今回は、PharmaX株式会社 取締役開発責任者 上野 彰大さんのインタビューをお届けします。少年時代は数学者を目指し数学オリンピックに出場するも、周囲とのレベルの差に挫折を経験。そして、大学時代の研究室の活動をきっかけにデータサイエンスの世界に入り、大学生にして企業へのデータ分析のコンサルティングを提供。「より直接的に課題解決に関わりたい」と思ったことが、Webアプリケーション開発に本格的に着手されたきっかけだそうです。新卒で経営コンサルタントとして就職し、わずか1年でPharmaXを共同創業されました。そんな上野さんが大切にしていることは「実現力」。エンジニアは、やりたいと思ったことを実現できる「魔法使いたるべき」と語る上野さんのキャリアと価値観に迫ります。

数学者を目指すも挫折:データサイエンスの世界からアプリ開発の世界へ

ー上野さんがプログラミングを始めた経緯を教えてください。

昔から数学が好きで、中高生の頃は数学者になりたいと思っていました。数学オリンピックに出場したことや、論文で賞をもらったこともあります。しかしそういう環境に行くと、中学2年生で大学の学習範囲を終えている生徒など、圧倒的な差を感じることがありました。この世界で上を目指すのは厳しいと思い、数学者の道を諦めて東京大学へ進学。研究室では、環境を制御して植物を育てる研究を行っていたのですが、そこで初めてプログラミングに触れました。

ーもとからプログラミングに興味があったのですか?

いえ、プログラミング自体に興味はなかったです。IoTを駆使して気温などの植物を育てる環境を管理する必要があったので、最初はデータ分析のためにPythonやRを仕方なく学んだという感じでした。具体的には、30分の平均気温が◯度を下回るとエアコンをONにする仕組みをマイコンで開発するなどです。しかし、いざやってみると過去の数学熱が蘇って来たのかどっぷりハマってしまいました。

ーインターンなどでプログラミングはされなかったのですか?

プログラミングではないですが、データ分析のコンサルティングをしていました。きっかけは、VCでのインターンです。学生時代から起業に興味があったので、スタートアップ界隈に関わりたいと思いVCでのインターンに参加。その環境には面白い人がたくさんいて、そこで知り合った友人と一緒にデータ分析の仕事を始めました。しかしいざやってみると、分析業務だけではオペレーションに落ちないので、課題解決に直結しないことを実感しました。「アプリケーションに繋がないと解決できない」と痛感した私は、データ分析からアプリケーション開発に主軸を移しました。

ーアプリケーション開発はどのようにして学ばれたのですか?

UdemyやProgateなどのオンラインサービスや書籍を通じて独学で学びました。単にインプットするだけでなく、自分でアプリを作ったり、友人と実験ノートのデジタル版のようなプロダクトを開発して事業を立ち上げてみたりもしました。「独学で自分ほどやった人はいない」と言い切れるくらいに努力したので、短期間でキャッチアップできたと感じています。

偉大な経営者と同じ土俵に上がるために起業を決意

ー大学院卒業後は、エンジニアとして就職されたのですか?

いえ、経営共創基盤というコンサルティング会社に経営コンサルタントとして入社しました。理由としては、将来的に経営者になりたかったからです。エンジニアではなく、意思決定に関与できる立場でないと自分が作りたいものを作れないと考えました。学生時代から経営共創基盤代表の冨山さんの本を読んでいたこともあり、興味を持っていました。こういう人たちと一緒に仕事をすることで、日本を良い方向に変えていけるのではないかと思い、入社を決意。PharmaXを起業するまでの8ヶ月間という短い期間の在籍でしたが、良い経験をさせてもらいました。

ー起業までの経緯を教えていただけますか?

経営共創基盤で働く中で、「憧れていた経営者も同じ人間なんだ」と感じたことが大きなきっかけです。当初は彼らのことを別次元の存在だと思っていました。しかし一緒に働いてみると、経営者として日々悩みを抱えている1人の人間であることに気づいたんです。「それだったら同じ土俵に乗って、同じ悩みを共有できる存在に早くなったほうが良いのでは」と思い、起業を考え始めました。そんな時にインターン時代の仲間の辻が研修医を辞めると言ってきたんです。IT実装した病院のフランチャイズ展開をやりたいと言う辻に共感し、私も会社を辞めることにしました。元々医療・ヘルスケア領域に興味があったのと、ITで既存産業をアップデートするというアイディアを聞いて一緒にやってみたいと思い、PharmaXを創業しました。

ー起業後はどのようにして事業を伸ばされて来たんですか?

まずはインタビューをして、IT化されたクリニックのニーズがあるかどうかを調査しました。すると、クリニックの売上のキーファクターは先生の人柄と立地が大きいことが分かったんです。ITが入り込む余地が乏しいと判断し、医療業界の中でITで大きなインパクトを与えられる領域を探すことにしました。ここから現在の事業である、薬のオンライン販売に行き着きます。病院に行くのが面倒、ドラッグストアで買える薬をオンラインで買いたいというニーズに着目したんです。アマゾンでも薬の販売はありますが、あまり買われていません。理由は知識がなくてよくわからないから。そこで、薬剤師の相談を付けてオンライン販売することにしました。最初は知り合いの薬局にECシステムを提供するかたちで開始し、拡大するにつれて自社の薬局も展開するようになりました。

CTOとしてテクノロジーの力で「実現力」を最大化する

ー上野さんがエンジニアとして大きく成長したと感じたエピソードはありますか?

現職で全部のコードを責任持って書いたことですね。例えば、今のプロダクトの裏で患者に合わせた薬を薬剤師に提案をする機能があります。そのためにはデータや管理画面の設計が必要なのですが、想像したよりも複雑なことをしないといけなかったんです。物を販売するだけのシンプルなECプロダクトではないので、ある機能を変えればオペレーションも変わる可能性があります。そのため、あらゆる状況を想像しながら開発をしています。

ーエンジニアとして大事にしていることは何ですか?

「想像力」を大切にしています。1つ前の回答と重複しますが、プロダクトに変更を加えた時に患者さんの行動や薬剤師の業務フローに影響が出ます。それを考慮した上で、プロダクトを設計することを心がけています。つまりは、影響範囲や将来という時間軸の視点を常に持って開発を進めることですね。

ーCTOに必要な3つの要素は何だと思いますか?

大きく言うと、「実現力」にあると考えており、それを構成する要素として3つあります。1つ目は、「メンバーの思考の邪魔にならないこと」です。開発力が弱いとプロダクトで実現できないことが増えてしまい、思考の幅を狭めてしまいます。そのため、何でもできるような強い開発組織を作りたいんです。過剰な要求に対して「エンジニアは魔法使いじゃない」と言われることもありますが、私は極端な話「エンジニアは魔法使いたるべき」だと考えています。会社がやりたいことを実現できるようにしたいんです。2つ目は、「会社としての構想や夢を語ること」です。これは社内だけでなく、社外も含めて発信していくことが重要だと思います。3つ目は、「人を集める力」。実現力の高い組織を作るために、最適な人を集める力が大切だと考えています。

PharmaXで「医療のライフサイクル全体の改善」と「個々人に最適化された医療の提供」を実現する

ー貴社の事業内容について教えてください。

オンライン薬局の運営および薬局OSの開発を行っております。当初は薬剤師へ体調の相談をした上で症状や体質にあった薬を購入できるセルフメディケーション事業からスタートしました。セルフメディケーション事業での知見を活かして最近は調剤事業もスタートし、処方箋受付から服薬指導、服薬後のアフターフォローまでオンラインで完結することでなめらかな医療体験をお届けしています。基本的に薬局はITメインで作られていません。そんな中当社はIT前提で薬局を作っています。わかり易い例でいうと、ほとんどの薬剤師がリモートワークをしている点など。ITをベースにしていることで、あらゆるものがデータ化しています。医療が定量データに落ちているのでエンジニアにとっては、データを使って改善できる面白さや、仕組みを0から作っていける面白さがあります。

ー今後会社で実現したいことは何ですか?

大きく2つの方向性があります。1つ目は、医療のライフサイクル全体を改善したいと考えています。クリニックや介護業界などとの連携強化を起点に、ITを使うからこそできる既存の仕組みにとらわれないアプローチをし続けたいです。2つ目は、患者さん個々人の医療の最適化の実現。このタイミングで病院に行ったほうが良い、このタイミングで薬を飲んだほうが良いといった判断を通して、患者の健康にとってのより良いプロダクトを追求していきたいです。

ー個人の夢はありますか?

世の中の色んなものをデジタル化したいと考えています。これは単なるDXではありません。特定のアナログな部分をIT化するのではなく、ありとあらゆるものをデジタル空間に置けてしまうプロダクトを作ってしまい、まるっとデジタル化を完了させてしまうというようなイメージ。こうすることであらゆる課題を解決できます。デジタル化できていないものがまだまだ多いので、プロダクトを少しずつ広げていきたいです。

人のためにエンジニアリングができる方を募集

ー貴社で募集しているエンジニアについて教えてください。どのような方と一緒に働きたいですか?

人のためにエンジニアリングができる方や、テクノロジーで世の中を変えたいと考えている方に来てほしいですね。そういった思いがあるからこそ、想像力を持って良いプロダクトを開発できるはずです。今の医療は、すでに作られた仕組みの上で人間が動いています。しかし当社が実現しようとしていることは、その仕組みを抜本的に改革すること。IT前提で考えることで、医療体験全体の流れをガラッと変えられるという面白さがあります。そういったことに少しでも興味がある方はぜひお話しましょう。

取材を終えて

東大卒で戦略コンサル出身という経歴から、切れ者という勝手なイメージを持ってインタビューに望みましたが、非常に気さくな方でいい意味でギャップがありました。「技術が制約にならず、むしろなんでもできる魔法使いになるべき」という言葉からは、一緒に働いている人は安心感を持つだろうと感じました。「想像力」が大事という上野さん。絶賛採用中とのことで、上野さんと一緒に、PharmaX社で医療の課題解決を“想像”できる方は、ぜひ門を叩いてみてはいかがでしょうか?

プロフィール:上野 彰大さん

東京大学農学生命科学研究科卒業。大阪府堺市出身。新卒でIGPI(経営共創基盤)に入社 し、2018年12月にMINX株式会社(現PharmaX株式会社)を共同創業。全社戦略、エンジニアリン グ責任者。趣味でエンジニアリング勉強会を数年続けている。得意なのは、統計、機械学習、 データ分析。

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