今回は、株式会社ヘンリー 開発責任者 岩永勇輝さんのインタビューをお届けします。SEである父親の影響を受けて、エンジニアリングに興味を持ち始めた岩永さん。「自分が意味があると思うことをやる」という強い思いを持って、エンジニアリングだけでなく、苦手なマネジメントなどの領域も含めて様々なことにチャレンジされてこられたそうです。何度も壁にぶち当たり、成長してこられた岩永さんがエンジニアとして大切にしていることは、「美しさ」と「直感」。そのお考えに至ったキャリアや価値観に迫ります。
携帯や時計を分解していた少年時代:仕組みへの興味からエンジニアの世界に
ー岩永さんがエンジニアを目指されたきっかけを教えていただけますか?
子供の頃から、ものの仕組みに興味があったんです。携帯や時計を分解して満足し、元に戻さないのでよく怒られていました。また、父親がSEだったこともあって家にコンピューターがありました。小学生時代にその父親から買ってもらったC言語の本を見ながらコードを書いたことが、最初のプログラミング体験です。当初はデザインに興味があったのですが、Flashなどインタラクティブなものに衝撃を受け、徐々にWebに興味が移っていきました。小・中学生時代は、親の知人のLPを制作。高校生時代は、チャットアプリを作り、友人に使ってもらったりもしていました。
ー大学でもプログラミングを学ばれたんですか?
情報システムエンジニアリングの専攻でしたが、あまり授業は聞いてなかったですね。当時、Twitterで技術に関する発信をしていたこともありFICCから声をかけていただいたことでエンジニアとしてインターンを経験しました。
ーインターンでは、どのような開発を行いましたか?
最初はデザインとエンジニアどちらも興味があったので両方やらせてもらいました。しかし最終的にはエンジニアとしての方が価値を出せると感じたんです。それからはフロントエンドを中心に自社サービスの開発に携わりました。FICCは1年ほどお世話になり、さらに別のインターンを経験した後、ウォンテッドリーで働くことにしました。
新卒2期生としてウォンテッドリーへ入社:技術力とマネジメント力を磨く
ーウォンテッドリーを選ばれた理由を教えてください。
昔から「自分が意味があると思うこと以外はやりたくない」と思っていたのですが、代表の仲さんが同じようなことを言っていたんですよね。そこに共感しインターンに参画しました。最終的には社員数20名位のタイミングで新卒として入社することになりました。
ーどのような開発をされていたんですか?
最初はメイン事業 Wantedly Visit の新機能開発をしていましたが、志願して新規事業のチームに異動しました。それからは複数の新規事業の開発に携わりながら主にWeb側のテックリードをやっていました。名刺アプリ Wantedly People のローンチ時は1人でバックエンドを担当。開発期間3ヶ月間という中で新しい言語やアーキテクチャの採用をしながら高速に進めました。
ーデザイン、フロントエンド、バックエンド、モバイルアプリと幅広い開発に関われていますが、どのようにキャッチアップされたのですか?
各領域で少しずつオーバーラップする部分があるので、幅を広げて開発していたら意外とすぐにキャッチアップできたんです。しかし根底には、「プロダクトに対する興味」があったからこそできたのかなとも思っています。
ーエンジニアとして働き始め、苦労されたことはありますか?
ウォンテッドリーでの最後の2年間は海外展開事業の開発マネージャをやっていました。マネジメントに苦手意識があったのであえて挑戦しようと思ったんです。本はたくさん読みましたが、経験不足に加え言語や文化の違いもあり、思うようにいきませんでした。そんな中、あるメンバーから「自分が怖がられている」という話を聞いたんです。そこで自らアンケートを作って全員に回答してもらうことにしました。次の日は人生で初めて仕事に行くのが憂鬱だと思いましたね。それでも必要なことだと思い、回答をスクリーンに映しながら自分自身の言動を反省しつつ一緒に改善方法を話し合う会を企画しました。そういった真摯な姿勢に共感してくれたこともあり、結果的には信頼関係を改善することができました。
ヘンリーの開発責任者に:徹底的に顧客理解を深める
ーその後のキャリアを教えてください。
ヘンリーに開発責任者として転職しました。代表の逆瀬川とは、ウォンテッドリー時代から一緒に仕事をしてきた間柄です。逆瀬川から医療事業をやっていると聞き、最初は副業として関わり始めました。面白いと感じたので、1年ほど経ってから正社員として入ることにしました。
ーヘンリーのどのような部分に惹かれたのですか?
電子化が進んでいないため、まだ非効率な部分が多い医療業界に可能性を感じました。社会的意義があり、しっかり利益が出る領域で事業をやりたいと考えていたので、難易度は高いものの改善できる余地の大きい医療業界は魅力的だと思ったんです。あとは、「ノーベル平和賞を受賞する」という会社のゴールに惹かれました。大きな目標ではありますが、入社前に創業者の2人からゴールに至るまでのパスを聞いて、実現できると思ったんです。世のためになる事業に自分が関わるイメージが持てたことも、入社の決め手の1つとなりました。
ーヘンリーへの入社後について教えてください。
開発責任者として、開発領域全般を見ています。当初は、業界や現場のことが何も分からなかったので、本や医師が書いたブログを読み漁りました。医療関係者へのインタビューや、クリニックの業務見学なども実施し、理解を深めていきました。そこでの考察を元にプロダクトのデザインコンセプトを考え、それをプロトタイプに落とし込んで知人のクリニックに試験的に導入してもらったんです。そこで業務を回してもらいながらフィードバックをしてもらいプロダクトの完成度を高めて行きました。最終的には会計の機能も追加し、実際に売り物として提供できるレベルになるまでには1年半かかりました。
「顧客の課題解決」という本質的な価値提供が重要
ーこれまでのキャリアで、エンジニアとして最も成長できた経験はありますか?
これといったエピソードはないのですが、常に「成長したい」という強いマインドを持って仕事に取り組んできました。若いうちに圧倒的に努力して成長しないと、後々のキャリアで厳しくなるだろうと考えていたんです。責任感も人一倍あったので任せてもらえることが多く、色んな経験ができたことも成長の1つの要因だと思います。失敗を繰り返しながら学んでいくことができました。また、開発者とマネジメントを交互に経験できたことも良かったですね。現場から離れるとコードを書く感覚がなくなってしまいますし、エンジニアリングばかりしていると「なぜ作るか」といった目的意識が希薄になってしまいます。私の場合は、両ポジションを交互に担ってきたので、これら2つの感覚を持ち続けることができました。
ー岩永さんがエンジニアとして大事にしていることは何ですか?
「美しさ」と「直感」です。「美しさ」とは、本質的な価値になっているか、自分たちが作りたい世界観がプロダクトを通して実現されているかということ。コード設計の美しさだけでなくその裏にある哲学や思想を体現できているかどうかが重要だと思います。ソフトウェアは、現実世界で起きていることをコードで表現するものです。現実世界ではあいまいなものが多いので、顧客を理解して本質的な部分を紐解いていく必要があります。その上で、自分たちの哲学や思想をプロダクトに反映できていると、美しいと感じますね。一方で「直感」は、ロジカルに説明できない感覚です。私自身、ベースはロジカルですが、直感的に腑に落ちない感覚的なものも大切にしています。ロジックで説明できるものはロジックで覆せますし、何よりつまらないです。直感で飛躍させロジカルに説明するなど、ロジックと直感、抽象と具象の行き来することが重要だと思います。
ー開発責任者にとって重要な3つの要素は何だと思いますか?
1つ目は、「事業視点で俯瞰して、生み出す価値の質と量を上げること」です。これはソフトウェアだけを見ていては実現はできません。先述の通り、エンジニアリングの本質は現実の不確実性を具象化することなので、顧客の理解や本質の追求が欠かせません。ソフトウェア以外も含めて組織レベルでエンジニアリングを実践することで、プロダクトの価値を底上げし、成長を加速させることが重要だと思います。2つ目は、「技術力を維持すること」です。知識や経験は現場の人が持っていることも多いので、一番キャッチアップしている必要は必ずしもないと思います。しかし、将来性や一貫性を考えた上で意思決定の質を高め、時には自ら解決に導いていかないといけません。3つ目は、「ビジョンを示すこと」です。無理にビジョンと技術を紐付けなくても良いと思いますが「こういう世界を作れると良いよね」と働きかけることが大切だと考えています。
目標は「ノーベル平和賞の受賞」:Henryで医療業界をアップデートする
ー貴社の事業内容について教えてください。
医療のERP「Henry」として、クリニックと中小病院向けのクラウド電子カルテとレセプト(会計システム)を作っています。電子カルテとレセプトの両システムを自社開発しているのは業界でも20年ぶりの取り組みなんです。それだけに開発難易度は高いですが、医療現場の本質的な業務改善を行うためには絶対に必要なことでした。現状、電子カルテを導入していないクリニックが、全体の約半数を占めています。例え導入していたとしても、何十年も前に作られたシステムで根本的な改善は困難で費用も高い。そんな中ヘンリーではモダンな技術とプロダクト設計で、従来の半分以下の価格に抑えたプロダクトを開発しています。
ー今後貴社で実現したいことは何ですか?
まずは医療現場のワークフロー全体を作っていきたいと考えています。周辺分野でより良い新規プロダクトを作り続けて、いずれは現場の方々がHenryの存在を忘れているような、当たり前のものにしたいです。Henryによって医療提供者が経営を改善できれば、より質の高い医療を提供できるようになります。その次は制度自体に手を入れていき、国の医療費の最適化までできるとワクワクしますね。一般的に社会問題は複雑で収益化も難しいので、事業として続かないケースも多いです。しかし、当社が高齢化社会でのモデルケースを作り、他の誰かが真似をし始めるようになると、世の中に対してさらに大きな価値が創出されることになります。その連鎖が広がり様々な社会問題の解決に繋がれば、ノーベル平和賞を受賞できるのではと考えています。
ー岩永さん個人の夢はありますか?
作り手としては「良いものが正当に評価される世界」を作りたいです。良くないものが当たり前になっている状態は、不健全というか美しくないんですよね。それを実現するために、目の前にある複雑な問題を効率的に解決していく仕組みを作っていきたいと考えています。
良いものを作り、チャレンジングな社会課題の解決に向き合えるエンジニアを募集
ー貴社でどのようなエンジニアを募集しているか教えてください。
顧客目線で良いものを作りたいと思っているエンジニアさんに来て欲しいです。ヘンリーではまだ誰も解決できていない医療業界の課題に取り組んでいます。医療制度も医療業務も複雑ですし、顧客ごとに課題も様々です。なので顧客に向き合い本質的な価値を追い求めることが好きな人と一緒に働きたいです。複雑でベストプラクティスが確立されていないものをいかにエレガントなものに変えていけるかはエンジニアとしての腕の見せどころです。また、今自分が作っているものの意義やインパクトにもやもやしている方がいらっしゃいましたらぜひ一度話しましょう。「ノーベル平和賞の受賞」を本気で目指す気概に共感していていただけるのではないかと思います。
取材を終えて
インタビューを通して、「興味」と「責任感」という岩永さんの仕事に対する2つの姿勢が印象的でした。技術力だけでなく、マネジメントや顧客理解のスキルを習得するために、積極的に手を上げて新しい挑戦をし続ける「興味」。ウォンテッドリーでのマネジメントの苦労話に代表される、苦手なことや辛いことからも目を背けずに自ら解決しようとする「責任感」。この2つの姿勢があったからこそ、岩永さんは大きく成長してこられたのだと感じました。「ノーベル平和賞の受賞」という目標は、一見不可能に思える方もいるかもしれません。しかし、岩永さんのお話からは、その達成を確信しているかのような印象を受けました。大きな目標の達成に向けて、医療現場の課題解決という難題に挑まれているヘンリーさん。そんな彼らであれば、世の中の多くの社会課題を解決に導くモデルケースを作ってくれるのではと、期待が膨らみます。
プロフィール:岩永 勇輝
新卒でウォンテッドリーに入社。Wantedly Chat や People の立ち上げ、Visit の海外展開事業など複数の新規事業に関わり開発リードを担当。
2020年3月にヘンリーに1人目の社員として参画。デザインディレクション、システムの全体設計からフロントエンド・バックエンド開発まで幅広い業務に従事。