近年、IT業界でもリファラル採用が広がっています。当初はベンチャーや、中小企業中心でしたが、今では中堅~準大手、さらに上場企業でも利用されています。

その結果、「会社から、だれが良い人材がいないか紹介して欲しい」と言われた、あるいは、「転職中だと知り合いに相談したら、リファラル採用について、興味がないか聞かれた」という人が増加しています。

そこで今回は、「リファラル採用は縁故採用となにが違うの?」といった基本的なところから、リファラル採用を行っている企業の人事課関係者に聞いた、企業側の本音、リファラル採用された人の本音も交えながら、お送り致します。

リファラル採用とは?

リファラル採用とは、自社社員による推薦採用になります。GoogleやFacebookなどアメリカのIT企業などで行われ始めた採用方法となります。

推薦による採用と聞くと、昔ながらの縁故採用と同じように聞こえますが、縁故採用は、ほとんど無条件で内定をもらえるのに対して、リファラル採用は一定の採用基準を設けている点が異なります。転職サイトから応募した一般応募者と同じ採用プロセスを経る会社も少なくありません。

ですので、リファラル採用を目指したのに、内定が出なかった、という話も多いです。

また、優秀な新卒者を獲得する方法として利用されることの多い、リクルーター制度も社員による人材推薦、という意味では似ているかもしれません。

しかし、リクルーター制度は会社に指名された特定の社員がリクルーターとして採用に関わるのに対して、リファラル採用は全社員が人材の推薦ができる、対象は中途採用者といった点で、大きく異なっています。

リファラル採用する企業の本音

リファラル採用について、概ね仕組みがわかったところで、いよいよ本題です。

まずは人事担当者から聞いた、リファラル採用を行う企業の本音を見ていきたいと思います。

⇒企業がリファラル採用に感じるメリット

リファラル採用を行う最大のメリットは、“コスパが良い”という点です。

転職サイトに求人情報を出したり、転職エージェントに人材紹介を依頼するには、それなりのお金がかかります。しかも、昨今、エンジニア不足が叫ばれている通り、転職市場が売り手市場になっています。

つまり、せっかく転職サイトや転職エージェントにお金を払ったのに、良い人材が応募してくれない可能性が存在します。上場しているような大手企業ならともかく、中小企業や、まだ創業してまもないベンチャー企業ならば、会社名が社会に認知されておらず、「そもそも、そんな企業が存在していて、求人を出していると知らなかった」ということも往々にしてあります。

その点、リファラル採用であれば、転職サイトや転職エージェント経由では出会うことができなかった人材に、出会える可能性が高まります。

また、リファラル採用で採用された人材を紹介してくれた社員に対して報奨金を支払う会社も多いですが、そのことで社員がさらに良い人材を紹介してくれるかもしれません。リファラル採用は転職サイトや転職エージェントにお金を払うより、“良いお金の使い方”と考えている人事関係者は少なくありません。

二つ目のメリットは、“リファラル採用の社員は離職率が低い傾向にある”と考えられている点です。

まだ日本企業で利用されるようになって5年程度しか経っていないので、本当にリファラル採用の社員は離職率が低いのか、検証可能なデータは少ないというのが実態ですが、リファラル採用された社員から“個人的な人間関係を背景にしているため、辞めにくい”という意見も出ているため、一定の効果があるのは間違いなさそうです。

⇒企業がリファラル採用に感じるデメリット

リファラル採用は失敗だった、とおっしゃる人事担当者もいらっしゃったので、そのデメリットを聞くと、二つ、失敗だったと感じる点を教えてくれました。

一つ目は“社員のキャラクターに偏りができて、ゆるくではあるが派閥が形成された”という点です。

結局のところ、リファラル採用では、推薦した社員と、もともと仲が良かった人が入社することになります。性格的にも似ていることも多いです。そのため、ある社員と繋がりのある人の入社が相次ぐと、社内の人間関係や社内のパワーバランスが微妙に変化することがあります。

リファラル採用で失敗したとおっしゃっていたのは、社員数が100名を下回るベンチャー企業の方ですが、社員数が少ないがゆえに、ある社員(ここでは、仮にAさんとしましょう)に繋がりのある数名のリファラル採用によって、社内の政治バランスが崩れ、社内の空気が悪くなってしまったそうです。

そして、二つ目は、一つ目のデメリットの結果ですが“想定外の離職の連鎖が起きてしまった”という点です。

社内の空気が悪くなってしまった結果、既存の社員が数名、退職してしまったそうです。しかも、Aさんとつながりがあって、リファラル採用で採用された一人が辞めた結果、Aさん自身や、さらにAさんとつながりのあった他のリファラル採用者も相次いで退職してしまったとのこと。

つまり、社員数を増やすために導入したリファラル採用で、社員数が減ってしまう、という事態に陥った訳です。お話ししてくれた人事担当者は“今後も、リファラル採用を続けるつもりではあるけれど、採用基準をより厳密化する”とおっしゃっていました。

リファラル採用されたエンジニアの本音

次に、リファラル採用された社員の本音について、聞いておきましょう。

⇒求職者がリファラル採用に感じるメリット

“企業とのミスマッチを防げる”という点が最大のメリットでしょう。

リファラル採用の話を持ってきてくれた知り合いを通して、企業文化や働き方、業務内容、そして年収などについて詳細に確認することができるので、入社後に「思っていたのと違う」という残念なことにはなりにくいです。

なお、リファラル採用の場合、書類選考や一次面接を免除という企業も一部では見られますが、リファラル採用は縁故採用ではありません。そうした採用プロセスの簡易化などは期待しない方が良いでしょう。

⇒求職者がリファラル採用に感じるデメリット

実は、リファラル採用された社員たちに本音を聞くと、“リファラル採用されたことは失敗だった、とは思わないものの、デメリットも大きいと感じる”という意見が以外と多いです。

みなさんが感じる共通の問題点としては“リファラル採用されると、だれだれの紹介というバイアスをかけられてしまう”という点でした。

もちろん「あの人の知り合い」という情報が有利に働く場面もあるものの、「あの人の知り合いだから、こんな人なのだろう」といイメージが先行して、変な期待をかけられたり、逆に、冷たく扱われたりする局面がしばしば存在するそうです。

また、企業側のメリットにも書きましたが、「知り合いの紹介で入社したので、なんとなく、辞めにくい雰囲気がある」という意見もありました。一歩踏み込んで、プライベートで仲が良く、現職を紹介してくれた社員が辞めてしまった後、その人とは疎遠になった。会社でも、“なんであいつ辞めたの”と聞かれて面倒だった“と実害を感じている人もいらっしゃいました。

他にも、「昔、前職の会社にいた先輩に勧められてリファラル採用で転職したけれど、今までの勤務先からすると“引き抜き”とみなされて、前職の人との関係が悪くなった」という声をありました。

まとめ:リファラル採用は有意義なの?

今回、私が聞いた範囲では、リファラル採用は採用する側、採用される側双方に、メリットもある反面、デメリット・リスクも存在するということが分かりました。リファラル採用が有意義と言えるかどうかは、その人の価値観・マインド次第と言えるのかもしれません。

ただ、求職者サイドで見ると、普通に転職サイトや転職エージェントに登録しているだけでは見付けられなかった求人情報や、企業の実態を把握することができる、という点では、意義のあるものだと言えます。

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