今回は、株式会社estie 取締役CTOの岩成達哉さんのインタビューをお届けします。高専に進学されてから、プログラミング漬けの人生を送られている岩成さん。学生起業やグローバル企業で経験を積み、現在は不動産tech企業のCTOとして不動産業界の変革に挑まれています。そんな岩成さんがエンジニアとして大きく成長できた経験は、心の底からの「プログラミングをやりたい」と思えたコンテスト参加。そんな強い意志に駆られてキャリアを歩まれてきた岩成さんに迫ります。
コンテストへの出場をきっかけに、プログラミング漬けの生活をスタート
ー岩成さんがエンジニアを目指されたきっかけを教えてください。
高専でプログラミングを勉強したのがきっかけです。中学生の頃、勉強すること自体が好きだったのですが、特に理数系の教科が好きでした。自分は理系の人間だと思い、高専に進学しました。オープンキャンパスで少しだけプログラミングをして、面白いと感じたことを覚えています。
ー高専では、どのようにプログラミングを学ばれたのですか?
授業でプログラミングを学びながら、4年生の時には「全国高専プログラミングコンテスト」に出場しました。チームを組み、3ヶ月間で1つのプロダクトを作ってデモを披露するといったものです。ここで初めて授業外でプログラミングを学んだのですが、コンテストへの出場を経て、授業外でもプログラミングをやりたいと思うようになりました。今もそうですが、自分で作ったプロダクトが実際に動くことに楽しさを感じたんです。5年生の頃には、Androidアプリを作って地元のビジネスコンテストにも出場。タブレットでロボットを動かす教育向けのプロダクトを開発し、賞を頂いたんです。
ー素晴らしいですね。コンテストで受賞して、反響や変化したことはありましたか?
レゴの代理店の方々と教育用のAndroidアプリを共同開発することになりました。ビジネスコンテストの審査員に興味を持ってもらい、レゴの代理店関係者を繋いでもらったんです。ちょうど、大学編入で上京するタイミングでした。授業でプログラミングを学びながら、アルバイトでもプログラマーとして働いていました。
学生起業をするも、事業を大きくする難しさを痛感
ー共同開発されていたアプリは、その後どうなったのでしょうか?
レゴの代理店には、コードを書ける人がいなかったので、私と高専時代の友人でプログラミングを行いました。その際、とあるAndroidアプリ開発会社の方に、師匠のようなかたちでついていただいたのですが、かなり厳しいフィードバックを受けたんです。「このコードはやばい。動いているのが不思議だ。」くらいのフィードバックを受けました。自分が今まで井の中の蛙だったことを痛感させられました。それからは、さらにプログラミング学習に力を入れ、試行錯誤を繰り返す日々。最終的にはAndroidアプリをリファクタリングしきり、品質を高めました。
ー事業はどのように変遷していったのですか?
自分たちでロボットの開発をするようになりました。それまでは、レゴ社のロボットを使用していたのですが、「ここまで高性能じゃなくても良いよね。」となったんです。スケールさせるためには、コストの削減が必要でした。そのように少しずつ売れるものとして改良を続け、ビジネスプランコンテストで賞も頂き、学生起業をしました。
ー起業後は、順調だったのでしょうか?
メンバーの就職や資金面等の問題で、思うような成長が出来ず、最終的にサービスをクローズしました。私達が目指していた「プログラミングを道具として誰でもコードを書ける世界」の実現が、当時の状況や我々が行ったアプローチでは困難だと判断したんです。私達のサービスはロボットとタブレットを必要とするので、価格を抑えることが難しかったんです。そうすると、気軽に誰でも始めるという状況ではありませんでした。今であれば、サブスクなどの提供方法を検討することも可能かなとも思えます。その後、リクルートやGoogleでインターンを経験し、リクルートに入社しました。
ー岩成さんは、学生時代にコンピューターサイエンスを学ばれていますが、エンジニアにとってこれらの知識は必要だと思いますか?
職業エンジニアとしては、あった方が良いと考えています。理論を知っていることは、今作っているプロダクトに対する選択肢を増やすことになるためです。「普通にこうするべきだよね」ということが出来ると、後から入ってきた方もコードを理解しやすくなります。しかし、コンピューターサイエンスの知識がないからと言って、エンジニアになれないわけではないです。私自身、文系や初心者の方々にも使えると便利な道具としてプログラミングを学んでみて欲しいと思っていますし、理論は後からでも十分学ぶことは可能だと思います。
グローバル企業で経験を積み、不動産tech企業のCTOに
ーそれでは次に、岩成さんのキャリアについてお聞きしていきます。まずは、リクルートに入社された理由を教えてください。
まず前提として、入社した会社はリクルートHDですが、入社後すぐにIndeedに出向するコースを選考時点で選択しました。そのコースに惹かれたポイントは、英語環境で働ける点です。英語環境で働けることは、今後の自分のキャリアにとってスキルや待遇面でプラスになると考えました。そして、母体のリクルートHDを選んだ理由は、将来的に事業を作る側に回れる可能性を残しておきたかったからです。リクルートHDには、グループ会社に出向して数年後に戻ってくる制度がありました。私自身、エンジニアリングだけでなく、事業作りにも関わりたいという想いがあったので、リクルートを選びました。
ーIndeedでは、どのような業務を担当されましたか?
まず、Indeedは「インターネット上の求人を検索できるサービス」です。私が所属したグループは、「インターネット上の求人情報を発見するチーム」と「見つけた求人情報の更新を確認するチーム」の2つに分かれており、私は前者に所属していました。
ーグローバルなtech企業であるIndeedさんに入られて、勉強になったことはありますか?
tech企業の働き方を知れたことです。カルチャーだけでなく、意思決定におけるデータのとり方へのこだわりなど、エンジニアとして学びになることもたくさんありました。優秀なメンバーも多く、良い環境で働けました。
ーIndeedの後は、どのようなキャリアを歩まれましたか?
Indeed在籍時から副業で関わっていたestieにVPoP(VP of Products)として転職しました。副業をはじめたきっかけは、コロナの影響が大きいです。オフィスに行く機会が減ったことで、メンバーとの雑談や突発的に起こる議論がなくなりました。ちょっと話したい時もMTGを設定してとなってしまいます。このような経緯もあり、自分の成長速度が落ちているなと感じていました。そのため、成長できる環境を求め、副業先を探していたんです。就活時代にお世話になったリクルーターの紹介で、estieに副業で関わることになり、途中からEMやPdMといった業務を勝手にやりはじめて、実際にポジションを任されました。estieで働かせていただく中で、ここでならバリューを出せると思い、転職を決意しました。条件は下がりましたが、estieであれば楽しく働けると感じたんです。また、メンバーの不動産ドメインやビジネスに対する理解の深さも決め手の1つですね。私自身が過去に起業をして上手くいかなかった経験があるので、すごく学びの多い環境だと思いました。
ーestieに入社されてからは、どのような役割を担われているのでしょうか?
様々なデータソースから集まるオフィス情報をユーザに届けるシステムの開発をしています。Indeed時代は、求人情報を集めていましたが、それがオフィス情報に変わったイメージです。その他には、新規プロダクトの開発をしていました。CTOになってからは、組織づくりにも関わっています。昨年の年末ぐらいまでは、ばりばりコードを書いたのですが、今年に入ってから3ヶ月間ほどはあまり書いておらず、マネジメントなどの業務に時間を割いています。これからは少しコードも書きたいとも思っており、状況に応じて自分が一番レバレッジが効く仕事を全うしたいです。
技術で解決するだけでは不十分、技術で事業を推進するのがCTO
ー岩成さんは、どのような経緯でCTOになられたのですか?
estieにはかつて、創業者CTOがいたのですが、辞められたことでしばらくCTOがいない期間がありました。しかし、事業と組織が成長する中で、チームを作っていかなければなりませんでした。また、不動産tech企業として、技術に強みを持った企業だと対外的に示すために、シンボルも必要だったんです。そういった状況で、CEOとVPoE、私の3人で社外から適任者を探したりしていましたが、話し合いを進める中で、内部の人間から選ぶのが良いのではという結論に至りました。そこで私に声がかかったんです。会社のフェーズによって求められるCTO像は異なりますが、現状だと私が適任だとなりました。私自身も挑戦してみたいという想いがあり、お受けしました。
ー岩成さんが考える「CTOに必要な要素」は何ですか?
2つあります。1つ目は、「技術で事業を進められるかどうか」です。メンバーが問題を持ってきて、「こういう技術で解決できるよ」とアドバイスすることも1つの役割です。しかし、「事業を進めるために、こういうことが出来るよね」と伝えるといった、より高次元の自ら問いを見つける役割がCTOに必要だと思います。2つ目は、「組織づくりが出来ること」です。どのようなチームを作るかを考えながら、カルチャーや評価制度を作り上げていく必要があります。
ーいちエンジニアとして大事にしていることはありますか?
まず、プロのエンジニアとしては、「ビジネスインパクトを考える」ということを大事にしています。具体的には、「将来的なリターンを最大化する」ということです。新しい技術の使用を検討する際、今のメリットが小さくても、後々に大きなリターンを見込める場合は、導入して良いと思います。その上で、リスクを最小化しようとする動きも必要ですね。一方で、いちエンジニアとしては、「楽しくやる」ことだと思っています。楽しくないと積極的に学べないのではないでしょうか。自分がやりたいことと、会社がやりたいことのオーバーラップを取ることが一番成果が出るはずです。
ーエンジニアとして一番成長できたと感じたエピソードはありますか?
先述した、高専4年時のプログラミングコンテストへの参加ですね。コンテスト出場までは、授業でプログラミングを学んでいましたが、出場後は自ら「プログラミングをやりたい」と思って取り組むようになりました。プログラミングに対する姿勢が変化したことで、大きく成長できたと実感しました。
「産業の真価を、さらに拓く」:日本の不動産市場をアップデートする
ー貴社の事業内容について、教えてください。
当社は、オフィス特化の不動産tech企業です。「estie」と「estie pro」という2つのプロダクトを開発しています。「estie」は、オフィスの募集情報が見れるサービスです。オフィスを探しているテナントさんと不動産仲介会社さんが出会うプラットフォームで、オフィス版スーモのようなサービスです。ユーザーであるテナントさんが登録をすると、仲介会社さんからオフィスの提案が来ます。成約に至ると、仲介会社さんからフィーを頂くといったビジネスモデルです。
ー「estie pro」はどういったサービスなのでしょうか?
「estie pro」は、オフィス不動産の賃料の市場調査が完結するサービスです。多くのオフィス不動産は、住宅不動産と違い、賃料が公開されていません。理由は、オフィス不動産の方が景気によって賃料が大きく変化するため。テナントさんがインターネット上に公開されている賃料を見た時、自分たちが払っている賃料よりも安いとトラブルになる可能性が出てしまうんです。そのため、多くの不動産オーナーさんは他社の賃料を調べるために多額のコストを割いています。ここに目をつけたのが、「estie pro」です。月額制のSaaSモデルのサービスとして、不動産オーナーや仲介会社、管理会社に賃料付きの募集情報を公開しています。「賃料の情報を提供してネットワークに入ってくれたら、こちらも情報を提供しますよ」という関係性が成り立っているんです。この結果、不動産オーナーは賃料策定業務の効率化を実現できます。また、賃料情報以外に、ビルに入居しているテナントさんの情報も提供しています。不動産業の営業・運営・企画など業務全般に生かしていただくことが可能になっています。このように、不動産業界で働いているプロの方々の生産性を向上させられるサービスが、「estie pro」です。
ー今後、岩成さんがestieで実現したいことは何ですか?
技術を使って価値を出していきたいと思っています。具体的には、マルチプロダクト戦略で、何倍もの価値を提供していくつもりです。今の不動産業界には、「estie」と「estie pro」では解決できない問題がたくさんあります。今後は、そういった「穴」を埋めるサービスを作り、3つ目以降のプロダクトで+1の価値を提供するのではなく、10倍、20倍の価値を出していきたいです。
ー岩成さん個人の夢はありますか?
何歳になっても楽しく過ごしていたいですね。60歳になっても、今のように目標に向かって突き進む人生を歩んでいたいです。
全員が「強い」と思われるエンジニア集団に
ー最後に、貴社が求めるエンジニア像を教えてください。
背中を預けられる「強いエンジニア」を求めています。プロダクト開発は1人では出来ないので、「この人に任せたら大丈夫だ」と思える頼もしい方と一緒に働きたいですね。最近では、Rustの本を書けるような方が入社してくれました。メンバーみんなが「強い」と思われるような組織づくりや、中身が伴ったブランディングをしていきたいと思っています。
取材を終えて
岩成さんのお話からは、「本当にエンジニアリングが好きなんだな」ということがひしひしと伝わってきました。好きだからこそ没頭できる。没頭できるからこそ、スキルアップできる。まさに「好きこそものの上手なれ」を体現されています。キャリアに不安を抱える方が多い現代において、岩成さんの生き方は、多くの人の1つの指針となるのではないでしょうか。60歳になっても今のように人生を謳歌されている岩成さんが、目に浮かびます。
プロフィール:岩成 達哉
島根県出雲市生まれ。松江工業高等専門学校 情報工学科卒業。
東京大学工学部 電子情報工学科入学後、 在籍中に高専在籍時に開発したプログラミング教育教材(Androidアプリ)をもとに起業。
その後、東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻 修士課程修了。 卒業後はIndeed Japanにて3年半ソフトウェアエンジニアとして開発に従事。
2020年10月にestieへ参画。2021年8月にCTOへ就任し、開発チームを統括する。