AI(特に深層学習/機械学習)研究開発における専門性と、クラウド技術活用における実現力の両輪を強みとする株式会社KUNO 取締役CTO・新村 拓也さんにインタビューしました。新村さんは一般的なシステム開発から、先端の機械学習までご自身の活動の幅を常に広げられており、機械学習分野のGoogle Developers Expertsでもあります。そんな多岐に渡り活躍する新村さんのキャリアを振り返り、新村さんを突き動かす原動力の源に迫ります。
ブックオフで100円の技術書を買って 独学でスタート
―エンジニアを志した原体験とキャリアの出発点を教えてください
小中学生のころ、アニメや漫画やドラマに出てくるハッカーがパソコン1つで何でもできてしまうシーンを見て、「エンジニアってカッコいいな」という漠然とした憧れがありました。ただ本当にエンジニアの道に進みたいと思ったのは、大学1年の終わりぐらいです。周りのCTOと比べると遅いと思います(笑)。大学1年時では、これといって得意だと人に誇れる分野が特になく、手に職をつけたいと思い、プログラミングでモノを作って得意な分野にしたいという思うようになりました。当時はバンド活動をしていたのでお金がなかったため、ブックオフで100円の技術書を買って、独学でC言語やJavaの勉強を始めました。しかし古い本だとWeb開発の勉強をする際にNetscape Navigatorに関する記述が出てきたりと、情報が古すぎて、独学に限界を感じました。
大学2年時に「働いて覚えるしかない」と思ったのと同時に「お金も稼げればいいな」と考え、インターンを募集している企業複数社に応募しました。大学に入ってからスマホを手にしたこともあり「手元にある端末を動かせるモノを作れたら面白いな」と考えて、Androidのアプリ開発を手掛けるベンチャー企業を選び、インターンを始めました。それがキャリアの出発点ですね。
―インターン先では何をしていたのですか?
インターン先では、物理エンジンを使ってアプリのレコメンドを表示するアプリの開発を担当していました。AWSにも触れながら、アプリ開発とサーバーサイドを半々で行ない、週3日、朝から晩まで働いたおかげで、メキメキと技術力がUPする手ごたえを得ました。結果的にアプリケーション開発のためのフレームワークや開発手法、サーバーサイドエンジニアリング、データ解析が得意分野となりました。大学の研究室では自然言語処理やデータマイニングに関する研究をしていたこともあって、卒論は困らず提出して卒業できました。同じ研究室には、民間企業に勤めながら大学の研究室に出向されている方がいらっしゃって、ベンチャー企業でインターンをしている僕と積極的に情報交換をする機会も多く、そのご縁で投資家を紹介して頂きました。それがきっかけで、後にシーエイトラボ株式会社を立ち上げることとなります。
何でも屋だった自分を変え「軸をひとつ立てよう」と決心
―起業に至った理由を教えてください
投資家との出会いがなければ、卒業後は大学院に進み「GoogleやAmazonでエンジニアとして働きたい」と漠然と思っていました。ベンチャー企業でのインターンの実績や研究テーマを認めていただいた投資家から、「データ分析の会社を立ち上げたい。社長をやってくれないか?」という後押しもあり、起業に挑戦してみようと思いました。
シーエイトラボ株式会社の立ち上げ直後は、大学の後輩や友人に声をかけて、開発を手伝ってもらいました。大学の講義や研究で培った画像解析やデータ分析のスキルを活用したいと考え、SNSの投稿を分析したレコメンドエンジンを作りました。そのあと、SNSの投稿から企業に関する投稿をリアルタイムに分析してその企業が世の中からどう思われているかを分析するアプリも作りました。しかし、プロダクトに対する愛が長続きせず、アプリを育て続けることに自信が持てなくなり、「自分はプロダクトを成長させていくことに向いていない」と気付きました。端的にいえば、「作ると飽きる」性格なのかもしれません。
―自社プロダクトと向き合って出た結論は?
プロダクト愛について自分と向き合い続ければ続けるほど、「顧客企業の開発案件を複数持って、様々なお客様とお付き合いしているほうが、様々なスキルやノウハウも身につくので、自身も仲間も成長するのではないか?」と考えました。
様々な受託開発をしていく中で、「自分には軸がない」と思い始めました。アプリ開発もサーバーサイドもインフラも経験があるものの、お付き合いする顧客企業からお受けする案件は、POS分析業務やWeb開発、スマホアプリ開発、システム運用と多岐に渡り、大学での研究テーマとはあまり関係がないと痛感したからです。
そんな折、顧客企業の1社であった大手企業の執行役員の佐藤(現・株式会社KUNOの代表取締役)と出会います。佐藤は発注者側で実際に何百万円も発注をいただきました。「自身に投資をしていただいているんだ」と当時は考えていました。
2013年ごろに「Googleの猫」の話を知り、DeepLearningや根本となる機械学習の理論について本格的に勉強を始めました。大学時代の研究で機械学習をかじっていたこともありましたが、地道に自主学習をし、仲間を集めて10人ぐらいで勉強会(実装の勉強会ではなく、ニューラルネットの仕組みのような基本的なもの)を開催しました。
機械学習関連の勉強会を開いたり、自身も参加しているうちに、一緒に参加していた研究室の先輩が勤めている会社から、深層学習を用いた画像分析関連の案件を受注しました。最初は別のライブラリでの開発を検討していたのですが、開発に取り掛かろうとしたところGoogleがTensorFlowをオープンソース化したので、これから流行ると考え、TensorFlowに切り替えました。
その後、日本で初めてTensorFlowの勉強会を開催することになり、connpassで募集を掛け、40人ぐらい集まりました。嬉しいことに、勉強会を開くとGoogleから「会場としてGoogleの六本木オフィスを使わない?」と打診いただき、その後セミナーや勉強会はGoogleの会場を使わせてもらうことも増えてきました。勉強会の回を重ねていくうちにビジネスマッチングもでき始め、機械学習やディープラーニングについて相談をいただく機会も増えましたし、セミナーの依頼も増えました。そして2018年には長い付き合いである佐藤から「会社を統合するからCTOとして参画して欲しい」というオファーをいただき、株式会社KUNOにCTOとして就任しました。そのタイミングでGoogleのテクノロージーを世の中に広める社外アドボケータ的な役割である「Google Developer Expert」に推薦されました。Googleのテクノロジーはもちろんですが、その他のテクロジーも積極的に活用して開発を行なっております。
思い描いた会社にする秘策 対外発信の重要性
―技術責任者として今取り組んでること、これから取り組みたいことを教えてください
CTOとして、社外に向けた発信を行なっています。大手と比べて、中小企業は対外発信が重要だと思います。なぜなら受託でお客様の仕事をしているとお客様の要件に寄ってしまい、独自の技術を売ることが希薄となるからです。つまり案件を選べる立場にならないと「そもそも思い描いた会社にはできない」ということです。会社の強みを発信するため、自分の仕事は対外発信だと思っています。さらに、説得力を持たせるために、セミナーや講演を行い、本を出版し、ブログを書いたりして対外的に自分たちが得意としていることや取り組んでいることを発信しています。「KUNOは任せられる会社だよ」と思われるようにしたいです。また、仕事だけではなく、当社の理念に共感してくれたエンジニアに仲間になってもらえたら嬉しいですね。
他には社内の「文化作り」を重視しています。以前は派遣/SESが中心で顧客企業の案件のお手伝いをしていましたので、メンバーはバラバラに仕事していて、技術をシェアする文化や交流はありませんでした。今は持ち帰りの仕事を増やすことで、技術を共有し、社内勉強会をどんどん開いています。
地方進出を目指す理由 優秀な人材の獲得
―経営陣の一員として今取り組んでること、これから取り組みたいことを教えてください
来期以降の計画作りをしています。3期先を見据え「どういう会社にしていくか」と計画を立てます。例えば「一部は社内で開発し、他はアウトソーシングする」「どういうエンジニアが必要か」「将来的にどういうクライアントに営業をかけるか」「上場に向けた体制づくり」を経営陣と一緒に考えています。また地方企業とのパイプ作り、コネクション作りもしています。WITHコロナの状況下でリモートワークが進んでいるため、東京だけで採用活動をする必要はないと考えているからです。代表が新潟出身ということもあり新潟を拠点に5Gの新規事業を推進するためにサテライトオフィスを設置しながら、地方進出を目指しています。私も来週から新潟に1~2週間籠る予定で、東京ではなく地方でのリモートワークを体験し、良い点や悪い点を研究するつもりです。
―新卒を採用するのと経験者を採用するのとでは違いはありますか?
新卒や経験が浅い方を採用する時は「素直かどうか」を基準にしています。経験がないのは分かっていますし、こちらは教育するつもりなので、教えを受け入れられる素直な人柄を重要視しています。
中途で採用する時は、一言で言うと「ブレない安定性」を基準にしています。若手と組んでプロジェクトを行うので、ハンドリングできて、新しいこともキャッチアップできる方が望ましいです。また「知らないことでもどんどんやっていきたい」といった前向きさも重視しています。1つの分野をとことん突き詰めるのは研究者としては非常に重要だと思いますが、エンジニアは自分の専門外の分野でもどんどん挑戦する姿勢が大事だと思っています。
プロダクションを意識して幅広く知見をつける
―これからあるべき技術者(エンジニア)像とは?
高度なIT化が進んでいて、エンジニアに求められているスキルがどんどん高レイヤーのスキルになっていると思います。例えば、現時点でも一から細かいプログラムを書くことは少なくなり、機械学習のモデルも簡単にコードブロックを埋める感じで実現できます。いずれはコードを書かずにGUIを操作するだけでシステムが組める時代がやってくるのではないかと思います。そうなると、今やっている仕事と数年後の仕事は変わってくるはずです。そうした時代になってもうまくやっていくには、研究開発・商用化・運用といった様々なフェーズを意識して幅広く知見を持つこと、そして企画やコンサル的な視点で取り組めることが重要になってくると思います。相手(お客様)が望むものに対して問題を切り分けて、ゼロをイチにしていき「こうしたらできるんじゃないか」と提案できるエンジニアが求められるようになると思います。
―新村さんの「信念」「価値観」「大切にしていること」は?
3つあって、「アウトプットをしよう」「シンプルにしよう」「自分が100%理解できるものを作ろう」です。
1つ目の「アウトプットをしよう」ですが、例えば、「ドラえもんを作れ」と言われれば、100点のドラえもんを作るのは難しいですが、「10点のドラえもん」を作ることは可能だと思います。わからない問題で0点の解答を出すなら10点でも20点でもいいから調査して何らかのアウトプットをします。それが自分の中で常に心がけていることです。
2つ目の「シンプルにしよう」ですが、Pythonの流儀に「Simple is better than complex(シンプルなものは複雑なものより良い)」というものがあります。問題をシンプルに考え、わかりやすいものを作るということをいつも心がけています。
3つ目の「自分が100%理解できるものを作ろう」ですが、顧客や仲間に説明できないものは、アウトプットとして成り立たないためです。
この3つはいつも考えています。
試行錯誤することを楽しむ人生にしたい
―これからの目標や野望を教えてください
シンプルに「個人資産で100億稼ぐこと」です。単純にお金が欲しいだけではなく、100億円を稼ぐための行動プロセスや、仲間との出会いなど、結果に至る道のりは今の自分が想像もしていないことがたくさんあるはずです。そんな人生はきっと楽しいだろうと思っています。目標達成までに至る道筋を考え、試行錯誤したいと思っています。ITだけでなく他の分野に挑戦して試行錯誤することを楽しむ人生にしたいですね。
―最後にお知らせしたいことがあったら、教えてください
弊社はクラウド×AIを謳っている会社です。どちらか片方ではなく、両方に興味がある人を募集しています。つまりクラウドのWeb開発が好きでAIの開発にも興味がある人です。企画やコンサルも募集しています。お客様のアイデアを自分たちの力でお手伝いして世に出していきましょう。また地方からリモートワークで働きたい人も募集しています。
取材を終えて
年代別に自分に何が起きたのか事前に調べ、半生を語る新村さんの姿勢に感銘を受けました。情報を整理することがシンプルに伝えるための極意だと教わった気がします。最後に余談ですが、新村さんとAIの出会い(意識した)は、ブログポスト「Googleの猫」を読んでからだそうです。AIエンジニアを目指す方に是非読んでほしいと話していました。気になった方はチェックしてみて下さい。
プロフィール:新村 拓也
鹿児島県出身。株式会社KUNO取締役CTO。東京大学工学部精密工学科卒業。大学では自然言語処理を専門とし、SNSの投稿データと位置情報を用いた研究を行う。在学中の2013年11月にシーエイトラボ株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。機械学習はもちろんデータマイニング全般のコンサルティングから開発を手掛ける。TensorFlowの活用法について様々なところで講演を行なっている。『TensorFlowではじめるDeepLeaning実装入門』を執筆。
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