今回は、株式会社アイ・グリッド・ソリューションズで執行役員/技術責任者を務める岩﨑 哲さんのインタビュー記事をお届けします。岩﨑さんは、東京大学大学院で博士号を取得後AIベンチャー企業に役員として入社。当初は10名だった組織を100名規模まで成長させた経験をお持ちです。現在に至るまで、技術領域のみならず、事業の立ち上げや営業、組織マネジメントと様々な領域で経験を積んでこられました。そんな岩﨑さんは自身のことを「越境人材」と分析されています。カーボンニュートラルという大きな社会課題に挑む岩﨑さんは、どのような人物なのか。これまでのキャリアと価値観をお伺いしました。
インタビュー概要
お話を伺った企業さま
会社名 :株式会社 アイ・グリッド・ソリューションズ
設立 :2004年2月
資本金 :6,530,000,000円
代表者 :秋田 智一
所在地 :東京都千代田区
ミッション:グリーンエネルギーがめぐる世界の実現
事業内容 :
・分散型エネルギー資源等を統合活用可能なプラットフォームの開発・運営
・オンサイトソーラー発電所 の開発・運営及びそれらの支援・コンサルティングサービス
・蓄電池やEV関連サービスを含む、GX(グリーントランスフォーメーション)促進に係る各種サービス提供
・再生可能エネルギー資源の効率的な使用/循環を目的としたエナジートレーディングサービス
お話を伺ったご担当者さま
部署 / 役職:執行役員/技術責任者
氏名 :岩﨑 哲
東京大学大学院(博士課程)にて、環境学とウェアラブルコンピューティング・センサネットワークを研究。その後15年間AIベンチャーにて経営に従事し、ビッグデータ・AI・DXの研究開発・事業開発を担当。事業の立上げ・組織運営やAIの技術開発・顧客プロジェクトのマネジメントを担う。
2020年、当社子会社のアイ・グリッド・ラボ(2024年に吸収合併、現 株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ)に入社。AI・DXの経験・知見を活かし、エネルギーの新しいプラットフォーム構築事業を立ち上げる。2021年株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ 執行役員就任。
早稲田大学招聘研究員、青山学院大学非常勤講師を兼任。
キャリアについて
大学院で博士号取得後、AIベンチャー企業の取締役に就任:組織の10倍成長に貢献
私が初めてプログラミングに触れたのは、大学時代に遡ります。当時は、東京大学大学院でコンピューター技術を環境学に活かす研究をしていました。ウェアラブル端末の開発に着手し、ここで初めてプログラミングを経験しました。その中で、「センサーで取得したデータをどう活かすべきか?」という問いにぶつかります。この問いへの解決手段としてAIに興味を持ち、AIやデータマイニングを専業にしているベンチャー企業でインターン生として働くことにしました。インターン生時代から裁量を持って働くことができた環境に魅力を感じ、大学院で博士号を取得後はこの企業の取締役として就職。技術領域のPMを中心に事業の立ち上げや営業、組織マネジメントと多岐にわたる業務を経験し、当初は10名ほどだった組織が15年間で100名規模まで成長しました。
アイ・グリッドの技術責任者としてジョイン
AIベンチャーで15年間働いた後、2020年の10月にアイ・グリッドに技術責任者としてジョインしました。代表の秋田は前職時代のお客さんで、電力関連システムの開発支援をしていたんです。そんな中、私が転職を考えていたタイミングで、アイ・グリッドの新規事業について秋田とディスカッションする機会がありました。そこで、エネルギー分野では今後、AIやデータが非常に重要だと気づき、参画を決意しました。
私がアイ・グリッドに入った2020年10月は、ちょうどカーボンニュートラルの話題が活発になった時期です。菅内閣より、2050年までに、カーボンニュートラル(=温室効果ガスの排出を全体としてゼロとすること)を目指すことが宣言され、世の中が一気に脱炭素に向けて動き始めました。また、時を同じくしてコロナの影響もありエネルギー価格が高騰し、従来の事業における省エネや電力小売の方向を根本的に変えていかないといけない状況になります。そんな中、「再生可能エネルギー(以下、再エネ)の有効活用が社会や企業の付加価値創出に繋がる」という考えのもと、「GX(グリーントランスフォーメーション:脱炭素社会に向けて再生可能なクリーンエネルギーに転換していく取り組みのこと)」が注目され始めました。当社としてもデジタルをかけ合わせた新しいサービスを作るべく、AIやIoT、クラウド技術を活用した分散型エネルギープラットフォームの開発に着手しました。これが現在の当社の主力サービスを支える「R.E.A.L. New Energy Platform®」です。サービスの構想、初期実証を経て、現在は実用フェーズとしてアジャイルで開発を進めています。複数名いる現場のPMがお互いに連携を取って日々開発を進めており、私は全体の統括を担当。現場の課題に対してスピード感をもって開発を進め、現在は当社事業の根幹を担うプラットフォームとして成長しています。
AIとデータを用いてエネルギー業界にイノベーションを起こす
前職では受託開発を主に行っていました。クライアントから頂いた依頼をもとに、データ解析やAIシステムの開発を行う業務です。しかし、現在は自社プロダクトの開発に従事しており、仕事のやり方が違います。自社プロダクトを成長させながら、社会課題に対して付加価値を提供していかないといけません。世の中がスピーディーに動いている中で、新しい機能や事業を世の中に出していく。これは、前職では全くなかった動きです。その分、苦労も課題もたくさんありますが、自分の仕事が社会課題解決に繋がっていると感じるとやりがいも大きいです。
私自身、技術責任者という立場ではありますが、事業を大きくするためにテック関係以外の講演活動や新規事業開発も行っています。前職のベンチャー企業時代から営業や管理系の業務を含め幅広く対応していたので、ここはそれほど変わりません。そのため、プラットフォームの開発においてもテクノロジーの観点だけでなく、事業全体を見たうえで技術方針を決めていくようにしています。いわゆる「越境人材」に繋がるのですが、事業成長を実現するうえで、このような「多角的な視点」は非常に重要だと考えています。2050年のカーボンニュートラルの目標達成に向けて世の中にしっかりと価値を届け、社会課題を解決していきたいです。
考え方・マインドについて
自律的なメンバーによる有機的なネットワークが成果に直結する
プロダクトとして成果を出すために、エンジニアにはのびのびと仕事をして欲しいと思っています。実際、ITガバナンスやセキュリティなどの観点からITエンジニアは制約の多い職業です。しかし、事業を大きくしていくためにはその制約の中で妥協点を探り、新しいチャレンジをしていかなければなりません。もちろん、のびのびやることには一定の責任がともないます。各々のメンバーがプロとして強い責任感を持ち、自律的に活動する。その上で、メンバー同士が有機的にネットワークすることが組織全体の成果、個人の成長に繋がると考えています。実際に、「R.E.A.L. New Energy Platform®」では、構想からプロトタイプの実装、実証まで半年ほどで実施しなければならないタイトな状況でした。その短い期間の中で、AWSなどの新しい技術を積極的に採用し、最終的に実用化にまでこぎつけました。まさに当社メンバーの「個の強さ」が発揮されたプロジェクトだったと思います。これにはスポンサー企業もとても驚いていましたね。
世の中から今後求められるのは「越境人材」
私が考える「強いエンジニア」は、「越境人材」です。特に最近のエネルギー領域では、電気やクラウド、AI・IoT、現場の施工管理など、求められる知識やスキルの幅が広いという特徴があります。ただ、それぞれの分野の専門家がいるので、一定の知識を持ちながらも全体を俯瞰し、各所の橋渡しができるエンジニアはすごく貴重な存在です。これだけ変化の激しい時代ですから、特定の専門領域だけでなく、新しい領域の組み合わせによってイノベーションを起こせる人材は今後も重宝されるでしょう。
パートナーとのオープンイノベーションで事業成長を加速させる
現在当社では、パートナーとのオープンイノベーションで複数の開発プロジェクトを効率的に進めています。プラットフォーム上に複数のアプリが乗っており、各アプリに個別のPMがいる組織体制です。しかし、昨今のIT人材不足の世の中では、事業成長のスピードに対してどうしても正社員の採用のスピードが追いつかないこともあります。そのため、パートナー(業務委託やフリーランスなど)の有効活用をしています。コロナの影響もあり、働き方の多様化もかなり進みました。適材適所でうまく組み合わせて人材リソースを確保することが、最終的な事業成長に繋がると考えています。
アイ・グリッド・ソリューションズで働きたい方へ
AIを用いた電力需給予測プラットフォームで「再エネの地産地消」を目指す
当社は、日本各地のGXを推進するプラットフォーマーとして、太陽光発電のPPA(Power Purchase Agreement)事業を行っています。スーパーやホームセンターの屋根の上に太陽光パネルを設置し、ファイナンスを活用して初期費用なしで導入できるスキームを用いています。太陽光パネル自体は当社の資産となり、20年間の長期契約で初期投資を回収するモデルです。顧客には、「初期費用をかけずに電気代を抑えながらクリーンなエネルギーを確保できる」というメリットがあります。今後3年で市場規模は10倍になるといわれていて、現在当社はこの事業領域で国内No.1のシェアを獲得。国内に広がる分散型の太陽光発電のエネルギーをコントロールする必要があります。再エネは天候に左右される特性があるため、不安定なエネルギーです。そこで、AIを用いて発電量を予測する「R.E.A.L. New Energy Platform®」というサービスを開発しました。「再エネの地産地消」を目指し、必要電力と発電量の需給をコントロールすることで、余剰電力を無駄なく活用できるんです。
再エネの地産地消を実現する「GX City」に向けて
当社の事業は主にBtoBです。流通小売と物流企業がメインのお客様ですが、今後は物流の倉庫や商業施設をたくさん持っている企業様にもターゲットの幅を広げていきたいと考えています。エネルギー価格が非常に高騰している状況下では将来の電力価格の見通しは難しいです。その上、脱炭素に対しての情報開示も求められるようになってきます。そこで、再エネを固定的な価格で長期的に活用し、再エネ自給率の向上を支援していくのが当社の役割です。
また、現在はPPA事業がメインですが、アライアンス先と取り組みの面を広げる活動も行っています。具体的には、大手不動産会社や地銀とESGのファイナンスを地域の中で還元していくプロジェクトなどです。この取り組みは地域雇用を生み出す効果もあるので、全国展開を目指して挑戦しています。その他には、EVのクリーン電力化や余剰電力を活かした新しいGX(Green Transformation)の提供なども始めており、最終的な目標として、再エネの地産地消を実現する「GX City」を作りたいと考えています。
自分の可能性を広げ、社会課題の解決に向き合えるエンジニアを募集!
電力やエネルギーといった領域は、一見とっつきにくいイメージがありますが、やってみると面白くて奥が深いです。あらゆるものがデータ化されているので、「そのデータをどのように活用していくのか?」と考えてサービスを改善していくプロセスはやりがいがあります。実際に、メンバーの9割くらいは業界未経験で入社しています。当社にはチャレンジを推奨し、失敗を許容する文化があるので、未経験の方が逆に先入観なく新しい取り組みができるという良い側面もあるかもしれません。特定の領域に限らずいろんなチャレンジができるので、自分の幅を広げて挑戦したい方にとっては、すごく魅力的な環境があると思います。経営陣としては、そのような方々が働きやすい環境や成果を出しやすい環境を作っていきたいと考えているので、カーボンニュートラルという難しい社会課題へのチャレンジに興味がある方は、ぜひお話しましょう!
取材を終えて
インタビューを通して、岩﨑さんの「事業成長にかける情熱の高さ」をひしひしと感じました。それも、AIベンチャー時代の多岐にわたる業務経験によって形成されたのでしょう。様々な業務を経験しているからこそ、「近視眼的」なものの見方ではなく、「多角的」な視点で物事を捉え、数々の課題を解決に導いてきたのだと推察しました。持続可能な社会を実現するために、カーボンニュートラルは避けては通れません。2050年までのカーボンニュートラル実現。あと25年ほどで、温室効果ガスの実質的な排出量がゼロの世界の実現をみなさんは想像できるでしょうか。そんな一見不可能とも思える大きな目標を目指されているのが、岩﨑さんをはじめとしたアイ・グリッドのみなさんです。これまで数々の課題を解決に導いてきた「越境人材」の岩﨑さんであれば、エネルギー業界で革新的なイノベーションを起こし、カーボンニュートラルな世界の実現を手繰り寄せてくれるのではないかと期待が膨らみます。