『高齢社会にテクノロジー革命を起こす』というミッションのもと”そうぞくドットコム”というサービスで相続手続きのDXに挑戦しているAGE technologies。今年6月には約2億円の資金調達を実施、今後のAgeTech(エイジテック)のリーディングカンパニーを目指す同社CTOの黒川さんへお話を伺いました。未経験文系エンジニアからCTOになったストーリーはエンジニアはもちろんスタートアップに関わる方、必見の内容となっています。

没頭した音楽制作に似た感覚を感じ、エンジニアリングの世界へ

ーまずは、黒川さんがエンジニアリングに興味を持つようになった原体験を教えて下さい。

高校時代まではギターが好きで音楽制作に熱中していて、自分が見えているものを表現することが好きでした。表現するということに似た感覚を持ち、大学時代にプログラミングに興味を持つようになったのがきっかけです。
文系でしたが、分からないなりに「学校の図書館にあった本」や「はてなブログ」を読み漁ったりしていました。経済学部ということもありITコンサルに興味を持ち、新卒でSIerに入社してエンジニアとしてのキャリアをスタートしました。

“研修で一番を取る”と決めたところからスタートしたエンジニアとしてのキャリア

ー次に、黒川さんのキャリアの概要を教えて下さい。

ITコンサルに興味を持ちSIerに入社してエンジニアとしてのキャリアをスタートし、受託開発で得た経験をもとに株式会社リブセンスに転職し、自社プロダクトの開発を担当しました。2018年からAGE technologiesに参画し、開発責任者としてプロダクト開発を担当して、2021年現在はCTOとして開発チーム全体のリードをしています。

ーSIerには実務未経験での入社だと思いますが、どのようにキャッチアップしていったのでしょうか?

文系エンジニアの自分にはありがたいことに、新入社員研修制度が充実したものでした。まずは”ここで一番を取る”ことを目標にしました。「未経験で研修で一番を取れば、重要なプロジェクトにアサインされるチャンスがもらえるはずだ」と、戦略的に考えて目標を立てました。
苦労しましたが研修で一番を取ることができ、実際にやりがいのあるプロジェクトに携わることができるようなりました。そういった積み重ねが、エンジニアとしての基礎を形成していくことになりました。

ーその後、SIerの世界を飛び出して、事業会社からスタートアップへとキャリアを歩んでいますがどのような経緯があったのでしょうか?

CEOの塩原とは大学のインターンで出会っており、”彼はいずれ起業する。自分も将来的には彼と働く”と決めていたので、事業づくりに携われること・自分が作りたいと思うチームの形や文化があるかを軸にセカンドキャリアを選択しました。
具体的には、規模の割に垣根がまったくなくインタラクティブな組織。カルチャー形成から人材採用時点からこだわっている点に魅力を感じました。その後、約束通り塩原が起業するタイミングで話をもらいAGE technologiesへジョインしました。

文系エンジニアがぶつかる壁”数学、計算機科学”

ー文系エンジニアだからこそぶつかった壁などはございますか?

ファーストキャリアでは未経験ながら、様々なPJに参加させてもらいスキルアップの機会を得られていましたが、ある時点で頭打ちがきて文系エンジニアとしてのコンプレックスが徐々に浮き彫りになっていきました。
具体的には、数学や計算機科学の基礎がなかったことです。知識があればもっといいプロジェクトの進め方があったのではないかと思うことが多々ありました。計算機科学にしっかりとした知識を持った人と話したときに、本当に何を言っているか全くわからないことも多々ありました。
ハンディを乗り越える方法は2つだと思っています。
1つはシンプルに愚直に、知識をキャッチアップを続けること。要は、そういった基礎的な知識を勉強することですね。もう1つは、軸をずらして戦うことです。例えば、”ドメイン知識がある”だとか、”ユーザーの要望を理解して設計できる”だとか、”約束を守る”だとか、基礎知識以外の領域で信頼を勝ち取ることを意識していました。

成長を実感するタイミングは突然に、非線形に伸びていく

ー自身の成長につながった経験があれば教えて下さい。

新卒の時に取り組んでいて苦しかったけどスキルアップにつながったのは、先輩が書いたコードをとにかく読み込むということです。
最初は自分が書いたコードが全部書き換わっている事もありました。それを見た瞬間は落ち込みますが、グッとこらえてちゃんと読み込んでいました。実際に動かしてみて、こうやって動くんだと自分の目で確認する作業を行うなどしていましたし、社内でできる人が書いたコードも見にいっていました。
その当時は、身になっている感覚がなかったのですが、そういった努力がエンジニアとしての足腰を鍛えていたのではと、今では思います。
また、同じプロジェクトで一緒になった先輩の行動を観察していました。お客さんとの対応の仕方や、いつどこでどんな立ち振舞をするかなど、ソフトスキルをその場で学ぶというのも意識していました。

ありがとうございます。徹底的に盗んで、自分との差分を知るというのは、どの職種も一緒だと私も思います。愚直なインプットを続けられていたと思いますが、どこかで成長を感じるタイミングが来たのでしょうか?

今お話したような日々のインプットをしていく中で、成長実感を得られるものは中々なかったです。ある時、点と点がつながって、一つ階段を登ったように成長を実感します。日々「難しいな」、「わからないな」と苦しみながら、なんとか前に進んでいる感じです。成長をグラフ化すると、リニアに成長していくというより、階段のように成長していくという感覚があります。プログラミング言語も言語なので、赤ちゃんが生まれてから日本語を浴び続けた結果、ある時いきなり話せるようになる感覚に近いと思います。

ー具体的に、階段を登ったなと感じたエピソードなどありますか?

分かりやすい経験は、新卒の研修で連結リストを実装した時です。5日の課題だったのですが最初の4日は全く理解できず1行もコードが書けませんでした。しかし、先輩や同僚に聞いたり自分で調べたりと、とにかくインプットを続けていました。5日目に急に理解できて、1日で全部の課題を終えた時は、階段を一つ登ったなという感覚がありました。

こんな小さなチームで終わっていいはずがない、代表の言葉をきっかけにCTOへ

ー次に、CTOに就任した経緯について教えて下さい。

塩原の誘いで創業メンバーの1人としてジョインしましたが、正直最初はCTOとしてではなく小規模なチームで探索的な技術投資をするチームをリードしたいと考えていました。
CTOに求められることは、プロダクト開発を滞りなく進めることだけではありません。その上で、はずさないロードマップを引く、チームカルチャーを創造し続ける、採用の成功などのミッションを達成する必要があります。これらは自分が経験したことがない領域だったので、不安な気持ちのほうが大きかったのが正直なところです。
きっかけとなったのは、2020年秋頃の代表との1on1です。『来年は創業メンバーとしての役目が終わる年になる。今の6人の小さなチームで終わっていいはずがなく、もっと大きくなるためには僕たちも成長と覚悟が必要。それがないと、大きくなった自分の会社に置いていかれる。』という話を聞きました。
その話を受けて、企業成長から逆算したときに自分がやるべきことは、採用やカルチャー形成であることは明確でした。自分の考えるCTO像と重なっており、就任を決意しました。

ーターニングポイントとなる1on1があったんですね。そんな、塩原さんの魅力を教えて下さい。

塩原は失敗が早く、転ぶのがめちゃくちゃ上手いんです。わかりやすく言うと、失敗を認めてそこから学ぶことができます。リーダーに必要な指向性を持っていると感じていて、そこへの信頼感がそもそものジョインのきっかけとなっていますし、CTO就任の後押しとなっていると思います。

CTOとして、エンジニアリングを一番楽しみ、会社を成長させる強い組織を作る

ー話を黒川さんの価値観に移したいと思います。CTOとして、一人のエンジニアとして大事にしていることを教えて下さい。

CTOとして大事にしていることは、採用成功・文化醸成にコミットすることです。
また、いちエンジニアとしては、ときに矛盾する瞬間もありますが楽しく過ごすこと・組織を強くすることの両方目指すことを大事にしています。

ー黒川さんが楽しいと思うときはどんな時ですか?

楽しいときは、暗黙知を見つけた時ですね。データモデルが大好きなんですよ。プロダクトが使われているのを実感するときって、売上はもちろんそうなんですが、本番DBにレコードが増えているのを確認した時でもあったりして。自分が作成したデータモデルで想定していない暗黙知を獲得した時は、かなり興奮します。なので、仮説検証を繰り返して事業の解像度を上げていく今の仕事は、とても楽しめています。

ー黒川さんが考える強い組織ってどんな組織ですか?

フェーズによって定義が変わる前提ではありますが、今の私たちに必要なのは、なにかに秀でたスペシャリストの集団ではなく、お互いをカバーしあえるジェネラリストの組織であると考えています。それを実現できるようなプロダクトアーキテクトを設計したり、メンバーへのプロジェクトアサインを意識しています。

目指すはAgeTechのリーディングカンパニー

ー会社として今後どのような方向を目指していかれるのでしょうか?

現在は「そうぞくドットコム」という、亡くなった方が所有されている財産をご遺族の皆様に相続する手続きをスムーズにするサービスを運営しています。
相続手続きは様々な手続きの複合型です。ある窓口で取った書類を束ねて別の役所に提出する必要があったりします。その過程を滑らかなUXに置き換えるプロダクトになっています。
今後、私たちが目指す方向は、AgeTech(エイジテック)のリーディングカンパニーです。現在は相続手続きのみですが、その他の領域にも展開して日本全体のDXを目指しています。

夢は常に表現者でいること

ー次は、黒川さんの夢を教えて下さい。

個人的な夢は、表現者であり続けることです。自分の原体験でもありますが、自分が世の中を見る視点を発信することが表現することだと捉えています。
たとえば、現状プログラミング学習の入口はオブジェクト指向になっていることが多いですが、この過程でも現実の事象を自分の視点で意図して切り取ることになります。自分の視点を音楽で発信するかコードで発信するかは、手段の違いでしかないので、プログラムを書くこともひとつの表現手段だと考えています。
技術者であれば、技術を用いて課題を解決したり世の中を便利にしたいという気持ちがある人が多いと思いますが、何を課題と考えるか、何を解決と捉えるかも自己表現の一つだと思いますし、今後もプログラミングを通じて、社会に対して自分を表現し続けたいと思っています。

AGE technologiesでは、”知識を以て想像する”仲間を募集中

ー最後に、どんな仲間と一緒に働きたいですか?

仲間として一番大切にしていることは、行動指針である”知識を以て想像する”を体現できる人です。事業領域的に僕たちの年代では知らないことがどうしても多くなってしまうので、インプットできることが他の領域に比べて大切です。AgeTechに興味があるかないかではなく、背景知識をインプットした上でシステムに関する意思決定ができる指向性の方がマッチしやすいと思います。
カルチャーとしては、ロールの垣根を越えて関われるスタートアップカルチャーが強いです。自分の役割を越えて、様々な技術領域にチャレンジしたい人も大歓迎です。

取材を終えて

数々のCTOを取材して来ましたが、『常に表現者でいたい』と答える姿が印象的でした。
『研修で一番を取る』『技術的な領域以外にもコミットする』など、意思決定の際の力強さを要所要所で感じました。文系出身だからこその闘い方のお手本のようでした。自己表現の手段の一つとしてプログラミングを選んだ黒川さん。AGE technologiesさんの成長と黒川さんのこれからの自己表現、今後ますます楽しみです。

プロフィール

黒川智
京都大学卒業後、新卒でTIS株式会社に入社。社会インフラ企業やウェブ系大企業でのシステム開発案件に携わる。その後、受託開発で得た経験をもとに株式会社リブセンスにて、自社プロダクトの保守開発に参画。2018年、当社の創業期から参画し、開発責任者としてプロダクト開発に従事。2021年、CTOに就任。

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