今回は、株式会社10X CTO 石川洋資さんのインタビューをお届けします。同社は、小売店向けにECプラットフォーム「Stailer」を提供。2017年に設立し、累計で約21億円の資金調達に成功している急成長中のスタートアップです。CTOの石川さんは、面白法人カヤック・LINE・メルカリと有名な成長企業3社を経験して、メルカリ時代の同僚だった矢本真丈さんと10Xを共同創業。異なる規模の会社を経て、いちエンジニアからCTOとして成長してこられた石川さんのキャリアに迫ります。

一時はプログラミングから離れるも、エンジニアの道へ

ーエンジニアになったきっかけを教えていただけますか?

中学生の時に、父親からもらったPCでプログラミングを始めたのがきっかけです。当時、HPや掲示板の制作などのプログラミングが中学校で流行っていたんです。HTMLを用いて簡単なフロントエンド開発から始めてみました。その延長で、既存のCGIプログラムの書き換えからサーバーへのアップロード、カスタマイズなどにも挑戦して、プログラミングに興味を持ち、情報系の高専に進学を決めました。6年かけて高専を卒業するも、情報系から離れたいと思い、経営工学を学べる大学に進学。高専時代はプライベートでほとんどプログラミングをしなかったのですが、大学では友人とサービスを作って、改めて楽しさを実感し、エンジニアとしてのキャリアを歩む決意をしました。

ー中学生の頃、プログラミングのどのような部分が楽しいと感じたのですか?

自分で作ったサービスが動いた時に楽しさを感じました。当時、プログラミングにおいては、わからないことだらけ。コードを書いてアップロードしても、500エラーが出るなんてことはよくありました。そのため、自分が思い描いたとおりに動いた時は、格別の喜びがありました。また、作ったサービスを誰かに使ってもらえていることも嬉しかったです。

ー大学時代は、どのようなサービスを作られていたのですか?

私がちょうどiPhoneを持ち始めたタイミングで、「iPhone上でサービスが動いたら面白いだろうな」と思っていました。当時はApp Storeが出て間もない時期で、アプリのランキングがダウンロード数に大きな影響を与えていたため、過去のアプリランキングが見れるサービスがあれば便利なのではと作ってみました。その結果、iOSアプリの開発に没頭し、友人と起業をすることに。大学を卒業するタイミングで抜けて、新卒社員として面白法人カヤックに入社しました。

優秀なメンバーに囲まれ、ものづくりの全体観を学ぶ

ーカヤックさんに入社された理由を教えていただけますか?

当初は学生時代に立ち上げた企業で、そのままエンジニアとして働くつもりでしたが、より高い技術レベルの環境に身をおいてスキルアップしたいと思い、就職することに決めました。しかし、就職活動を開始した時期は、大学4年生の10月とかなり遅く、エンジニアを募集している企業はほとんどない状況でした。そこで、過去にイベントで知り合ったカヤックの人事の方に連絡をすると、まだ採用枠があると返ってきたので、応募してみたんです。iOSアプリの開発経験がある学生は珍しく、評価していただけたのかなと思っています。

ーカヤックさんでは、どのようなプロダクトを開発されていたのですか?

iOSエンジニアとして、新規自社サービスの開発を担当しました。最初は単発系のアプリ開発に関わり、その後は「Lobi(旧:ナカマップ)」というゲームコミュニティアプリを開発しました。

ー学生時代にもプロダクト開発を経験されていますが、社会に出て感じられたギャップはありますか?

学生時代は、サービスを動かすために必要な要素を十分に把握できていませんでした。しかし、カヤックでは、サーバー構成やプロトコルの使い方など、サービスを動かすための全体感を知りました。カヤックで30人いた同期はみんなスキルを持っていたり、先輩は今でも背中を追いたくなるような方が多かったりと、優秀な方が多かったです。学びの機会がたくさんあり、エンジニアとして一定の視野を持てたと思います。

「意思決定に深く関わりたい」と気づく

ーその後のキャリアを教えていただけますか?

カヤックを経て、LINEに転職しました。当時、カヤックで担当していたサービスが伸び悩んでいて、サービスを成功させている企業に興味を持ったんです。LINEでもiOSエンジニアとして、新規サービスの開発に従事しました。iOSエンジニアとして2年ほど働いた後、サーバーサイドの開発をやりたいと申し出たところ、異動の機会をいただきました。LINEはキャリアに関する体制が整っていて、懐の広さを感じましたね。また、各領域にスペシャリストがいて、それぞれの役割がはっきりしているので、自分のやるべきことにフォーカスできました。複数の新規事業開発に携わるうちに、「サービスの根幹を変えるような意思決定に関わりたい」という想いが芽生え、新規事業メンバーを募集していたメルカリに転職を決めました。

ーメルカリでの業務内容を教えていただけますか?

メルカリグループのソウゾウという会社で、新規事業の地域コミュニティアプリ「メルカリアッテ」のiOSアプリを開発しました。仕様の検討段階から技術的な視点を加えるなど、意思決定に深く関われたこともあり、満足感はありました。現10Xの代表取締役CEOである矢本と出会ったのも、メルカリなんです。困った時の壁打ち相手として、お互いに相談に乗り合う仲でした。サービスのグロースの進捗はというと、残念ながらクローズとなってしまいましたが、急成長中のメルカリに身を置けたことは良い経験になりました。

10Xを創業し、ECプラットフォームを立ち上げ

ー急成長のメルカリに在籍されている中、どのような経緯で10Xの創業に至ったのでしょうか?

矢本が育休に入ったタイミングで、サイドプロジェクトの誘いを受け、一緒にやることになりました。しかし、プロジェクトを本格的に進めるためには、どうしても時間の捻出が必要だと気づきます。そこで、矢本が起業を決意。私も矢本が起業するならと、2人で10Xを創業しました。正直、当時のメルカリはかなり良いフェーズで、周囲からは「なんでこのタイミングで?」と思われたはずですが、私は「メルカリの成功は、自分の成果ではない」と考えていました。矢本と起業するほうが面白そうだと感じたので、迷いはなかったです。

ーどのようなサービス領域で起業されたのですか?

献立をもとに、必要な食材をネットで注文できる「タベリー」というサービスで起業しました。矢本が育休中に、献立の組み立てに課題感を感じたのをきっかけに、Twitterやインタビューを通じて調査を実施。多くの方が同じような悩みを抱えていることが分かりました。矢本自身、サービス利用者が感じている明確な課題を解決したいという想いを持っていたので、この領域で起業したんです。

ーその後、タベリーは順調に成長しましたか?

継続的に利用してくださるユーザーさんが、順調に増えるプロダクトに成長させられたと思います。しかし事業を続ける中で、ネットスーパー自体に問題があると気づき、toBにECプラットフォームを提供する「Stailer」へ事業をピボットしました。献立の領域にも明確な課題があったのですが、ネットスーパーと両方を追ってしまうとどちらも取れないと判断し、Stailerの一本に集中する決意をしました。

ー事業をピボットする中で、開発環境の変化はありましたか?

はい、ありました。タベリーでは、iOSアプリはSwift、AndroidアプリはKotlin、サーバーはGoで書いていました。そして、Stailerに移行する際に、クライアントサイドはFlutter / Dart、サーバーもDartに変更。1つの言語で開発できるようにしました。当時はマルチスキルなエンジニアが多く、3つの言語を用いての開発にも対応できていました。ただ、言語の切り替えを減らしたほうが、より効率的に開発を進められると考えたんです。

会社の成長とともに、開発から経営サイドへ

ー事業が成長するにつれて、石川さんの役割も変わってきたと思います。創業期から時系列で、役割はどのように変わっていったのでしょうか?

創業期は、1人のエンジニアとして手を動かしていました。エンジニアが5〜6人ほどになったフェーズでは、新しい仕組みを作ることに重きを置いていました。例えば、Dartを使い始めるとなった時は、まずは自分でベースとなるコードを書き、メンバーに渡していくといった具合です。また、プロダクトマネージャーやデザイナーが不在だった頃は、プロダクトやUIの設計も行いました。これは、CTOとしてではなく、創業者として会社に足りないパーツを埋めたという意味合いが強いです。そして現在は、プロダクトマネージャーもデザイナーも入ってきたので、これらの役割は手放せています。今の私の役割は、事業にアラインした体制をつくっていくことです。チームごとのミッション策定や、組織編成、事業課題起点でのタスクのアサインなどを行っています。ようやく経営者らしい仕事ができるようになってきました。

ー石川さんが考える、CTOに必要な3つの要素は何ですか?

1つ目は、「技術と経営を繋げること」です。事業が成長するために、どのような技術が必要かを考えて、経営チームに繋げます。2つ目は、「経営目標を、開発チームで達成できるよう準備すること」です。達成には、技術的な観点だけでなく、マネジメント、プロダクトといった様々な観点が必要になります。会社として、開発チームとして、どうすればゴールに向かえるのかを考えて意思決定をします。3つ目は、「現場のエンジニアの視点を集めること」です。彼らが何を気にしていて、何に懸念を感じているのかを察して、打ち手を打つ必要があります。技術に関する知識がないと、究極的には現場を理解できないと思います。そのため、ソフトウェア開発で壁にぶち当たった経験などが活きてくるはずです。

ーでは、いちエンジニアとして大切にしていることはありますか?

「問題が何なのかをはっきりさせること」です。コミュニケーションにおいて、1往復で全てを理解できるとは思っていません。Biz側とのコミュニケーションの場合は、何度もやりとりをして、問題の解像度を上げていきます。しかしここで、どこまで追求するかという問題が発生します。もちろん終わりのない問題もあるのですが、重要なのは「スコープを決めて取り組むこと」です。例えば、リテンションが低いという課題があった時に、ログインにスコープを絞ってみます。その後、データを詳しく調査するだけではなく、様々な人からもヒアリングを行い、仮説を立てます。深く考えると、この時にはどの角度から見ても説明がつく状態になっているはずです。

ー石川さんがエンジニアとして大きく成長したのはどのような時ですか?

「責任感」や「危機感」を感じた時ですね。最も代表的なエピソードは、起業した時です。起業する前は、いちiOSエンジニアとして成果を出そうと考えていましたが、起業した直後は、自分しかいない状態で誰も守ってくれません。その危機感によって、あらゆる領域に手を出す必要性に駆られます。責任範囲が広くなった瞬間に自分の視野が広がり、成長できたと思います。

「自分が、今やる意味があること」をやり続けたい

ーエンジニアにとって、開発が面白いと思える点などはありますか?

10Xが提供する小売向けECプラットフォーム「Stailer」は、チェーンのスーパーやドラッグストアが簡単にECアプリやWebサイトを構築できます。競合との差別化ポイントは、大規模なものを想定している点。店舗や運送のオペレーション、在庫点数を管理するために基幹システムと連携できる点などの特徴があります。フロントエンドは、お客様が実際に使う買い物アプリの開発と、スタッフやドライバーの方々が使うオペレーションを支えるアプリの開発。バックエンドは、在庫や注文の管理、売上を基幹システムに返すシステムを開発します。個人向けのアプリの部分と業務システムの部分、両方があるのが複雑ですが解きがいのある課題だと思います。また、スーパーやドラッグストア向けで、日本中のいろいろな状況にある方が日常的に使うアプリの開発に関われるという面白さがあります。

ー今後、10Xとして実現したいことはなんですか?

ネットスーパーが、あらゆる人にとって現実的な選択肢の1つになるような社会を実現したいです。以前に比べると、ネットスーパーは普及しつつありますが、課題もたくさんあります。例えば、商品点数が店舗より少ない点や、配送枠が十分ではなく欲しい時に届けてもらえない点などです。そのため、家の近くに店舗がある人などにとって、まだまだネットスーパーは有力な選択肢になれていないと感じています。もっと利便性を追求して、あらゆる人が欲しい物を欲しい時に買える状態にしたいと思っています。

ー石川さん個人の夢はありますか?

「自分が今やる意味があること」をやり続けたいです。それが今は、10XのCTOだと思っています。しかし、会社が成長するにつれてやるべき役割も変わってくる可能性もあると思っています。今やるべき役割を全うし、どんな時も仕事を楽しんでいたいですね。

自身の得意分野で勝負していきたいエンジニアを募集!

ー最後に、現在貴社でどのようなエンジニアを求めているかを教えてください!

会社のフェーズ的にも、色んな人を募集しています。自分のスキルをうまく活用して事業やプロダクトに還元していける方と働きたいです。2021年までは、ソフトウェアエンジニア15人で1チームの体制で、役割も細かくわけず、フルスタックに何でもこなせる方を採用していました。2022年から、事業の成長にあわせてより効率的に開発を進めるために、4つのチームに分けて、それぞれにリーダーも配置し、何でもできる人だけでなく、特定領域で強みを持ったエンジニアを求めています。加えて、StailerではtoB / toC両方の開発に関われる面白さがあります。業務システムとして品質を高めなければいけない部分と、クリエイティビティが求められながらも柔らかい部分があるので、自分の志向性に応じて多様な環境をご提供可能です。ご自身の得意分野で勝負していきたいというエンジニアの方をお待ちしています!

取材を終えて

お話をお伺いすると、キャリアの中で自分の価値や成果にこだわってきた石川さん。成長企業にいても常に満足することなく、成長を追い求めつづけている姿が印象的でした。飛ぶ鳥を落とす勢いのスタートアップから、「面白そう」で創業に挑戦し、重たい責任を背負いつづけたからこその視座をお持ちでした。消費者の問題も小売の問題も同時並行的に解決していく10Xの中で、石川さんがどのようなエンジニアリング組織を築いていくのか、今後も目が離せません。

プロフィール:石川 洋資

株式会社10X Co-Founder、取締役CTO。面白法人カヤック、LINEでの複数の新規事業開発を経て、メルカリ/ソウゾウへ。 
メルカリ/ソウゾウではプリンシパルエンジニアを務める。オープンソースプロジェクトへの参加や執筆活動も行っており、2017/2には「Swift実践入門」を出版。

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