今回は、READYFOR株式会社 取締役CTO 町野 明徳さんのインタビューをお届けします。学生起業をきっかけにプログラミングを学び始め、SmartNews、DeNAにて0→1フェーズのプロダクト開発に携わってこられた町野さん。数え切れない挑戦のご経験から資金調達の仕組みに興味を持ち、現在はクラウドファンディングサービスを展開するREADYFORでCTOを務められています。そんな町野さんの夢は、持続的にイノベーションが生まれる社会システムの形成。挑戦する人たちを支援し、イノベーションが絶えず生まれる環境を整備するために奮闘されている町野さんのキャリアや価値観に迫ります。

コンテストで優勝し学生起業:事業のためにプログラミングを始める

ー町野さんがエンジニアを目指されたきっかけを教えてください。

大学院時代の起業がきっかけです。修士課程在籍中、大学主催のアントレプレナープログラムに参加して「Web上で数式の入力・検索ができるシステム」というアイディアをベースに発表したところ、最優秀賞を頂くことができました。私が専攻していた物理学の世界では複雑な数式を多く使うのですが、数式はWeb上で扱いづらいという課題を解決したかったんです。そのアイディアを実際に形にすべく、IPAの未踏事業からも支援いただき、会社も設立してプロトタイプ開発を始めました。当時、大学の情報科目での基礎知識があった程度で、プログラミングはほとんど未経験の状態でした。

ープログラミング未経験の状態からどのようにしてキャッチアップされたのですか?

周りに教えてもらいつつ、独学でしたね。Webブラウザ上での数式描画を制御するためにJavaScriptから入って、アプリ開発のためにObjective-C、サーバーサイド開発のためにRailsと、必要に応じて技術領域が広がっていき、徐々にWebシステムの全体像が見えるようになっていきました。当時は、休日も関係なく毎日プログラミング漬けの日々だったのですが、そんな働き方ができたのも、自分が本気でやりたいことだったからだと思います。

ーその後、事業はどうなったのでしょうか?

プロダクト自体の開発は順調に進んだのですが、それを事業として成立させることに苦戦しました。数式技術の強みを活かしたインタラクティブな電子教科書サービスとして事業化を進めたのですが、既存の書籍をデジタル化するためには、出版社と著者双方と出版契約を全て巻き直す必要があり、コンテンツ獲得がボトルネックとなりました。ビジネスモデルのピボットもして試行錯誤したのですが、最終的には事業をクローズ、その後はしばらくフリーランスとして仕事をしていました。

0→1 フェーズの事業経験を重ね、幅広いプロダクト開発スキルを磨く

ーフリーランスとして活動された後は、どうされたのですか?

2012年、創業期の SmartNews に参画しました。代表の建さんとは、起業していた時から面識があって、久しぶりに連絡を取ったときに「今こんなニュースアプリを作っているから手伝って」と声をかけてもらったんです。1人目の社員として入社して、主にクライアントサイド(iOS・Android)のプロダクトマネジメントを担いました。SmartNews では、最初のプロダクトローンチから海外展開まで、事業/組織のグロースに関わる様々な経験をさせてもらいました。

ーSmartNewsの次は何をされたのでしょうか?

ちょうど自分の年齢が30になるタイミングだったのですが、半年ほど世界一周のバックパック旅に出かけたんです。目の前のことに打ち込んだ20代だったので、一度時間を取って、自分の目で世界を見ておきたいなと。30近くの国々を様々な交通手段で移動する中で、「未来のモビリティサービス」について考えるようになって、帰国後、DeNAが新規事業として始めた自動運転プロジェクトに参加しました。

ーSmartNews・DeNAと、規模の異なるベンチャー企業を経験されていますが、カルチャーなどに違いはありましたか?

確かにDeNAはメガベンチャーですが、自分が参加した自動運転のプロジェクトは完全な新規事業で、勤務場所も本社とは離れたお台場の小さなオフィスだったんですよ。それなので、SmartNewsと同じスタートアップの空気がありましたね。自分自身の起業も含め、0→1フェーズの事業立ち上げに複数関われたことで、技術に限らず、幅広い視野を持ってプロダクト開発を進める力が磨けたなと思っています。

新たな資金調達エコシステムの実現を目指し、READYFOR へ

ーDeNA退職後のキャリアについて教えてください。

自分は、0→1で新たな価値を生み出すことにワクワクするので、そうした挑戦を支えるエコシステムにずっと関わっていきたいと考えていました。2017年頃、ブロックチェーン技術を活用した資金調達手法が世界的に広がってきていたのですが、誰もが国境を超えたグローバルな資金調達をできることに興奮して、自分もブロックチェーンを用いた資金調達プラットフォームの構想を進めていました。

ー具体的にどのようなことをされたのでしょうか?

Ethereumブロックチェーン上で、複数通貨を束ねた「バスケット通貨」を発行して、その通貨を使って誰もがグローバルに資金調達できるプラットフォームを作ろうとしていました。後にFacebookも「Libra」という似たコンセプトのプロジェクトを発表したのですが、2018年以降、この領域の規制は強化されていき、一企業が実現することは現実的ではなくなっていきました。そんな折、READYFORのCTOポジションのお話をいただきました。

ーREADYFORを選んだ決め手はなんだったのでしょうか?

READYFORは、日本で初めて「クラウドファンディング」という事業モデルを始めたスタートアップです。手段としてブロックチェーンを使うわけではないですが、挑戦者が広く一般から資金調達をするという意味で、自分が実現したいことにずっと取り組んできた会社です。READYFORの経営メンバーとして「誰もがやりたいことを実現できる世の中をつくる」というビジョンを共に目指せることにやりがいを感じ、参画しました。

ーREADYFORさんではどのような業務を担当されてきましたか?

READYFORを、プロダクトドリブンなテックカンパニーとして進化させていくために、まずは土台づくりから始めました。エンジニア採用、アジャイル開発手法の導入、システムの技術的負債解消などなど。そうして心強い仲間も増え、具体的なプロダクト開発はチームが自律的に主導し任せられるようになっていき、自分のマインドシェアは中長期、新規領域にシフトしてきています。

CTO就任時の言葉:「みんなと遠くまで早く行きたい」

ー町野さんが、エンジニアとして一番成長したと感じたエピソードはありますか?

エンジニアとしての成長でいうと、最初の起業〜SmartNewsくらいの時期ですかね。起業時代では、「これを実現するんだ」という強い意志で進めていたので、がむしゃらに学びながら走っていました。一方SmartNewsでは、非常に優秀なエンジニアに囲まれて仕事ができる環境でした。独学だけでなく、優秀な仲間からも学べたことが自身の成長に大きく影響していると思います。

ーエンジニアとして大事にしていることを教えてください。

何をするにおいても「エンジニアリング思考」を大切にしています。システム開発をすることだけがエンジニアリングではなく、事業をつくる上でも組織をつくる上でもエンジニアリングの考え方が重要です。解くべき問題を抽出、モデル化して、効率的に実現し、継続的に改善していくプロセスは、様々な領域で求められます。

ーCTOに必要な要素は何だとお考えですか?

まずは、事業にテックレバレッジを効かせるための経営議論ができること、ですかね。技術担当役員として、会社がどのようなテクノロジー戦略を持つべきか、技術者でない他の役員に対しても分かりやすく、かつ本質的な議論ができる必要があります。CTOはエンジニアの代表ではなく、技術領域に責任を持つ「経営者」でなければならないと思っています。もう一つ、これはCTOに限らないですが、ビジョン・ミッションに向かって、組織をアラインしていく力です。私は入社時の挨拶で「みんなで遠くまで早く行きたい」という話をしました。タンザニアの諺に「早く行きたいなら、一人で行きなさい。遠くへ行きたいなら、みんなで行きなさい。」という言葉があるのですが、自分は「早く」「遠くまで」を二者択一にせず、両立させたい。そのためには、組織としての方向性を一致させることが非常に重要なんです。

ビジネスと社会課題解決を両立させる、”インパクトスタートアップ” READYFOR

ー貴社の事業内容を教えてください。

日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を開発・運営しています。特にNPOや大学、医療機関など、社会的な活動をしている方々のプロジェクトサポートを強みにしています。また、近年は「遺贈寄付サポート」「基金・補助金運営サポート」など支援者サイドの事業も展開しています。資金を必要とする挑戦者と、その想いに共感する支援者の方々を結びつけるプラットフォームの役割を持ち、「想いの乗ったお金の流れを増やす」ことをミッションに掲げています。

ー今後貴社で実現したい目標はありますか?

「ビジネス」と「社会課題解決」は、両立しないものと捉えられることも多いのですが、READYFORは、その両立を目指す社会的企業として成長していきたいと思っています。また、私たちだけでなく、READYFORというプラットフォームを通じて、多くのインパクトが生まれていくような未来を実現したいと考えています。

ー個人として夢はありますか?

持続的にイノベーションが生まれる「社会システム」をつくりたいんですよ。いつの時代、どの国、どの家に生まれたかに依らず、誰もが挑みたいことに挑戦でき、その結果、様々なイノベーションが持続的に生まれる世界がいいなと。私自身が0→1フェーズが好きだし何度も経験できたこともあり、そうした挑戦のエコシステムに引き続き貢献していきたいと思っています。

挑戦者の夢を叶える手助けがしたいエンジニアを募集

ー貴社が求めるエンジニアについて教えてください。

READYFORのビジョン・ミッションに共感し、プロダクト、テクノロジーを通じて社会課題解決に向き合っていきたい方に来ていただきたいです。また、READYFOR が「ビジネス」と「社会課題解決」の両立を追求しているように、物事を「A or B」の単純なダイコトミー(二分法)で分けるのではなく、「A and B」の可能性も徹底的に追究できる仲間がいいなと思います。

取材を終えて

取材を通して、町野さんの事業作りに対する熱意を感じました。「ゲームの仕組みが知りたい」などのように内発的に、プログラミングに興味を持って学び始められるエンジニアが多い中で、町野さんは自らの事業を作るためという外発的な動機で学び始められました。ご本人も仰っていましたが、エンジニアリングはあくまでも事業作りの手段。挑戦やイノベーションが好きだという町野さんが創る「挑戦者やイノベーションのエコシステム」が楽しみでなりません。

プロフィール:町野 明徳さん

東京大学理学部物理学科卒。同大学院在学中に電子書籍分野での起業をして以来、複数のスタートアップの事業立ち上げに携わる。2012年11月、スマートニュース社の初期メンバーとして参画。急拡大する組織の中で、技術を軸に幅広い業務を担当。その後、自動運転やブロックチェーン等、新技術を扱うプロジェクトを経て、2019年1月よりREADYFOR株式会社取締役CTOとして参画。

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