未経験からSESとしてIT業界に入り運用保守の現場から開発業務を経て社会貢献性の重要さに至ったユニファ株式会社のCTO赤沼寛明さん。さらなるチャレンジング精神でプロダクトと真っ向から対峙する今後の展開もお話していただきました。技術を超えた社会貢献性から始まるプロダクトの秘密に迫ります。
現職について
弊社が提供しているプロダクトのシステム開発を監修しています。開発に関してはほぼ内製化しています。メンバーにはエンジニア、デザイナー、QA等の開発メンバーがいて、彼らをマネジメントするのが主な役割となります。採用や会社のブランディングにも注力しております。
開発体制
組織的には開発チームは38名。来月には3名増えますが、サーバーサイドのエンジニアが12名、スマートフォンアプリのエンジニアが6名、R&Dでマシンラーニング、ディープランニング等のデータ解析に4名。インフラはAWSを使い、インフラは2名、社内インフラは1人です。プロダクトマネージャーが5名、デザイナーが3名、QAが4名います。
組織の構成は職能別で実際のプロダクトを開発するときには各プロダクトでチームを作り、開発していきます。デザイナーやQA、インフラエンジニアに関してはプロダクト横断的に関わっています。
開発プロセスは最近ではスクラムを意識的に取り入れています。ディレクターやプロダクトマネージャーはスクラムの手法を取り入れ、プロダクトによっては多少ウォーターフォールを取り入れています。
使用している言語
サーバーサイドはRuby on Railsです。一部APIサーバーでJavaを使用しています。スマートフォンアプリはiOSでSwift、AndroidはJavaとKotlinを使用しています。
AIに関してはR&Dのメンバーが弊社のデータからモデルを作り一部活用している感じです。最初にスタートした子どもの写真・動画をオンライン購入できるサービス『ルクミーフォト』で蓄積した写真は数千万枚ありますので、その写真のデータを解析することで「AIの観点から活かせないか?」を社内で取り組んでいます。
緊急事態宣言とその取り組み
会社全体としては原則リモート勤務です。開発本部に関しては以前からリモートを取り入れていましたので、特に大きな混乱はなく緊急事態宣言後もスムーズに移行できました。勤務時間は固定時間を軸に前後に調整して、保育園の休園や学校の休校にある程度対応できました。
しかしながら、会いたい時に会えず、出社して対面した方がより「便利だな」と感じる時もあります。やはり雑談の機会がどうしても減ってしまい「そこをどう作っていくか」ですね。タスクや案件はオンラインミィーティングの場で共有できますが、それ以外の何気ない会話みたいなものはどうしても減ってしまいます。
以前からマネージャーとメンバー間の1 on 1は毎週行っていましたが、今後さらに重要になっていくと思います。あとは「どのようにしてアウトプットを評価していくか」という点ですね。今後さらに必要になるかと思います。
エピソードゼロ 未経験からの出発
コンピュータサイエンスの経験などはなく、業界は未経験で入りました。1社目は運用保守の現場にSESで採用され、客先に常駐していました。しかし「開発の仕事に携わりたい」という思いが強くなり、会社のサポートを受けながら独学で開発のスキルを身につけ、開発の現場にアサインしてもらいました。しかし、開発に強い会社ではなく運用がメインの会社だったので転職しました。
2社目はエムスリー株式会社です。医療従事者向けのポータルサイトを担当しました。大変な状況ではありましたが、開発に専念できスキルも上がりました。
その後ソーシャルゲームの株式会社Nubee Tokyoに転職し、3年ほどサーバーサイドの開発を担当しました。サーバーサイドの開発という点において技術的にチャレンジでき「大量のトラフィックをどうやって処理するか」等、一般的なサービス以外で考えなければならないところで勉強になりました。
しかしサービスがソーシャルゲームなので「どうやって課金させるか」に違和感を覚え始めました。また、自分がゲーマーだったらよかったかもしれませんが、やり込むタイプではないので、そうなると自分の作ったものに「興味があまり持てない」「何のためにやるんだっけ?」と疑問を持ちました。
エンジニアとしてサービスを作っていくには「自分も興味を持てるもので、それをしっかり使ってもらい、誰かの役に立てるものを作れるといいな」と思いました。自己満足かもしれませんが「手応えがあるというものをやりたい」と思いましたね。そこで社会貢献性を意識し始め転職を考えました。
入社のきっかけ 東京オフィスの立ち上げ
そんな時、転職のエージェントが弊社を紹介してくれました。当時、東京オフィスを立ち上げるタイミングで、決まった開発体制もなく、正社員のエンジニアもいない状況です。そこで話を聞かせてもらい企業理念である「家族コミュニケーション」や「東京オフィスの立ち上げ」に「裁量の大きい仕事ができる」と確信し入社を決めました。
当時サービス自体は動いていましたが、代表(土岐泰之氏)が探したフリーランスのエンジニアに個別に依頼していたこともあり、作りはバラバラでした。誰がその部分を作ったかによって作り方が違いましたので、コードの書き方や構成が統一されていません。当時はユーザーが少なかったので、問題が発生する状態ではないのですが、今後「このままでは処理が間に合わない、機能も足りていない」という状況でした。
しばらくは『ルクミーフォト』の追加開発や改善、運用面や障害の問い合わせに注力していました。当時携わっていたフリーランスの方々は週2、3日で、フルタイムのエンジニアは私だけだったので、開発も運用も基本全部行っていました。それから正社員のエンジニアを採用して機能面の拡張を行い、開発体制を整えた経緯があります。
サービス・プロダクトの課題
次の柱になったのは保育施設でのお昼寝(午睡)チェック『ルクミー午睡チェック』です。これをシステム化してサービス化しました。それから一個一個の保育施設の業務をシステム化していき、体温計のサービスや連絡帳のサービス『キッズリー』、今年に入ってからシフト管理やバスの位置情報サービスを提供しました。
今でも、保育施設の業務はまだまだたくさんあり、そこを「いかにカバーしているか」という点ではまだまだ足りていない現状です。そこをいかに広げていくかというところが、今後の課題になりますね。そうなるとプロダクト間の連携も必要になってきますので、今までは単品でクオリティーの高いものを提供できていたのですが、これからは「いかにパッケージングしてトータルソリューションとして提供できるか」がより求められます。今後の課題です。
今後の目標
現状、保育業界はアナログな状態でシステム化もまだまだ進んでいません。そこで我々が次世代型保育園『スマート保育園®』を通して、保育施設内の業務をシステム化、ICT化してさらに推進していきたいと思います。
今までもこういった取り組みをシステム化していた企業は昔からありました。しかし、それは「単純にシステム化しました」というもので、今まで保育施設側の話を聞いても「使いづらいし、むしろ手間が増える」と声が多かったと思います。
補助金のタイミングで導入したけど、結局使われずに放置されていた状況ですね。我々はそこを単純にシステム化するのではなく、少なくても現場の保育者の手間が増えないように、かつ業務の効率化をし、極力自動化できるようにしていきたいです。
これらを提供することで保育者の方が本来の保育の本質的なところに注力できるのが理想です。保育者は子供と対面して保育するだけでなく、周辺業務がたくさんあり、事務作業もそうですが、そういったところを我々のプロダクトで時間に余裕を持ち、本来の保育業務に注力していただけたらと強く思います。そうした中でプロダクトから色々なデータが蓄積していき、そこからAIの技術を使い、子供達の体調の変化や予兆に対し何らかのアドバイスを保護者に提供します。
保育者は指導計画の作成やドキュメンテーションを行っていますが、保育者が直接感じられたものに加えて、我々から追加でサポートするようなものを出していけると、より良い方向に進むかと思います。そういったプロダクトを提供しつつ今後は家庭向けのプロダクトや海外向けのサービスを展開できればと考えています。
海外人材の採用について
弊社では多くの海外人材を採用しています。採用は日本人の方と比べるとコストがかかり、手続き上の煩雑さもあります。入社が決まってから日本に来るケースもありますので、サポートする費用や日本語が話せないメンバーもいますのでコミュニケーションコストもかかります。それでも取りたいと思えるかどうかが最終的な採用基準になりますね。
日本人で同じレベルの方がいれば、日本人の方が楽です。しかし日本人のエンジニアは待っているだけでは採用が難しく、最近は変わって来ているかもしれませんが、超売り手市場だったので採用も大変でした。それで「海外の方でいい方が採用できるのであれば」というところで進めてきました。あとは人柄ですね。技術面含めて人柄的にも今までのメンバーとのマッチングが大事ですね。
海外メンバーの優れたところ
海外メンバーは技術的には優秀で、仕事が早く、技術面でも高い面があります。考え方も日本人とは違います。海外のメンバーはまず一気に作り、後から品質を上げていく感じです。
日本人は最初から品質を担保して作って行きます。その辺のスタンスの違いはあります。常に日本人のように慎重にやるのが良いわけでもなく、海外メンバーの進め方の方がいい場合があるので、そこはバランスを取って進めています。
海外メンバーが入ってもらうことで既存メンバーが英語コミュニケーションを必然的に取りますので、そういう点では今までよりは英語に対するハードルが下がっていると思います。
CTOとは何か?
これに関しては迷うところであって、一般的な定義は「技術で経営にコミットする」ですが、私は「開発組織のアウトプットをどれだけ最大化できるか」と考えます。
私のポジションはおそらくマネジメントやチームづくりにおいてVPoEといわれる要素が強いと思います。もちろん経営陣でもあるので数字を追わなければなりませんが、事業に貢献できるプロダクトを作っていくところが大事だと考えます。
そのためにも開発組織のアウトプットを最大化できるかというところですね。そのためには「チームをどうやって作っていくか」「いかにアウトプットの流量が大きいチームを作っていくか」それが私のCTOとしての役割だと思います。
「保育をハックする」エンジニアを求む
開発のマインドとして「保育をハックする」がチームの中にあります。プロダクトを作って保育業界の課題を解決し、能動的に課題解決を楽しめる方と仕事をしたいです。「現場側に立って作れる」そういったマインドをお持ちの方をお待ちしております。
プロフィール:赤沼寛明
1979年生まれ。SESにて保守・運用の現場からエンジニアのキャリアをスタート。その後開発スキルを習得し、医療系サービスやソーシャルゲームの開発を経て、2015年2月にユニファ株式会社に東京オフィス立ち上げ時に入社。ユニファの開発体制を構築し、様々な新規サービスの立ち上げにも関与。2016年4月に取締役CTOに就任し、機械学習・深層学習をメインとした研究開発チームを含むシステム開発チームを統括。また、外国人エンジニアも積極的に採用し、現在10を超える国籍のエンジニアのマネジメントも担う。技術系カンファレンスにも多数登壇。
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