「エンジニアは黙々と画面に向かって仕事をしているので、コミュ力はあまり重要ではない」と思っている方が意外といらっしゃるようですが、それは間違っています。ちょっとした趣味のプログラミングならともかく、仕事で行うシステム開発は一人ではできません。コミュニケーションスキルはエンジニアにも必要なスキルの一つです。

ところで、コミュニケーションスキルというと、みなさん、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 営業さんのように「スラスラ話せる」スキルと思っているかもしれません。

しかし、この「コミュニケーションスキル=話術」という考え方、正しくありません。例えば、“無言の圧力”も立派なコミュニケーションスキルです。

今回は、こうしたコミュ力やコミュニケーションスキルへの勘違いを指摘するとともに、エンジニアが必要とする真のコミュニケーションスキルをご紹介いたします。

正しいコミュニケーションスキルとは?

結論から言えば、正しいコミュニケーションスキルとは「相手に目的の行動を行わせる対人スキル」です。営業さんであれば相手に商品を買ってもらう、刑事さんならば目撃者から事件解決につながる情報を引き出す、就職活動中の方なら企業に採用してもらうなど、ある目標のために行われる対人交渉テクニックがコミュニケーションスキルです。

営業さんにとってのコミュニケーションスキルは、「相手から質問や反論が出ないくらい、しっかりしたセールストークをスラスラと話して、納得して買ってもらう話術」のことかもしれません。一方で、刑事さんの場合、自分が話すというよりも、「相手から情報を引き出すために、相手が話しをするように仕向ける話術」がコミュニケーションスキルと言えるはずです。

また、冒頭に書いた通り、“無言の圧力”も相手にある行動を行わせる方法の一つです。“無言の圧力”は営業さんでも刑事さんであっても役に立つ、汎用的なコミュニケーションスキルです。

このように考えると、実はいわゆる“コミュニケーションスキル”は、どの立場や業界・職種であっても役に立つ汎用的なスキル・テクニックと、立場や業界・職種に応じて必要となるスキル・テクニックがあるのです。

汎用的なコミュニケーションスキル

コミュニケーションスキルの実態像が見えてきたところで、まずは汎用的なコミュニケーションスキルについて、見ていきましょう。様々な意見や反論もあると思いますが、今回は私の主観で、以下の三つのスキルをご紹介したいと思います。

①自分の言いたいことを伝えるスキル

②相手の伝えたいことを理解するスキル

③自分の本心を隠すスキル

では、一つづつご紹介いたします。

①自分の思いを伝えるスキル

別にスラスラ話せる必要はないですが、そもそも“何を考えて、なぜ交渉するのか”を明確にする必要があります。

言うまでもなく、ビジネスの相手は親や恋愛相手ではありません。無償の愛で無条件に話を聞いてくれるわけではないのです。話をする価値があるので、話をしているのに過ぎません。

そのことを意識して、「打ち合わせは目的と目標を決めて行いなさい」と教授する書籍も多いですが、打ち合わせではなくても、仕事で行う会話は、例外なく目的と目標を持って行われる必要があります。

口下手な自覚がある方は、アジェンダやパワーポイントあるいはその他のドキュメントを使って “資料に語らせる”のもありです。

②相手の伝えたいことを理解するスキル

一方的に自分の意思を伝えるだけでは、まとまるものもまとまりません。相手の思いやニーズを理解し、お互いが納得できる落としどころを見つけられるスキルも重要です。

ちなみに、外交官の世界では「6:4で自分たちの方が得をした、とお互いが思える交渉結果になった交渉」が良い交渉と言われるそうです。

③自分の本心を隠すスキル

自分の思いを伝えるスキルと矛盾しているかもしれませんが、必要に応じて、相手に自分の真の意志を隠して悟らせないのも、重要なコミュニケーションスキルです。

本心を隠すというと、“本当は5万円でできる仕事なのに、8万円要求する”といった、よりよい交渉条件を引き出すためのテクニック、というイメージを持たれるかもしれません。もちろん、そういった状況もあります。

しかし、それ以上に、“相手の内情について知らないふりをする”、“自社の経営計画で、来期は契約延長をしない方針になったが、まだ、それを先方が知らない”など、ビジネスを進める上で角が立つ情報を、相手に感づかれないように心のうちに隠しつつ、有利な条件を引き出そうと交渉する、という状況の方が現実のビジネス現場では多いです。

エンジニアが特に重要とするコミュニケーションスキル

エンジニアが特に重要とするコミュニケーションスキル

次にエンジニアにとって特に重要なコミュニケーションスキルについて、やっぱり私の主観で二つご紹介したいと思います。

①質問すべき人に、適切なレベル感で質問するスキル

②呼んでもらえるスキル、誘ってもらえるスキル

こちらも一つづつ見ていきましょう。

①質問すべき人に、適切なレベル感で質問するスキル

IT業界、いうまでも変化が速いです。自身の経験のない新しい技術に興味をもって、あるいは業務で使う状況に追い込まれることも多いです。そういう状況になった際に重要になるのが「知っている人に教えてもらう」です。

そして、「知っている人に教えてもらう」ためには、「Who knows?(誰が知っているの?)」を把握し、その人が「答えやすいレベル感で質問する」のも重要です。

要件定義など、システムの設計においても同じです。例えば、要件定義時、直接、エンジニアとやり取りしているクライアント担当者の知識やスキルが怪しい、と感じたならば、本当の要件がわかるクライアント側のメンバーを巻き込み、その人から直接、要件を引き出すことを考えた方が良いです。

当然、巻き込んだクライアント側のメンバーにIT知識がないことも考えられるため、質問の用意を普段以上に周到にして、打ち合わせ当日も、相手の伝えたいことをくみ取る努力がより必要になることも多々あります。

②呼んでもらえるスキル、誘ってもらえるスキル

これはコミュニケーションスキルというよりも、エンジニアが目指す理想の姿といえるかもしれません。

「今から、飲みに行くけれど、来ない?」とよく誘われている人、周りにいませんか? それと同じような感覚で、「あの人、うちの現場に来てくれないかな」と多くの人に思われるエンジニアというのが、サラリーマンエンジニアでもフリーランスエンジニアであっても一定数います。

単純に話が上手いとか、仕事ができるといった、ありふれた条件だけではない、「本当の意味でコミ力が高くて人間としての魅力に溢れたエンジニア」にしか至れない境地と言えるかもしれません。

そこの領域に至るのは簡単ではありませんが、多くの方に愛され、現場に求められるエンジニアになれば、絶対に仕事がなくなることはありません。

まとめ:コミュ力は話術ではない

何度も繰り返していますが、コミュニケーションスキルはスラスラと話せることではありません。状況や職種などによって、必要となるコミュニケーションスキルには違いがあります。また、「Who knows?」を把握するなど、コミュニケーションの準備も含めた幅広い概念です。

いずれにせよ、仕事で行うシステム開発には、開発チームの他のメンバーやプロジェクトマネージャー、さらにはクライアントやユーザーなど、様々な関係者が登場します。ITスキルと同じくらい、コミュニケーションスキルも、エンジニアとして生きていくためには重要なのだと意識するようにしましょう。

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