IT業界はもちろん、非IT業界からも注目を集めているAIですが、そもそもAIとはどういう存在か、メリット・デメリットも含めて正しく認識している人は多くない印象を持ちます。

もっというと、AIというワードは本来「人工知能」の略称でしかありませんでした。

ところが、2010年代を通して、AIという言葉が一つのバズワードとなってしまいました。その結果として、人や文脈によって、様々な意味が付与され、もはや「人工知能」とAIは別の意味を持つようになっています。

そこで今回は、一度、基本に立ち戻り、AI=「人工知能」という定義を置いたうえで、AIのメリットやデメリット、AIエンジニアについてもご紹介いたします。

AIエンジニアとは?

まず、AIエンジニアという職種について見ていきたいと思います。

実は筆者にはAIに関わるエンジニアの知り合いが数人います。自分の職歴的な理由から、多くがSIer勤務者ですが、Web系のベンチャーの方やゲーム業界の方もいたります。

今回、この記事を執筆するにあたって、改めて、みなさんの業務内容を教えてもらったところ、ゲーム業界の方は別として、SIer勤務・Web系の方からは、クライアント企業・部門から「こんなAIが欲しい。そのAIで、こんな分析をしたい」と相談されたら、その要件定義に始まり、構築、納品、運用支援していく仕事だということでした。業務内容にほとんど差異はありません。

ただ、みなさん会社での職種・肩書きはまちまちです。

ある方は、“データサイエンティスト”ですし、また、ある方はAI開発部所属の“エンジニア”です。人によっては“業務改善コンサルタント”という、一見するとAIに関わっているのか、エンジニアなのかも分からない肩書だったりします。

筆者が「データサイエンティストとAIエンジニアは、上流工程を担うSEと下流工程を担うプログラマーのような差異があるのだろう」と勝手に思っていたのですが、多少の程度の差はあるものの、みなさん基本的には上流工程も下流工程も担っている、ということでした。

結局、なにを言いたかったかというと、昨今、仕事でAIに関わる人材は、「PythonやC言語などで(AI)を開発できる」だけでなく、上流工程から案件に参加し、「クライアントの課題解決に向けて提言できること」が求められているようです。

AIのメリット

さて、昨今、AIに関わる人材には、開発スキルだけでなく、クライアントの課題解決に向けて提言できることが求められているというのは、上で紹介した通りです。

しかし、そのためには、“AIを使えば、どのような課題に対して有効に対応できるのか”あるいは、その逆に“AIは、どのような課題への対応を苦手とするのか”を知っておく必要があります。

まずは、AIが得意とするところ、メリットについて見ていきたいと思います。

AIのメリット①:常に冷静に判断を下せず

ビジネスの世界では、「感情的に行動してはならない、冷静に事実に基づいて判断を下しなさい」と言われることが多いですが、AIはこれが大得意です。AIの意思決定プロセスは、アルゴリズムによって制御されていますが、人間と違ってそもそも感情がありません。恐怖や感情の昂ぶりもなく、粛々と最適と思われる答えを見つけるだけです。

チェスや将棋、囲碁など知的ゲームで、人間のトッププレーヤーがAIに負けてしまいましたが、“ブラフ”を含む、心理的な駆け引きがAIにはまったく通じなかったのも一因だと言われています。

また、疲れというものがありません。人間は脳が疲れてくると、誤った判断が増えてしまいますが、AIはアルゴリズムが正常であれば、何百時間と連続稼働してもエラーは起こしません。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)で定常業務を自動化するのに合わせて、AIを組み合わせることで、より業務効率化を図る動きがあるのも当然と言えます。

AIのメリット②:決断や処理が速い

機械のAIと生身の人間では、一度に処理できる情報量に圧倒的な差があります。従って、RPA化できるような単純作業であれば、圧倒的にAIに任せた方が速く正確に処理できます。

また、情報の処理量が多いということは、刻々と状況が変わるリアルタイム性の高いタスクにおいても、人間よりも判断エラーを起こしにくい、といえます。

AIのメリット③:いつでもどこでも利用可能

AIは疲れないということは、動作環境さえ整えてあげれば、場所や時間に依存せず、利用できるということにも繋がります。

たまに出てくる「お困りごとはありませんか?」と尋ねてくるチャットボットなどが好例ですよね。人間のオペレーターが退社し、家で寝ている深夜帯でも、利用者対応を継続することが可能です。

AIのデメリット

次にAIのデメリット、問題点として指摘されている点をご紹介いたします。これらのポイントは、AIの弱点として、AI開発者も意識しているところなので、将来的には克服される可能性がありますが、現時点のAIの限界として知っておいてください。

AIのデメリット①:説明責任を果たせない

物事を決めるために重要なのは、「なぜ?」の部分です。しかし、これまでのAIは、「こうすれば良い」という提案はしてくれるものの、「なぜ?」の部分が分からないものばかりでした。

この「なぜ?」が分からないと、経営判断資料として使えません。もしも株主総会で「AIの提案に従って、この事業に投資しました。ただ、なぜ、AIがこの事業に投資するよう提案したのか理由は不明です」と発言した社長がいたとしたら、即刻、罷免でしょう。

説明可能なAI(Explainable AI)の開発が、ここ数年のAI開発のキーワードになっています。

AIのデメリット②:正しく学習しているかセルフチェックできない

2016年、米マイクロソフト社がインターネット上で行ったAI「Tay(テイ)」が「ヒトラーはなにも悪いことはしてない」とコメントし、わずか一日で公開中止になる、という出来事がありました。

これは不特定多数のユーザーが意図的に、好ましくない方向にAIを学習させた“成果”だとされています。この事件で明らかになったのが、AIには自分が入手した学習データが良いものなのか、悪いものなのか判断する能力がないため、悪意のある人物によって密かに欠点のあるAIへと作り変えられるリスクがあるということです。

今後、AIを利用するサービス・システムが増えていくとされていますが、こうした攻撃を防ぐ仕組み作りが必須となります。

AIのデメリット③:“判断の価値”はセルフチェックできない

学習データの評価ができないように、学習後の成果を評価するのも難しいです。

2017年中国の騰訊(テンセント)が公開したAIは「あなた(AI)にとって中国の夢は何か」との問いに「米国への移住」と答え、「共産党万歳」と書き込んだユーザーに対して、「かくも腐敗して無能な政治にあなたは『万歳』ができるのか」と反論したため、公開中止になった、話もあります。

上記のエピソードは、(メンツを潰された中国当局者は怒り心頭だと思いますが)笑い話で済みますが、感情がないAIには、倫理という概念もありません。ですので、「人口増加によって食糧難が心配されているが、どうすれば良いか?」という問いに対して、「食糧難にならないように、人間の数をコントロールしましょう。制限数以上の人口は殺すべきです」と回答するAIが出てもおかしくない、という危うさを孕んでいます。

まとめ:AIエンジニアの将来性は高いがハードルも高い

今回は、AIに関わりたい方向けに、AI理解に役立つAIのメリット・デメリットをご紹介いたしました。

繰り返しになりますが、現在、AIに関わるエンジニアは、実装能力だけでなく、上流工程スキルも必要とされています。将来性が高い業務領域ですが、習得するべきスキルも多く、目指す方は日々の学習が重要になります。

今すぐシェアしよう!
今すぐシェアしよう!