Slack Developer Advocate: Tomomi Imuraさん
世界100カ国以上で800万人以上が利用するビジネス向けチャット「slack」のサンフランシスコ本社に勤務している Tomomi Imuraさん。活躍の場は現職に留まらず、日本とシリコンバレーを繋ぐカンファレンスの講演など多岐に渡ります。
そんなTomomiさんの現在に到るまでの話から今後の目標や課題を含め、大いに語ってもらいました。抜群のセンスで世界のエンジニアを魅了した『猫』のお話も登場します。
現在のお仕事、ポジションについて
こんにちは。現在サンフランシスコの Slack 本社で Developer Advocate の Tomomi Imura です。以前はマネージメントも含め、Developer Relation の仕事の全般をこなしていたこともあります。
ですが、今の会社では担当を分けていることもあり、私は Slack API の使い方を説明するチュートリアルを書いたり、ワークショップやWebinar のコンテンツを作ったり、そこで使うコードのサンプルやテンプレートを書いたりと、Developer education の分野に集中しています。
他は、カンファレンスなどで、Slack のテクノロジーそのものだけではなく、関連したテクノロジー、例えば、NLP (natural language processing) と Node.js を使った Conversational interface などの講演をしています。
現在の活動において何を重視していますか
私が重視しているのは、全てのプラットフォームプロダクトに共通する課題である、Developer Education、つまり開発者へどうわかりやすく API や SDK、ツールを使ってもらうかわかりやすく説明することに力を入れています。
そのための content strategy も重要になって来ますし、使いやすいシステムやわかりやすいドキュメンテーションをつくるための Developer Experience にも心がけなければなりません。
現在に至るまで 生物学の研究室からシリコンバレーへ
もともとはマサチューセッツで生物学の研究室にいましたが、大学院でプログラミングの勉強もしていたのでそちらの方にはまってしまい、それが高じて大学院は続けず、のちにサンフランシスコで仕事をするために引越てきました。
その後はフロントエンドのエンジニアをしばらくしていました。私はデザイナーとしてはプロではないですけどクリエイティブなことが好きでした。
決まったプロジェクトよりも思いついたアプリを作ったりすることのほうが楽しいのでそういう半分ふざけて書いたコードを発表したり、ブログで書いたりしているうちに、たくさんの人から反響がありました。
そこで、多くの人にテクノロジーの話をすること自体が好きなのだと気づき、Developer Relations にキャリアを変えたのがかれこれ8年ほど前になります。
当時は業界でもまだ珍しい職種だったのでかなり手探りだったと思います。今ではたぶん誰よりも エンジニア兼DevRel の経験があることもあり、メンターとして、若い人たちの相談相手をすることが多いです。
そういうこともあり東京の、英語だけで授業をするコードブートキャンプ、コードクリサリスのアドバイザーもしています。
無機質なHTTPステータスをかわいい猫で表現して世間を驚かせましたが、Tomomiさんにとって猫とは?
私の一番の強みは大好きな猫とテクノロジーを強引に繋げることです。昔から勉強中に理解するためにネコのらくがきを描いて図にしたりしていました。 HTTP status コードを猫で表現、というのもヒマな時に急に思いついたのを発表したらとてもバズった、といった感じです。
他にも、Raspberry Pi と、猫顔認識ソフトを使った KittyCam は私の GitHub 上のプロジェクトではたくさんスターがついているので、国籍問わずエンジニアはみんな猫が好きなのだなあと感じます。
最近では気が向いた時に “git purr” というネコで git の説明をした落書きをツイッターで発表しています。
猫は長いこと何匹も飼っていますが、いまうちには、サンフランシスコのシェルターから里子でもらって来た、Jamie と Leia の2匹の猫がいます。Leia は一度近所の家の屋根から降りられなくなり、消防士さんに助けてもらったと言う、いかにもな「アメリカ猫あるある」を経験しています。
忙しい消防士さんに時間を使わせてしまったことと、サンフランシスコ市のみなさんの税金をうちの猫のレスキューのために使ってしまったことは申し訳ないと思っています。
今後の課題と目標
シリコンバレーバブルから抜け出すことです。ここで言うバブルとは、バブル経済のバブルではなく、「living in a bubble」、自分の知る世界、安全圏に住んでいることを示し、それを破って外へ飛び出す必要がある、ということです。
文字通り、どこかへ行く、という意味でもありますが、実際はシリコンバレーセントリック(至上主義)な考え方に固執しないで柔軟な考え方をしたい、と思っています。
私は長くサンフランシスコ、ベイエリアに住んでいるので、カフェに行ってもスーパーへ買い物に行っても、かならず誰かがエンジニアだったり起業家だったりでそういった話をしているという日常にいます。
たまに旅行に行って初めて「ああ、自分の普段の日常はよそでは非日常なのだな」と感じるほどです。ある種の異常な空間に長くいると外が見えにくくなって来ますので、そこから抜け出すのが大事だと思っています。
これは私個人の課題というより、シリコンバレー全体がエゴイズムから抜け出す必要があると思っています。
現在、日本は Slack の市場ではアメリカについで第2と大きな市場となっています。会社としてもチームとしても、もっとグローバルな視点で言葉や文化の違いも考えなければなりません。
自分たちのやり方を押し通すのではなく、もっと柔軟でグローバルに開発者コニュニティを広げ、サポートしたいと思っています。
2018年7月に開催されたDevRelCon Tokyo 2018の手応えはいかがでしたか
DevRelCon Tokyo では去年、今年と2回とも登壇させてもらいましたが、私から学んでもらうというよりも私が学んだことの方が多いと思います。
日本は世界的にも特殊な市場だと思います。
私は日本人でもあるのでいろんな人から日本のディベロッパー文化について聞かれることがありますが、正直日本で、もしくは日本企業で働いた経験がゼロですので、first-party として答えることはできません。なのでこうして東京へたびたびカンファレンスなどで行ってたくさんの人たちと話をするのはいろんな意味で新鮮です。
日本のプレゼンターと、その他のプレゼンターのスライドのデザイン、プレゼンスタイルがあきらかに違うことからもカルチャーの違いを感じ面白かったです。
私の登壇内容に関しては正直、みなさんがどう受け取ってもらえたかはあまりわかりません。と言うのも、このカンファレンスはプレゼンターは全員英語で話すこともあり、私のトーク内容が100%伝わったようには思えませんでした。もう少しゆっくりわかりやすく話すべきだったと反省しています。
日本のエンジニアに向けてのメッセージ
シリコンバレーにいる私たちは、さきほども言ったようにバブルの中は特殊だということを知っていますし、ここで起こっていること全てが正しいとは思っていません。が、日本のみなさんはシリコンバレーへの憧れが大きく、手放しで賞賛し、同じようにすることを望んでいるかのように思うことがあります。
最近はツアーを組んで多くのシリコンバレーの会社訪問をする企業さんも増えているようです。現地で学ぶという姿勢は素晴らしいですが、短期間の訪問だけで本質を知るのは困難だと思います。問題点などは見えにくいのではないでしょうか。
むしろ自分たちが既に持っているカルチャーやビジネス戦略をどう生かすかを優先すべきだと思います。それによってこちらシリコンバレーが真似をする事態が起きた方がかっこいいかとすら思います。
たとえば絵文字は今でこそ全世界の共通言語ですが、もともとは日本発祥です。可愛いステッカーをチャットで送ったりすることも、日本や他のアジア圏が始めないと起き得なかったかもしれません。
もちろん日本というバブルの中で孤立しないためにも英語を勉強することも大事だとも思います。エンジニアの方はたぶん他の職種の方より英語に触れる機会が多いかと思いますのでさらに英語ができるとエンジニアとしても学ぶことも、外の人に伝えることもさらに多くなり視野も広がるのではないでしょうか。