SES会社とは?自社開発等との違い
その前に、SESについて、どういったものかを確認しておきましょう。SESとは、System Engineering Service(システム・エンジニアリング・サービス)の略です。Wikipediaにも「委託契約の一種(委任・準委任契約等)で、システムエンジニアの能力を契約の対象とするもの」と書いてありますが、早い話、“クライアントがシステムエンジニアの作業を外注する契約”です。
ネットで調べると悪評がたくさん出てくるSESですが、SESにも良いところがあるんだよ、という話を今回はしたいと思います。
いわゆる自社開発は、自社でリリースするシステム(自社のプロダクト)の開発を行うのに対して、SESの場合、自社でリリースしない、他社のプロダクト開発をお手伝いする、というイメージです。
ここで重要なのは、あくまで「決められた範囲でシステム開発をお手伝いする」のがSESであるということです。どういうことかと言うと、クライアント企業で仕事を進める客先常駐だとしても、SESのエンジニアに対して、クライアント企業側の担当者が指示を出せないのです。
しばしば、クライアント企業の担当者が客先常駐しているSESのエンジニアに、仕事の依頼や出退勤管理をしている事例がありますが、これは完全に違法行為です。たまたま近くにいるだけであって、クライアント企業とSESのエンジニアでは所属する会社が違うため、「これもやっておいて欲しいのだけれど」といった風に、直接的に指図することはできません。仕事の依頼は企業間の正式な契約の手続きを踏んで行う必要があります。
さらにSES(をはじめとする委任契約・準委任契約)には、出来高払いではない、という特徴もあります。つまり、できる範囲で努力したけれど、開発完了しませんでした、納期までに納品物が作れませんでした、というのが(建前上)許される契約になっています。では、単価はどうやって決められるのかというと、アルバイトと同じで、時給計算されます。
出来高払いではないというSESの特徴は、クライアント企業からみると不安要素です。そのため、大手企業を中心に「割高になっても良いから、SESではない契約」を行うパターンが増えた、という話も一部で聞きます。とはいえ、そのような動きはまだまだ一般的ではなく、日本のIT企業、特にシステムインテグレーター(SIer)業界では、多くのSES会社が存在しています。
良いSES会社の特徴は?
良いSES会社と悪いSES会社の差を端的に言い表すと「メンバーに技術力を身に付けさせる意思と環境がある会社なのか?」に尽きます。しばしばネットで“技術力を育てられない”、“単価が低い”、その結果として“人が定着しない”とSESのことを批判する方がいらっしゃいますが、それは悪いSES会社の典型的な特徴です。
SESについてWikipediaに「システムエンジニアの能力を契約の対象とするもの」と書いてありました。これはSES会社からすると、「傘下のエンジニアの能力が高いほど、契約で有利になる」という意味でもあります。真っ当なSESの会社であれば、会社の売上アップ、ひいてはメンバーの報酬アップに繋がるため、能力向上の機会や制度を作っているはずです。
逆に、そうした人材育成制度のないSES会社は、エンジニアを“いくらでも替えのいる消耗品”として見ている「ヤバイSES会社」である可能性が極めて高いです。
ヤバイSES会社を見分けるコツとしては、能力開発制度や平均勤続年数、キャリアのモデルプランなどを営業や採用担当に聞いてみると良いでしょう。言い淀むようだと、ちょっと危ないかもしれません。
また、通常、採用時の面接には現場のリーダークラスのエンジニアが出てくるはずです。SESは基本的に客先常駐ですので、技術力以前に、キャラクター(人間性)が現場に合うかどうかも重要だからです。ところが、現場のエンジニアと会う機会がないまま、採用話だけどんどん進むSES会社も要注意です。
SES会社の将来性は?
日本のIT業界、特にシステムインテグレーション業界はSESが大きな役割を果たしています。そういった観点で言えば、SES会社で働くのは悪くない選択肢だと思います。特に“新卒ではないIT未経験者”がこの業界に入る場合、SESがもっともベターなルートになるかと思います。
ただし、将来性の高いSES会社と、将来性の低いSES会社の二極分化が進んでいると感じます。
IT業界の多重下請け構造が問題になっていますが、SESも多重下請け構造が一部で見られる状況です。結局、IT人材が足りていないので、一次請け(元請)企業だけでは十分のメンバーが揃えられず、二次請け、三次請けを使って、人材を集めてくる状況が現実として発生しています。
そして、このような多重下請け構造の中で仕事をすると、“所属する会社が何次請けの会社なのか”で、給与や権限、仕事の領域が変わってしまいます。元請け企業のメンバーは上流工程から参画し、二次受け以下の企業メンバーはただの作業者でしかない、という現場もよくあります。
しかも、下の方の下請け企業ほど、会社としての規模や売り上げも小さいため、経営層にはその意思があっても、十分な人材教育ができない、大手の方が手厚い、ということも良くあります。
さらにSES会社はとても数が多く、現在でも日本全国に千社以上あると思うのですが、新たに創業するベンチャー系SES会社も年十社程度ある状況です。他社と契約争いで勝つためには、“他社にない独自のメリット・付加価値を打ち出す”か、“単純に価格勝負する”の二択ですが、これだけライバルが多いと中小零細は価格勝負に走りがちです。
そういう意味でも、しっかりとした経営基盤があり元請けになれる、比較的、大手と言えるSES会社は安心ですが、そうではないSES会社の将来性は必ずしも明るくないのかもしれません。
SES会社(入社難易度が低め)から始めるキャリアパスを提案
さて、最後に、IT未経験者へ向けて、SESからスタートするキャリアプランを提案したいと思います。上でも触れましたが、“新卒ではないIT未経験者”がこの業界に入る場合、SESがもっともベターなルートです。
実のところ、「ITは人材不足で転職しやすい」というのは嘘ではないですが、正確な表現ではないです。やっぱり名の知れた大企業や、今を時めくITベンチャー企業の場合、“新卒ではない、まったくの未経験者”をエンジニア要員として採用することは、ほぼありません。
一方で、SES会社ならば“新卒ではないIT未経験者”を採用してくれることが多いです。まずは、きちんと人材教育を行って、エンジニアとして必要なスキルを身につけさせてくれるSES会社に入社して、業界経験者になり、実績を重ねていくのが良いかと思います。
そして、ある程度、自分の進みたい方向性や、エンジニアとしての程度のようなもの、そして会社の状況が見えてきた段階で、社内に残ってより上位の職を目指す、上流工程に進むため、あるいは待遇改善のために転職を行う、そして、フリーランスになる、といった選択を行うと良いでしょう。
まとめ:SESはIT業界デビューにおすすめ
繰り返しになりますが、SESは新卒ではないIT未経験者に対して広く門戸を開けていますし、真っ当なSES会社に就職できれば、技術を身に着けることにもつながります。
ネットでSESについて悪い評判も見受けられますが、日本のIT業界でSESが大きな役割を果たしている現実があります。特に中途採用枠でIT業界デビューを目指す方は、食わず嫌いをせずに、キャリアパスの一部として、SES会社への就職を検討してみてください。