アーフィ:『AI Conference 今のAIと、未来のAIの話』が開催されています。

インジェ:AI研究の最前線でご活躍中の理化学研究所 革新知能統合研究センター長の杉山教授をはじめ、AIソリューション開発のKICONIA WORKS社の書上様、AI教育のプラットフォームを運営するスキルアップAI社の田原様のお話を聞くことのできるという、まさに千載一遇の大注目イベントです。

アーフィ:さて、今回のイベントもいよいよ大詰め。最後はトークセッションです。

インジェ:参加者の皆さんから寄せられた質問に対して、講演者の皆様にご回答していただく形式で行われました。

アーフィ:全部で12問の質問にお答えいただきました。それではさっそく、1つめの質問から見てみましょう。


目次

Q1 ある課題に対して、弱教師付き分類を試してみたいとなった場合、公開されているアルゴリズムなどはありますでしょうか?

杉山先生:大学の研究室の学生たちがGithubにいろいろプログラムを置いてあるものがあるので、それで最低限の実験はできるかと思います。
実際に企業で使うには、もう少し独自に設定する必要があるかもしれません。かんたんなものであれば、データを入れればそれで結果が出ます。

アーフィ:GitHub(ギットハブ)は、ソフトウェア開発のプラットフォームですね。さまざまなソースコードがホスティングされていますので、AI開発にも利用できそうです。

Q2 理研AIPで学習を行うときに使っているコンピュータの環境を知りたいと思います。

杉山先生:理研のAIPセンターは、「RAIDEN」というGPUのシステムを使っています(関連記事1関連記事2)。NVIDIAのDGX-1を54台揃えました。
一般的に見ると非常に恵まれた環境ではあるのですが、人数が多いので、使おうと思ってもなかなか順番が回ってこないというのが正直なところです。
東大の研究室の学生も理研のRAIDENを使えるのですが、結局研究室の遅いマシンで実験をしている状況です。どこにいっても常に計算パワーが足りないというのが現状です。

インジェ:これは実は日本のAIの国際競争力の観点からみると、非常に深刻な問題なのではと思います。こんな記事(東大 松尾豊准教授らが日本のAI研究に警鐘、目を向けるべき「5つの事実」|Beyond)もありました。

アーフィ:そうですね、文教にも産業にも役立つわけですから、国としてもっと重点的に予算支援して欲しいところです。


Q3 GoogleのMLKitなど機械学習のAPIとして提供されることが多くなってきましたが、自分たちで1からモデル作成などを行うようなビジネスはどのようになると思いますか?

書上さん:AIのモデルのマーケットプレイスをつくる動きはいくつかの会社ですすめられています。作った人に対してお金が支払われるような課金モデルです。
まだリリースはされていませんが、今後出てくるのではと思います。

アーフィ:特許ですとひとつひとつ相手方と細かい使用許諾契約を結んだりするのが大変かもしれません。書上さんのおっしゃったようなAIモデルのマーケットプレイスができれば、今までに作られたAIモデル資産の活用がすすみそうな気がします。

Q4 機械学習は日々膨大な論文が出されていますが、ビジネスでそれらを活かすためにはどのようなキャッチアップをするのが良いでしょうか?

田原さん:論文は英語なのでハードル高いと感じる方が多いかもしれません。また、杉山先生がおっしゃっていたように、専門家でも現状全ての論文に目を通すのは数が多すぎて不可能になっています。ですので、キュレーションしてくれる人を見つける必要があると思います。 実は本イベントの2日後に、DL(Deep Learning)最新論文講座をやります。講座の内容としては、DL専門のスキルアップAI講師陣が20本程度のDL主要論文を解説するというものです。 AIエンジニアは、E資格取得で満足せず、自ら最新情報にアクセスして自走できる人になる必要があると思いますので、そのキッカケとして活用してもらえればと思い開講しました。 実際は、自分の関心のある分野だけにフィルターをかけて見るようにするでも十分だと思います。 講座で全体のマップを手に入れていただいて、興味のあるところだけをザッピングするのがいいのではないかと思います。いきなりarXivを読むのはビジネス側の人にはきついでしょう。

杉山先生:今のはいい話ですね。私の研究室でも50人くらい学生がいます。1人1本論文を読んで、1論文を1スライドで発表する。そうすると、1人1分ほど話したとして、1時間で50本読めることになる。
こういうのはみんなでやったほうがいいですね。自分が少し貢献すればたくさんもらえることになります。

インジェ:AIの最先端をフォローするのは一人では不可能でしょうから、発表会形式はとても有効に思えます。

アーフィ:自分の発表する論文を自由に選べるとして、発表会当日に複数の人が「自分もその論文で発表しようと思っていた」ということになったら、結果的にその論文の注目度や重要度が浮き彫りになったりするかもしれません。

Q5 AIだと様々な特許があると思いますが、実際のプロダクトを勧めていく時に気をつけたほうが良いことなどがありましたら教えて頂きたいです

書上さん:Googleなど、どちらかというと保守的に特許を取っているところが多いです。使わせないというのではなく、訴えられないように、というオープンな姿勢です。
AIのモデルで特許をとるのは難しいと聞いていて、どちらかというとビジネス特許(サービスやインターフェイスなど)のほうがとりやすい、というか、とるべきです。
モデルでの特許取得はあまり考えなくていいのかなというのが個人的な考えです。

杉山先生:モデルやアルゴリズムで特許をとると悪者にされる時代ですよね。多くの会社が使うモデルやアルゴリズムなどは公開していく方向です。
一方で、ビジネスモデルは特許が取ってあるので、あまり自由に使うとうっかりどこかでひっかかることもあるかもしれません。

アーフィ:モデルやアルゴリズムに関しては他者の利用を妨げないようにすること、一方でビジネス競争力のコアになる部分に関しては特許等によって権利者が他者から保護されることが大切なんですね。

Q6 他にJDLAに認定されている会社はありますか?

田原さん:あります、7社ぐらい。今後さらに増えていく見込みです。

インジェ:日本のAI界において、JDLAの役割が広がっていきそうですね。

Q7 AI技術がインターネット技術のように大衆化されたとき、どんな社会システムが出てくると予想しますか?

杉山先生:低いレベルで考えると、WordやExcelを使うように機械学習をやるのは当たり前になる時代が来るのかなという気がします。
その先は普通では想像できないです、小説とかSFみたいな話になります。サイエンスの研究者としては言わないほうがいいということにしておきます。

田原さん:様々な産業にAIを導入されると、余暇時間が増えるのではないか思います。 そうなったらトライアスロンに復帰したいなと(笑) ただ、実際は必要とされるスキルセットが変わり、今は想像もできない仕事が新しく出てきて、社会システム自体はそれほど変わらないかもと思っています。

書上さん:インターネットとAIをシンクロさせて考えてみると面白いと思います。
パソコンはWindowsやMacなどのOSを通じて誰でも操作ができるしインターネットもできる。別にパソコンの深い知識がなくても高度なことがみんなできるようになりました。
同じように、機械学習やAIもインターフェイスを工夫すれば、小学生でも使えるのでは。最近だとipadを幼稚園の子供が使っています。
いろんなことができる世の中になりそうだと思いますが、社会システムにどのような影響があるかとなるとわからないです。

アーフィ:AIによって社会がどう変わっていくのか。いろいろと想像してみるのもいいかもしれません。

Q8 今年の1月にピーター・ストーン教授らの「Deep TAMER」の学習法についてはいかがでしょうか?

杉山先生:新しい話を批判するのは危険ですのでやめておきましょう。まだ評価が定まっていないので。
論文でいい結果が出たといっても信用できないケースもあり、慎重に判断する必要があります。ニュース記事になったりして話題になっても、学会レベルでは誰も気にしていないということもあります。
有名だからといって信じるとあぶないケースもありますので、今は判断できないところです。

インジェ:ストーン教授らの論文(Deep TAMER: Interactive Agent Shaping in High-Dimensional State Spaces)の要約は、こちらで見られます。

アーフィ:最新の成果はフォローしつつも、評価や判断は慎重にしたほうがよさそうです。

Q9 時系列データに対するベイズの応用事例で、最近の動向で面白いものはありますか?

杉山先生:時系列は難しいです。
データが独立に出てきているという大前提で、独立なデータがn個手に入ればどのくらいの速さで誤差が減るかと。
今までのアプローチでは、差分をとったりして工夫して独立なものを作り出して、普通の機械学習に持ち込んでいました。これはこれで今も有用です。
一方で、いくらがんばっても独立なものが作れないときもあります。時系列を作るメカニズムをしっかり学習しようというのが、一定の勢力として研究がすすんでいます。

アーフィ:さまざまなアプローチがあるんですね。

インジェ:新しい手法は、理論の研究から生まれるのか、現場での試行錯誤から生まれるのか、興味深いです。

Q10 最近の海外のAIビジネスで、面白い取り組みなどありましたら教えて頂きたいです

田原さん:最近あまり追えていないので、今度書上さんと一緒にシリコンバレーに行って、現地の会社を数社訪問する予定です。

書上さん:最近ではないんですが、自分がこのAI業界に身を投じてから一番面白かったのは、2年前の NVIDIAのイベントです。
そのイベントで最初に流れた音楽が、実はAIがつくったものでしたと最後に紹介されました。こんなオーケストラのかっこいい曲をAIがつくるようになったんだと。
国内の事例は、私の会社(KICONIA WORKS社)がいろんな会社の裏側で動いているので、発表できないです。いろいろおもしろいことをやっているんですけど。
アニメーションをAIでサポートするのが増えてきています。白黒で描いたものに色を付けたり、5秒おきに描いておけばAIがその間の動きを補ってくれるなど、クリエイターを支援してくれます。

インジェ:昔の白黒写真や動画に色を付けたりできるのは知っていましたが、動きの補間までやってくれるんですね。

Q11 大量データセットのうち、ノイズが多く含まれているデータを見つけて排除するにはどうしたらよいでしょうか

杉山先生:技術的には2つのアプローチがあります。
まず、ノイズにロバストな学習法を使ってそのまま学習する方法。ノイズが混ざっているがなるべくその影響を受けないようなアルゴリズムを使います。そこそこのノイズであればそれで大丈夫です。
ただし、めちゃくちゃなノイズがあるときは、事前に異常検知をして取り除く必要があります。
先ほどの講演での例は、その中間のようなケースになります。フィルタリングしながらノイズの少ないデータを教え合います。
この2つのどちらかを使うかはユーザが決めなければいけないですが、最近はこの2つが融合して、いいとこどりのアプローチができつつあるところです。深層学習に依存するので今風でおもしろいところがあります。

アーフィ:現実のデータはノイズを含むものが多いでしょうから、そのようなデータでも学習できるような手法の開発は大切ですね。

Q12 杉山先生から見たスキルアップAIの教材のレベルを教えてください

杉山先生:AIを教えている会社はいろいろありますが、数学をやっているところは少ないです。やはり数学はそれなりに必要で、ちょっとでも苦労してやっておけば、あとで楽が出来ます。スキルアップAI社はそこを重視しています。
みなさんの判断ではありますが、技術の深いところに入ろうと思うと数式は避けられないところですので、長い目で見るとちょっとやっておけば5年後に差が出るかなという気がします。

アーフィ:基礎からじっくりAIの知識を固めるのに役に立ちそうですね。

インジェ:以上でトークセッションは終了となります。おつかれさまでした。

フィナーレ

アーフィ:この後、短い時間でしたが、交流会が催されました。

インジェ:講演者の皆さんに直接質問したり感想を伝えたり、参加者同士でのコミュニケーションを深めたりと、こういったイベントならではの充実した時間をそれぞれ過ごされたようです。

アーフィ:最後になりましたが、今回のイベントはForkwell様とリンクアンドモチベーション様がスポンサーについていただいたおかげで実施することができました。この場をお借りして深くお礼申し上げます。

インジェ:2社様のウェブサイトをご紹介いたします。ご興味を持たれた方はぜひご覧になってみてください。

Forkwell – 成長し続けるエンジニアを支援するサービス
Forkwellは、ポートフォリオサービスにより、ITエンジニアのスキルやプロフィールを可視化、成長のきっかけを提供し、「コードを書く人が評価される」世界の実現を目指します。


リンクアンドモチベーション
リンクアンドモチベーションは独自技術「モチベーションエンジニアリング」によって、「自ら動く個人」と「戦略を実行する組織」をリンクさせます。


アーフィ:以上で今回のイベントは終了です。いかがでしたでしょうか。

インジェ:前回は応用事例の紹介が多めでしたが、今回はノウハウや理論のお話が多かった印象です。

アーフィ:AIや機械学習は日々進化していますし、定期的にこういったイベントがあったらいいですね。

インジェ:そうですね、講師の方たちと面識ができるチャンスもありますし、たまたま隣に座った人とのビジネスにつながっていくかもしれませんし。

アーフィ、インジェ:それではまた次回、お会いしましょう。

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