eKYCサービスを展開する株式会社TRUSTDOCKのCTOの荘野さんは、「社会インフラを作りたい」と話します。エンジニアとしてのキャリアは保育園の頃から始まり、自作のホームページ制作、マークアップエンジニア、Webプログラマー、インフラエンジニア、テックリード、CTOと活躍の幅をどんどん広げていきます。CTOになった今でも、プライベートで開発に時間を割いている荘野さん。そして、荘野さんが考える社会インフラとはどんなものなのでしょうか。
あらゆる業種、業界で求められるeKYC※プロダクトの開発を牽引する荘野さんに技術への探究心、創りたいものについて深く聞いてみました。
※eKYCとは:「electronic Know Your Customer」の略語であり、オンラインで本人確認を行い、顧客の身元を知ることを意味する。詳しくはこちら

コンピューターとの出会いは保育園、その後専門学校で恩師と出会いエンジニアリングの世界へ

―荘野さんはマークアップエンジニア、バックエンドエンジニア、インフラエンジニア、テックリード、CTOといったキャリアを歩まれていますが、コンピューターに興味を持つきっかけはどんなものだったのでしょうか?

保育園の時に、父親が持っていたPC98でシューティングゲームをしたのがコンピューターとの出会いです。小学生になると、学校にパソコンが導入され授業でWindows 95に付属しているペイントを使って絵を書いたりしていました。この時期にWebにとても興味を持ったことがきっかけで、中学校の部活動ではパソコン部に入部しました。パソコン検定4級の資格を取得したり、Windows98に付属していたMicrosoft Frontpage Expressを使ってホームページ制作をしたりしていました。当時は自分でホームページを作って公開することが流行っていたので、私も無料のレンタルサーバーを借りてホームページを公開することに挑戦したりしていました。

―幼い頃からコンピューターに慣れ親しんでいたんですね。当時はどんなページを作ったのでしょうか?

最初はゲームのファンサイトでした。自分でHTML/CSSを手打ちで書いていて「インターネットを使えば、同じ趣味をもった見知らぬ人とホームページ上で交流できるんだ」と初めて気づいた瞬間でした。そこからかなりのめり込んでいきました。

―ホームページを自作した経験がルーツとなり専門学校ではWebデザイン科を専攻されたのでしょうか?

それ以降、プログラムに興味はあったものの「HTML/CSSをもっと追求したい」という気持ちが強まり専門学校のWebデザイン科に入学しました。そこで、プログラミングの価値観が大きく変わるきっかけとなる恩師に出会いました。

本来、HTMLはいわゆる文章構造を意味付けする(マークアップする)ための言語ですが、当時のHTMLはホームページの見た目を表現するためだけに使われていました。恩師からは、HTMLで正しく文書構造をマークアップすることによる重要性や、それによって得られることを学びました。

例えば、正しく文書構造を意味付けすることにより、機械が文章をパースしてプログラム処理に活用することができます。それまで独学でHTMLを学んでいたこともあって、この学びは目から鱗でした。
セマンティックWebを追求することで、インターネット上の情報の利活用がより行いやすくなること、また、それを追求している人が当時はまだそれほどいなかったことから、もっと自分でも技術を追求していきたいと思いエンジニアを志しました。

マークアップエンジニアをフルスタックエンジニアへ導いた飽くなき好奇心

―その思いから、ファーストキャリアの選択につながるのでしょうか?

新卒でガイアックスを選んで、日々HTML/CSSのコーディングを行っていました。プライベートでも、個人開発するほどプログラミングにハマっていました。当時は、Twitterが日本に上陸したタイミングでPCでしか利用できず、ガラケーからはTweetができませんでした。そこで、PHPでガラケーからツイートができるTwitterクライアントを趣味で作成していました。

―システム開発に携わるようになったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

TRUSTDOCK 現COOであり、当時の同期であった菊池に声をかけたいただいたことがきっかけで、菊池がテックリードとして進めていたCakePHPを使った企業コミュニティサイト構築プロジェクトのメンバーになり本格的にシステム開発に携わりました。この時はセッションやMVCなどの基本的な概念に触れるのも初めてで、メンバーにフォローしてもらいながら試行錯誤の毎日でした。

その後、菊池がチームリーダーとして新しく開発チームを作る際に、別のチームにも声をかけてもらい本格的にWebエンジニアとなりました。

最初は右も左もわからない状態でしたが、それでも自分がプログラマーとしてものづくりができることに非常にワクワクしていたことを今でも覚えています。
開発チームに所属するまではHTML/CSSをコーディングして画面を作成することが中心でしたが、開発チームに所属してからはデータの流れやビジネスロジックを自分で考えながらコーディングできるようになりました。この時から「もっと自分でものづくりをしていきたい」という気持ちが強くなっていきました。

―その後、インフラエンジニアへ転身されています。その挑戦のきっかけを教えて下さい。

開発プロジェクトに携わる中で、アプリケーションを動かす基盤であるインフラについて興味が湧いてきました。開発したアプリがどういった環境・サーバーで稼働しているのか、データのやりとりを行うネットワーク構成がどうなっているのかもっともっと追求していきたいという気持ちになりました。そこで、当時のインフラチームの部長に自ら相談し、インフラチームに転籍させてもらいました。

―実際にインフラエンジニアへのキャリアチェンジしてみていかがでしたでしょうか?

インフラエンジニアとしてチームに入ってからも、分からない事だらけでした。Unix/Linux、OSI参照モデル、TCP/IP、物理/論理ネットワーク、データセンター作業、サーバー/ラック/スイッチ、ルーター/ファイアウォール/ロードバランサーなどをチームの先輩方に教えてもらいながらひたすら学びました。

これまでアプリケーション開発だけを行ってきたところから、それを動かすために必要なインフラの仕組みの理解、自身での構築を行えるスキルが少しづつ身についてきました。また、このタイミングでAWSが一般的に利用されるようになり、クラウドにも触れることができたのも、大きな体験です。

フロントエンドから始まりバックエンド、インフラの各領域の技術を会得していくにつれて少しずつものづくりを自身の手で行える実感が強くなっていきました。

CTOに就任し、プロダクトと組織への責任感が強まった

―TRUSTDOCKへの入社しCTOになったきっかけを教えて下さい。

TRUSTDOCKでは、プロダクト開発の初期フェーズからテックリードとして参画し、技術選定から担当しました。その時のエンジニアは私を含めて2名で、どちらもRubyエンジニアです。また、スタートアップとしてスピードを重視した開発を行えることを重要視し、Ruby on Railsをフレームワークとして選定しました。

当時TRUSTDOCKは、刻々と変化するeKYC市場と最新技術に向き合いながら技術選定やUI/UXについて推進するCTOが必要になるという局面を迎えていました。

そこで、テックリードとして技術面全般を私が見ていたことが、お声がけいただいたきっかけです。

―CTOになってからは、荘野さんにどんな変化がありましたか?

これまでは、企業に属するひとりのエンジニアとして、自分が担当する範囲でのエンジニアリングに集中する意識が強かったですが、CTOになってからは「プロダクトを作ることの責任感」がさらに強まりました。TRUSTDOCKが提供するeKYCプロダクトをもっと世に広めたいという気持ちや、TRUSTDOCKが課題解決するための技術的な課題を”自分が”取り組んでいくという気持ちが一層強くなり、世の中を良くするための技術を事業的にも経営的にも両立させたいと思うようになりました。

具体的にCTOとしてチームビルディングするに当たり、主に「標準化」「セキュリティー」「変更可能性に強いチーム」の3つを大切にするよう心がけるようになりました。

特に標準化については、機能開発の要望があった特定のお客様や業界の課題を解決する機能ではなく、その先のすべてのお客様に対し有益な機能であるかという観点で開発を進めるように心がけています。

―現在は具体的にはどんな課題に取り組んでいるのでしょうか?

プロダクトの成長に合わせたエンジニア組織の拡大です。

TRUSTDOCKに今どういったエンジニアが必要なのか、複数人開発を行えるチームはどういうものか常に考えています。市場やニーズの変化、メンバーの成長など、常に状況が変化していく中で、思考をとめずチームパフォーマンスが最大化される組織を目指しています。

特に、役割分担コミュニケーションに関しては、開発方針に齟齬がなく相互理解が深まるようにかなり気を配っています。

例えば、入社後自分がいままで一人で担っていたところをチームに権限移譲ていく過程で、設計や実装の考え方を共有して、メンバーからもフィードバックをもらい、相互理解を深めることを行っています。お互いの理想の実装方針を理解している状態がよりよいプロダクト開発に必要なことだと信じています。

―CTOとして大切にしていることは何でしょうか?

まだ模索している途中ですが、「メンバーと一緒に良いプロダクトを作る」これが一番大切だと考えています。TRUSTDOCKのメンバーはそれぞれスペシャリティがあります。私にはない技術や経験をたくさん持ってます。メンバーの一人一人がものづくりを楽しめるように開発を行っていけば、社会インフラを開発することはできると確信しています。

―”メンバーと一緒に良いプロダクトを作る”ために心がけていることはありますか?

エンジニア組織全体を成長させる仕事をするために、私自身はTRUSTDOCKの将来に必要な技術をキャッチアップする時間を取るようにしています。

機能開発をするラインをつくって、そこで新しく入った人がどうやってディレクションを行えば良いかを示す。ボールがこぼれそうになった時、悩みや困りごとがあった時の相談相手になる。自分がメインでコードを書くことから一歩引いて、TRUSTDOCKの全体の技術の方針や仕様を決めるところにフォーカスする。TRUSTDOCKのAPIデザインやアーキテクチャ設計、言語選定などの技術の方向性の旗振りにより注力するなどしています。

これからもCTOとして、「TRUSTDOCKにはどんなエンジニア組織が理想であり、理想を現実にするにはどうするか」について常に考えていきたいと思います。

Suicaのような「社会インフラ」をつくる 

―荘野さんの夢をお伺いしてもよろしいでしょうか?

TRUSTDOCKのeKYCプロダクトを「社会インフラ」にしたいと考えています。

社会インフラの例としてSuicaがあります。もとは交通インフラだったところから、今では電子マネーとして社会インフラにまで成長しているプロダクトです。

一日4,000万件もの処理があり、1件当たりの処理は0.1秒以内に完了しますし、今までで大規模な障害が起きたことがありません。ユーザー層も幅広く、今や若者からご高齢の方までSuicaを使って生活しています。これはUI/UXが非常に優れていることの証明だと思います。

Suicaの例より、社会インフラとなるには、「1.利便性(誰でも扱えて便利である)」「2.正確」「3.即座に行える」の3つの条件を満たす必要があると考えています。

―TRUSTDOCKも社会インフラを目指しているんですね。

eKYCもまさにSuicaと同じような社会インフラを目指しています。

本人確認も、圧倒的なトランザクションがありますし、その上でエラーが起きてはなりません。そして、年齢やITリテラシーに関わらず、どのユーザーにとっても便利で簡単に行える必要があります。

日本のeKYCは、海外のeKYCと比較してもまだまだ過渡期でもっと便利な世の中にできる市場です。数年後Suicaのように誰にでも使ってもらえる社会インフラを作るこれが今の自分の夢です。

―「社会インフラをつくる」ために、荘野さんが大切にしていることはありますか?

「ものづくりの楽しさを忘れない」ことを大切にしています。サービスを作ることに対するわくわく感、作る事自体の楽しさ、「もっと良いものを作れるはずだ」という追求心を忘れないようにしています。

「一つの強み」が、夢をはっきりした目標に変えてくれる

―「今後のエンジニアに求められるもの」どんなものだと考えていますか?

1つでも「強み」と自信を持って言えるものがあるかどうかだと思います。フロントエンドでも、バックエンドでも、インフラでも良いのですが、強みが一つあれば、それを軸に派生して周辺の領域の理解を広めることも深めることができます。広げて深めていけば、自分がエンジニアとして成し遂げたいことや、表現していきたいことが明確になりやすくなります。そのために必要なことが明確になり、どんどん叶えられるようになっていくと考えていくという好循環に入ると思います。

―荘野さんはキャッチアップするために普段から行っていることはありますか?

記事を毎日チェックしたり、新しい技術が出来たら試してみたり、週末も趣味でプログラミングをやったりしています。個人でサービスを作っていく中で、業務に生かせることもたくさんあります。四六時中技術のことを考えていますし、そのことが楽しいと感じながら生活できています。

―今でも貪欲に技術習得されているんですね。

そうですね。上手くできないことや理解できなくて辛い時もやはりありますが経験を積むことで新しい技術へのキャッチアップスピードが上がっていることを実感しています。概念に対しての理解はできても、どのように活用するのかや仕組みが分からない時があると、その状態で一旦寝かせたりします。すると、分からなかった部分にある日突然フォーカスされる時があります。分からなかったところに新しい発見が加わることで、ひらめきにつながり、理解が進むんですよね。理解するために技術に触れる、考え続ける、寝かせる、フォーカスされる。この連続で技術への理解は深まり、エンジニアとして成熟していく道を歩めるのだと思います。

TRUSTDOCKでは自走力のある仲間を募集しています

―事業の成長スピードが増しているTRUSTDOCKでは、どんなエンジニアを求めていますか?

弊社はスピーディーかつ安全なオンライン本人確認(eKYC / KYC)を実現するサービスを提供しています。エンジニアチームは、eKYCプロダクトを「社会インフラ」になるべく、日々プロダクトに磨きをかけています。そのため、当社で力を発揮いただける方の特徴を次のように考えています。受託開発ではなく「標準化」を志向するプロダクトであるため、与えられた仕事をこなす以上に、自ら課題を見つけて課題解決を進めていく仕事のスタイルのひとです。弊社のエンジニアは、全員が自走力があります。

取材を終えて

『自分にない技術や経験をたくさん持っているメンバーがいる』、『メンバーと一緒に良いプロダクトを作る』などチームとしての成果を重んじる発言が印象的でした。

その根底には、インターネットを通じれば多くの人と繋がれるという原体験が影響しているように感じます。最高のチームを目指すこと、社会インフラを作ることに挑戦するTRUSTCDOCKさんのこれからが楽しみです。

プロフィール

2007年にマークアップエンジニアとして株式会社ガイアックスへ入社。2009年からはWebエンジニアに転向し、主に社内システムの開発に従事。その後はインフラチームに所属し、各事業のインフラ基盤を担当。2015年からシステム障害の対応に特化したインシデント管理ツール「Reactio」の新規開発に取り組んだ後に、2016年に創業期のTRUSTDOCKに参画。TRUSTDOCKではテックリードとして顧客の課題解決を技術の力で導くために技術選定などを行う。2019年7月からCTOに就任し、「本人確認APIプラットフォーム」やeKYCに対応した「身分証カメラアプリ」の開発及び統括、技術の責任者としてプロダクト戦略の策定に携わっている。東京工学院専門学校 Webデザイン科卒。

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