今回は、株式会社ガラパゴスでCTOを務めている、細羽啓司さんにインタビューをお届けします。28歳の時に、会社の同僚4人とガラパゴスを起業。2021年9月にはシリーズAラウンドで約11億円の資金調達に成功し、急成長を遂げている注目の企業です。しかし、今の事業にたどり着いたのは起業してから約10年後のことだそう。何度も事業をピボットし、ガラパゴスを開花させたきっかけは、「マーケットイン」の思考を磨いたことでした。本記事では、ガラパゴスの成長をCTOとして支え続けた細羽さんのキャリアに迫ります。

大学に入って初めてコンピューターに触れる:エンジニアになるきっかけは大学での研究

ーエンジニアになろうと思ったきっかけを教えていただけますか?

正直、これだというきっかけはないんです。コンピューターを初めて触ったのも大学に入ってからでした。ただ、当時はちょうどGoogleやAmazonのようなグローバルなWebサービスが日本に進出し始めた時期で、インターネットやWebサービスの利便性に興味を持ち始めます。これがきっかけで、大学ではネットワークの研究を行っている研究室に入りました。強いて言えば、これがエンジニアになったきっかけですね。

ーインターネットへの興味が、アプリケーション側ではなく、ネットワークに向いたのが興味深いと思いました。何か理由があるのでしょうか?

“インターネットそのもの” の構造に興味を持ったからですね。幼少期からブラックボックスの中に興味がありました。例えば、おもちゃがどのようにできているのか気になり、壊して確かめるとか。構造や仕組みへの好奇心が、ネットワークへの興味につながったのだと思います。

ー学生時代にコードを書くことはなかったのですか?

とあるスタートアップでプログラマーとしてインターンをしていたので、コードは書いていました。とはいってもそれほど難しいことはしておらず、簡単なプログラミングだけです。インターンを通して、ソフトウェア作りのおもしろさを感じました。大学・大学院でのこれらの経験がきっかけとなり、卒業後にエンジニアとしてキャリアをスタートさせました。

新卒メンバーが中心のチームで課題解決に奔走する

ー新卒ではどのような企業に入社されたのですか?

インクスというコンサルティング・システム開発会社に就職しました。選んだ理由としては、今で言うIoT+AIみたいなものなのですが、 “ユビキタスコンピューティング” という当時業界を賑わしていたキーワードへの興味があったからです。同社では、工場という物理世界のオペレーションをデジタル技術で効率化する事業を行っており、ユビキタスコンピューティングの社会実装に携わりたいという、当時の自分のやりたいことが実現できそうな気がしました。

ー入社後はどんな業務に就かれていたのですか?

入社前から関わりたいと思っていたプロダクトがあったので、最初の研修で猛アピールしたんです。しかし、そのプロダクトが入社直後にクローズ。どうなるのかと思っていたら、新卒メンバーが中心のチームで3Dプリンター工場の業務改善プロジェクトに配属されたんです。私はエンジニアとして、工場での一連の製造を管理する業務システムを開発しました。技術としては、JavaやOracleを使用しました。実際に現地の工場に入って働いていたので、手触り感を持って仕事ができたのはおもしろかったですね。このプロジェクトには約2年ほど携わったのですが、現場の方々と密にコミュニケーションをとって課題解決に向けて伴走できたことは、良い経験となりました。

ーその後はどのようなプロジェクトに入られたのですか?

次に、製造業の製品設計情報を管理するプロダクトのメジャーバージョンアップに関わりました。アーキテクチャからの刷新や機能追加など、かなり大規模なプロジェクトでした。私が担当した領域は、それまでお客様から欲しいと言われていたけど、対応できていなかった機能の開発。具体的には、製造情報が記載されたドキュメントの全文検索やバージョン管理などの開発を、モジュールごと任せてもらえました。従来はOracle Textが採用されていたのですが、不安定だったということもあり、システムのベースとしてLuceneで開発することに。このプロジェクトはかなりタイトなスケジュールでやり遂げました。本当にゼロ0からのアプリケーション開発だったので、インクスで一番やりがいがある仕事でしたね。

学習支援サービスで起業:自社サービスを作りつつ、iOSアプリ開発に全振り

ーどのような経緯で起業にいたったのでしょうか?

現CEOの中平と現COOの島田、もう1人のエンジニアと私の4人で起業しました。起業のきっかけは、もうひとりのエンジニアが「会社をやりたいから手伝ってくれないか」と私に相談してきたことです。具体的な起業プランはなかったのですが、学習支援のプロダクトを作ることになりました。そこで、資金確保のためにIPAの未踏プロジェクトに応募したのですが、結果は2次面接で落選。予定通りではなかったのですが、4人で会社を辞めてガラパゴスを創業しました。学生時代からWebサービスの開発に携わり、技術的な面での知識や経験があったので、私がCTOに就任しました。

ー起業するにあたって不安はなかったのですか?

当時は28歳と若かったためか、不安はなかったですね。私自身、大学生の頃からスタートアップ的な感じで、0→1の立ち上げをやりたいと考えていました。しかし、自分ひとりで立ち上げるほどの熱意ではなく、どちらかというと「優秀な仲間と一緒にやりたい」と思っていたので良い機会だったんです。

ー起業直後は、順調だったのでしょうか?

いいえ、順調ではなかったですね。学習支援サービスをやろうと起業したのですが、資金確保のために受託開発も行っていました。ご縁があり、ガラケー向けの学習支援サービスの共同開発を行ったのですが、うまくいかず。起業してから半年間はひたすら資金を垂れ流していましたね。しかしちょうどその頃、iPadが発売されたんです。これが弊社としての1つの転換点になります。メンバーで「これからiPadやiPhoneのアプリが来るんじゃないか」という話になり、一旦そちらの受託開発に注力することにしました。この事業は今の当社にも、『Air Design for Apps』というかたちで残っています。アプリ開発に着手してから約1年間は、SNSの勃興期ということもあり、並行してFacebookアプリの開発やTwitter Botの運用代行なども行うなど、時代の波を掴もうとしながらサービスを展開していました。最終的には、スマホアプリの開発が一番成長しそうだという判断にいたり、リソースを全振りすることにしました。

ー受託開発をしながら、自社プロダクトも開発されたのですか?

はい、定期的に自社アプリも出していました。当時は、アプリで一発当てて大きく儲けるという潮流があったので当社もそれを狙っていたのですが、どれも事業としては成長せず。お客様のアプリ開発の支援はうまくできたのですが、自社アプリでの成功は難しかったです。

お客様のペインと徹底的に向き合い、マーケットインの思考を磨く

ー受託開発を続けながら、どのようにして現在の事業領域にいたったのでしょうか?

現在、デザイン領域で事業を展開している当社ですが、そのきっかけはAIの台頭です。当社には、新しい技術に対して常にアンテナを張っているメンバーが多く、日頃から事業に転用できないかをみんなで考えていました。そんな中、AIが自動で絵を描く光景を目にします。大きな衝撃を受けたと同時に我々は、「AIを使ってデザインを自動で制作すればすごいことが起きるのでは?」と考えたんです。そこで、研究開発的にインターネット上で入手できるロゴデザインをAIに学習させました。しばらくしてから本格的に事業化するべく、要件を入れるとロゴが自動生成されるシステムの作成に着手。まずはじめにGANを使用してみたのですが、精度がそれほど高くありませんでした。ロゴは、アートというより幾何学的な意味が強いので、GANだと要件とは程遠いものになってしまったんです。そこで、GANでロゴをはき出した後に、人間が加工する仕組みを作りました。この手法で1件売れたのですが、GANでロゴを作るにはまだ技術的に時期尚早だと判断。舵を切って、ロゴ制作における人間のプロセスを見つめ直すことにしました。AIはあくまでも手段なので、本質的な課題を見つける必要があったんです。制作プロセスの録画やデザイナーさんへのヒアリングを重ね、プロセス全体を整理。すると、最初の “着想部分” に一番時間が使われていることがわかりました。「じゃあこの領域を支援していこうよ」となり、その手段としてAIを使うことにしたんです。具体的には、AIでそれまで当社が集めていたロゴのデータを検索できるシステムを開発しました。あくまでもロゴは人間の手で作り、着想部分をAIで支援するというこのシステムで、ロゴ制作の生産性を1,500倍にまで向上させられたんです。最終的には、アルバイト十数名体制で、月間数万個のロゴを提案できる仕組みを構築できたのですが、収益性が悪く撤退を余儀なくされました。

ー撤退後はどのようなプロダクトを作られたのですか?

その後、現在の弊社のメインプロダクトである『AIR Design for Marketing』にいたります。きっかけとしては、B-SKETというアクセラレータプログラムへの参加です。『起業の科学』の著者である田所さんのサポートを受けながら、AIR Design for Marketingの原型となる事業案をブラッシュアップさせていきました。その中で大きく変わったことは、プロダクトアウトからマーケットインへの思考の転換です。お客様のペインと徹底的に向き合いました。最終的に、Webマーケティングの担当者のペインに着目。彼らがデザインやLPの制作を発注する際に、どの制作会社も埋まっているがために、数ヶ月間待たざるをえない状況がありました。このような、デザインを作る側と発注する側双方の非効率を解消したいと思い開発したのがAIR Design for Marketingです。

ーマーケットイン思考でブラッシュアップする過程で、細羽さんが担った具体的な役割を教えていただけますか?

ソリューションがスケール可能かどうかを長期的な視点で検証していました。その中でも意識していたことは、“できるだけ早く仮説検証をする” ことです。HTMLで画面を作ってから検証を実施するのではなく、簡易的にページを作れるツールなどを用いて仮説検証のサイクルを早めました。この一連のプロセスから、「お客様の課題を解決することが一番重要」だと実感しましたね。極論、課題が解決できるのであれば、人力でも問題ないと思います。その人力でやっている部分をどうやってシステムに置き換えていくかを考えることが、私たちエンジニアの役割です。

常に新しい技術にキャッチアップし、お客様の課題を最適な方法で解決

ー様々な経験をされてきた細羽さんですが、その中でもエンジニアとして大きく成長したなと思うエピソードがあれば教えていただけますか?

2つありますね。1つ目は、大学での研究活動です。先述の通り、ネットワークの研究を行う研究室にいました。そこでは、Linux内の端末処理におけるボトルネックの解析など、Linuxのかなりコアな領域を研究していたんです。そのため、コンピューターやOSといった低レイヤーの構造を詳しく理解することができ、アプリケーションなど上位レイヤーのトラブルシューティングがうまくできるようになりました。2つ目は、インクスでの大規模開発の経験です。コミュニケーションの重要性など、組織的なソフトウェア開発のいろはを学ぶことができました。

ーそのような成長機会を経て、細羽さんが今現在CTO・エンジニアとして大切にされていることは何ですか?

お客様の課題解決が本分だと思っているので、お客様の課題を解像度高く捉えることを大切にしています。そのための手段として、常に新しいやり方を模索しています。知識が陳腐化しないよう、新しい技術をキャッチアップする。実際に自分でも手を動かして、確かめてみるといったことを行っています。

ー確実性の高い技術(ソリューション)と新しい技術のバランスは、しばしば議論されるトピックスの1つだと思います。細羽さんは、どのようにお考えでしょうか?

個人的な見解だと、わくわくする方を選ぶのが良いと思っています。一方で、課題解決が一番重要なのには変わりありません。そのため、課題に対する技術の使い方が妥当かどうかは、検証する必要があります。課題の特徴を捉えた技術を選択できているか。ここに納得感があれば、どのような技術でも問題ないと思います。

デザインテックカンパニーとして業界のパイオニアになる

ー次に現在の細羽さんについてお伺いしたいと思います。まず初めに、貴社の事業内容を教えていただけますか?

『AIR Design for Marketing』という、デザイン制作のサブスクサービスを開発しています。具体的には、バナー広告やLP、動画が対象です。勘や経験など、アナログな手法に頼りがちなデザイン制作を、データを駆使した再現性の高いものに替えていきたいと思っています。中でも我々エンジニアは、デザインのデータベース化・定量化と、それをデザイナーさんが活用できる仕組み造りを行っています。デザインデータは、集めても単なる2次元のデータでしかありません。そのため、一つ一つのデザインデータの特徴を機械学習も駆使しながらタグ付けていきます。今マーケットで流行っているデザインや、競合のデザインを収集して分析することで、データドリブンなデザインの制作を実現しました。今後は、キャッチコピーなど、テキスト情報の解析もできるよう開発を進めていく予定です。

ー最終的には、デザイン制作の完全なシステム化を目指しているのですか?

いえ、完全なシステム化は目指していません。理想形は “システム8割・人間2割” だと思っています。まずは人間のプロセスありきで、非効率な部分を効率化するためにシステムの活用方法を考えていく。そのような、人間のクリエイティビティは今後も必要になってくると思います。

ー今後、公私それぞれでの目標や実現したいことはありますか?

ガラパゴスとしては、デザインテックカンパニーとして業界のパイオニアになっていきたいですね。デザイン制作ツールを提供している企業は多数存在しますが、デザイン制作のプロセスをシステム化しようとしている企業はほとんどありません。この未踏の地で、事業を大きくしていきたいです。また、公に通じる部分もあるのですが、個人としては、自分の家族や子どもに誇れる何かをガラパゴスで残したいと思っています。

変化を恐れず、お客様の課題解決に向き合えるエンジニアを募集中!

ー最後に、これからエンジニアとして貴社のメンバーになる可能性がある方にメッセージをお願いします!

AIR Designの開発のおもしろさは、ペルソナとなるデザイナーやマーケターがすぐ隣にいることです。彼らの業務プロセスとソフトウェアが噛み合って1つのプロダクトを作っているので、テクノロジーの力で解決できる課題がそこらへんに転がっています。そのため、現地現物の課題に向き合い、解決していくことにおもしろさを感じられる方にとっては、非常に良い環境だと考えています。また、当社は現在、デザインテックカンパニーとして未知の領域にチャレンジしています。そのため、変化することや、未知の領域・新しい技術へのチャレンジに前向きな方とぜひ一緒に働いてみたいですね。技術的な観点でいうと、今後は機械学習の導入促進やマイクロサービス化を行っていく予定です。アーキテクチャの設計から携わっていただけますので、そういった領域にご興味がある方をお待ちしています!

▼興味がある方はこちらへ▼

https://www.wantedly.com/companies/glpgs

取材を終えて

細羽さんのお話からは、お客様の課題と徹底的に向き合う大切さを感じさせられました。マーケットインへの思考の転換は、間違いなくガラパゴスさんの事業を軌道に乗せるきっかけになったと思います。しかし、その境地にたどり着くまで、何年も解くべき課題と解決策を模索し続けた “諦めない姿勢” こそ、細羽さん・そしてガラパゴスさんの本当の強さなのではないでしょうか。プロダクトづくりに悩んでいるスタートアップをはじめとする企業にとって、「諦めなければいつか道は開ける」という勇気を与えてくれる内容でした。様々な開発を行った上で、デザインテックカンパニーという山に登るガラパゴスさん。業界のパイオニアになる日が待ち遠しいです。

プロフィール:細羽 啓司(ほそば けいし)

東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、株式会社インクス(現ソライズ)にて3Dプリンター工場の業務改善プロジェクトや製造業向けの設計管理ソリューションの開発に従事。2009年にガラパゴスへ創業メンバーとして参画し、大手企業を顧客とするスマートフォンアプリ開発プロジェクトの推進に従事。2020年より「AIR Design for Marketing」の技術部門を担当。

今すぐシェアしよう!
今すぐシェアしよう!