クラウドブームはひと段落したような雰囲気がありますが、それは言うまでもなく、多くの業界・企業でクラウドサービスの利用が“当たり前”になりつつあるためです。
しかし、一言でクラウドサービスといっても、様々なサービス提供形態があり、またクラウドベンダーも複数あります。複数のクラウドを組み合わせる「マルチクラウド」環境志向のユーザー企業も増えてきました。
そこで今回は主要なクラウドサービスを一挙に簡単紹介いたします。
クラウドサービスのシェア状況
各クラウドサービスの特徴を見ていく前に、クラウドサービスのシェア率について確認しておきましょう。
シンガポールの調査会社Canalysが発表した、2019年の世界クラウドインフラ市場(支出額ベース)に関するレポートによると、『Microsoft Azure』、『Amazon Web Srevice(AWS)』、『Google Cloud Platform(GCP)』、『Alibaba Cloud』の上位4ベンダーで57%のシェアを占めています。
同調査会社によると。2018年時点での上位4ベンダーのシェア率合計は55.2%でした。つまり、クラウドサービスを展開しているベンダーはいくつもありますが、上位4社だけで、業界の過半数のシェアを握っているだけでなく、その4ベンダーのシェアが拡大しているのです。
日本ではどうでしょうか? ということで、MM総研が公表した、2018年の日本でのIaaSとPaaS、それぞれのシェア率の調査結果を確認すると、IaaSでもPaaSでも、一位のAWSと二位のAzureだけで70%以上のシェアを誇っています。
特にAWSはどちらのカテゴリーでも約47%ものシェアを占め、二位以下のベンダーを圧倒している状況です。
各クラウドサービスを紹介
Amazon Web Srevice(AWS)
ここからは各クラウドサービスを紹介しています。
トップバッターは、国内外で最大のシェアを誇るAWSです。Amazonが展開するクラウドサービスですが、最大の特徴はサービスの拡張がとてつもなく早い、という点でしょう。AWSが主催するセミナーに行くと、“AWSのサービス数の推移を示すグラフ”が出てきて、「加速度的にサービス・機能が増えて、どんどん便利になっています」という趣旨の話が、毎回出てきます。
筆者自身、AWSでの開発に関わったことがありますが、通知なく画面のUIが変わっているなど、“変化が速すぎて開発者泣かせな一面”もあるように感じましたが、とにかく進化の速度で他のクラウドサービスの追随を許しません。
2020年1月時点でのサービスは176個です。その中には仮想サーバーの「EC2」や仮想デスクトップの「WorkSpaces」など、汎用的なサービスから、人工衛星の地上基地局機能を提供する「Ground Station」といったニッチなサービスまで存在します。
企業だけでなく行政機関からの採用もあり、日本政府も人事システムと文書管理ツールのクラウド化に向けて、設計開発の一般競争入札を行っていましたが、2020年2月に事実上、AWSを採用することが決定しました。
なお、AWSではAWS認定試験を実施していますが、AWSの高いシェア率もあり、資格習得者は年収アップを目指せるため、非常に注目度の高いITの資格試験です。
Microsoft Azure
Microsoftが展開するクラウドサービスが、Azureです。
AWSに対するAzureのメリットは、なんといってもWindowsとの親和性の高さ、という点が挙げられます。
Azureに移行することでWindows Server 2008とWindows Server 2008 R2の本来の延長サポート期限(2020年1月に終了)を超えて、セキュリティ修正プログラムを提供することを2018年に発表して以降、Azureを利用するユーザーが増えました。
ちなみに、たまに「Microsoftのクラウドサービスというと、Azure以外にもOffice365というものがありますが、なにが違うのですか?」と聞かれるので簡単に解説しておきましょう。
AzureはIaaS(Infrastructure as a Service)、Office365はSaaS(Software as a Service)となっています。IaaSは仮想マシンなどのインフラ(つまりハード部分)がクラウドベンダーより提供されます。ですので、利用者は好きなOSやソフトウェアを自由に導入することができます。
対してSaaSは、ソフトウェアの利用権が提供されます。みなさんにも馴染みのあるGmailもSaaSです。アカウントさえ作れば、すぐに使いたいサービスが使えるようになるのがSaaSのメリットです。
Google Cloud Platform(GCP)
Googleの提供するクラウドサービスが、GCPです。Googleのサービスとの親和性が高い点だけでなく、Googleの先進的な人工知能やビックデータ解析技術が利用できるという点が、人気の秘密です。
ちなみに、アメリカの人材育成企業であるグローバルナレッジではエンジニア給与とIT関連資格との相関関係を毎年調査していますが、2019年もっとも稼げる資格となったのは、GCPの認定資格である「Google Certified Professional Cloud Architect」でした。AWSの資格や、Azureの資格もランキングに入っていますが、それらよりも上位となっています。
Alibaba Cloud
中国の大手IT企業、アリババが運営するクラウドサービスがAlibaba Cloudです。「中国企業しか使ってないんじゃないの?」と言われそうですが、中国でビジネス展開を考えている企業をサポートするサービス(China Gateway)も展開しており、非中華圏の企業の利用も意外と多いようです。
実際、データセンターも、中国国内や香港・シンガポールといった中華圏だけでなく、アメリカやイギリス、ドイツそして日本にも存在しています。
とはいえ、日本国内でのシェア率はあまり高くなく、“その他”でくくられている状況です。筆者自身、今のところAlibaba Cloudを利用したことがありませんし、開発経験のあるエンジニアにお会いしたことがありません。
IBM Cloud(旧Bluemix)
名前の通りIBMのクラウドサービスです。もともとは、Bluemixというブランドネームでしたが、2017年にIBM Cloudに変更となりました。
IT業界の巨人“ビックブルー”と呼ばれるIBMですが、クラウド市場では上位四社の後塵を拝しています。そうしたこともあり、利用者の拡大を目指す施策として、「IBM Cloud ライト・アカウント」と料金体系を展開しています。
多くのクラウドサービスでは、最初の3か月~1年は無料であることが多いですが、IBM Cloud ライト・アカウントはなんと、ある程度の利用制限はあるものの、無期限で利用できる無料アカウントとなっています。
ちなみに、無料利用できるサービスの中には、人工知能の存在を世に広めるきかっけの一つになった、Watsonのクラウド版もあります。人工知能に興味のある方は、個人で契約してみても良いかもしれません。
Oracle Cloud Platform
名前の通り、データベースで有名なOracleのクラウドサービスです。データベースでは圧倒的な地位を占めている会社ですが、IBM同様、クラウド市場では苦戦しています。
AWSなどへの対抗として、やはりIBM同様に価格面での優位性を謳っています。無料アカウントこそありませんが、“AWSに比べてIaaSで64%、PaaSで40%のコスト削減が可能”と公式サイトに書くだけであって、確かに、AWS(ひいてはAWSとほぼ同価格のAzureや、AWSよりやや高額なGCP)よりも価格設定が全体的に安くなっています。
なお、料金が安い分、ソリューション(サービス)の数が少なかったりするのでは?と心配になる方も多いかもしれません。確かに、ニッチなサービスまで提供しているAWSに比べれば少ないですが、普通の企業で使う分であれば、Oracle Cloud Platformでも十分なように思います。
FUJITSU Cloud Service
日系企業のクラウドサービスも紹介しておきましょう。FUJITSU Cloud Serviceは富士通の展開するクラウドサービスです。
「大事なIT資産を預けるのは日系企業の方が良い」と考える企業を中心に国内では一定の人気があります。上でも触れた、MM総研が公表した2018年の日本でのクラウドサービスのシェア率のうち、IaaS部門でAWS、Azureに続く三番目となっています。
また、2020年3月には、日本政府がクラウドサービスの利用を推進する中で、富士通として日本政府向けクラウド事業に参入することを公表しています。AWS、Azure、GCPなどの強力なライバルがひしめき合っていますが、“日系企業だからこその強み、安心感”をテコに、シェア率拡大を目指すものと推測されます。
まとめ:マルチクラウドの時代が来るかも?
今回は、ざっくりですが、国内外で比較的利用率の高いクラウドサービスを紹介いたしました。
大手が圧倒的なシェアを握っており、特にAWSが頭一つと飛びぬけた状態です。従って、「“AWS”対“他のクラウド”」という文脈で語られることも多いですが、AWSも含めて各クラウドサービスに強み弱みがあります。
今後は、各クラウドサービスの良いとこ取りを目指して、複数のクラウドサービスを組み合わせた“マルチクラウド環境”がトレンドになるかもしれません。主要なクラウドサービスの動向はウォッチしておくようにしておきましょう。