、誰がどう責任取るんですかね」みたいなことを普通に言われます。

さらに、金融機関の法対応案件というのはたいてい関係者が多いのです。金融機関の担当者、新システムのアプリケーション部隊、ネットワークを含めたインフラ部隊といった“内側の関係者”だけでなく、“外側の関係者”も存在します。

みなさんはあまり意識していないと思いますが、金融機関同士、“データ交換をする仕組み”が無数にあります。例えば、A銀行のATMからB銀行の口座に送金できるのも、証券会社を通して、東証の株の売買ができるのも、それぞれの情報をやり取りするための仕組みがあるからです。

金融機関の法対応案件では、だいたい、この“データ交換をする仕組み”を管理している“クライアント金融機関の外の関係者”などとも折衝する必要があります。

こうした諸々の理由から、金融機関の法対応案件というのは、極力断りたいところですが、すっかりクライアントさんは来てもらえること前提で話しているうえに、単価も良かったので、躊躇いながらも「お受けしますよ」と言ってしまいました。

驚きのサーバーエンジニア

驚きのサーバーエンジニア

さて、私のようなネットワークエンジニアの仕事は、サーバー担当やシステム担当の要求に応えてネットワークを提供することにあります。“ネットワークを提供する”といっても様々なレベルがありますが、一番、多い依頼は「ここに、このセグメントのLANケーブルを出してください」というものです。私はこれを配線依頼と呼んでいます。

※セグメントという言葉がわからない人は「ここにIPアドレスをXXと設定した機械を置きたいので、適切な設定がされたLANケーブルを出してください」程度の意味だと思ってください。

この日も、サーバーを納品したベンダーからサーバー向けの配線依頼があったので、要求通り、ネットワーク機器からケーブルを配線してサーバーの前にLANケーブルを出しておいてあげました。

そして、現れたサーバー担当に、ケーブルの番号と、それぞれ、どのセグメントから伸びたケーブルなのかをまとめた資料を渡して立ち去ろうとしました。今日の仕事はこれで終わりだと思って。

ところが、サーバー担当に呼び止められたのです。“なんだろう?”と思いつつ振り返ると、彼は「このケーブル、どこに挿せば良いですか?」と、私に質問してきたのです。最初、なにを言っているのか分からず、ポカンとしてしまいました。

それからしばらくしてから、“開いた口がふさがらない、というのは、こういうときに使うのか!”と思いながら、「私はサーバー担当から、ケーブルを出して欲しい、と頼まれて対応しただけだよ。ケーブルをどう使うかはサーバー担当の管轄でしょう? 知らないよ」と冷たく対応すると、彼は慌てて、だれかに電話を始めました。

そこからは、もう大変でした。彼の先輩が来て、さらに上司が来て、さらにさらにサーバー担当のカウンターパートのクライアント担当者まで来て、みんなで、よくわからない議論をはじめてしまったのです。私は、なぜか、そのよくわからない議論が終わるまで、付き合わされる羽目になり、解放されたのは23時過ぎでした。

一つ補足しておくと(ここまでひどいのは珍しいですが)、実はこういうことってよくあるんです。

いわゆるベンダー系SIerって、外から見ると、一つの会社ですが、実は内部にいくつも会社が入っています。

金融機関の法対応案件のような大型案件では、それぞれの会社が得意分野を分担して協同する形になることが多いです。さらに、それぞれの系列会社の下に、SESなどの形で系列外の会社も参加する構図がよく見られます。そうした組織体制のせいで、情報連携がうまくできておらず、「聞いてなかった」「知らなかった」というのがたまに発生します。

今回は、まさにそのパターンの典型だと言えました。

決まらない通信要件

そんな状態なので、この後も問題がいくつも出てくるだろうと思っていましたが、案の定、問題がいくつも発生していました。「別に問題があっても、自分たちネットワークに影響なければ良いや」と最初は高をくくっていたのですが、いつまでたっても問題がクローズしないため、ネットワークにも影響が出てしまいました。

そもそも、今回の案件は、新たな制度対応に合わせて新たなシステム(サーバー含む)へと更新するのに合わせて、“データ交換をする仕組み”を管理しているクライアント金融機関と接続するための社内のネットワークも更新する、という話でした。

この際、社外から社内のネットワークへと自由にアクセスできないように、あるいは、社内同士であっても、特定の通信以外はできないようにするための仕組み(FWフィルター)を設定し、「適切な形にする」ことが重要です。しかし、システム担当やサーバー担当が、必要な通信、不要な通信を把握しきれておらず、最終的な通信の要件がいつまでたっても決まらなかったのです。

連日、「これで確定です」と言われた資料をもとに、私たちネットワーク担当で設定を作るが、作った端から「やっぱりこの通信も必要そうです」や「この通信はなしでお願いします」と言われて作り直す、という状態が続いていました。

そういう状態が、実際にネットワークに設定を入れなくてはならない日の一週間前になっても続いていたので、クライアント担当の責任者が思い切った判断をしました。それはずばり、“深夜、営業していない時間帯で実際にテスト通信を行い、必要な通信か不要な通信か判断する”というものです。

結果、深夜テストして駄目だった設定を日中に修正して、また深夜にテストする、という状態になり、案件を担当している主なメンバーが軒並み、数日、家に帰れないという事態に陥ってしまいました。

まとめ 最終的にはうまくいったものの。。。

結局、命を削るようにして作りあげた設定でシステム更改を完了させ、表面的には問題なく対応を完了したことになっています。また、私自身への報酬についても、ボーナスが発生し、それなりの金額になりました。

ネットワークは“今時のシステム”にとって一番ベースになるところです。ですから、ネットワークエンジニアのニーズも高いですし、単価も高い反面、一番ベースになるところだからこそ、一番、振り回されるということに、改めて気づかされる案件でした。

いずれにせよ、良い思い出ではないのは間違いありません。

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