企業やエンジニアの方へのインタビューを通して、エンジニアの副業の成功ポイントを模索する企画。第3回は一部上場企業でPdMとして働きながら、Webエンジニアとして副業をしている流川圭介さん(仮名)にお話を伺いしました。本業と副業を両立させるために大切なことは、何なのか。流川さんは、「週末のタスクをスムーズこなせるよう、平日にチャットで不明点や疑問点を解消することが大切」と仰っています。また、前回のインタビューであがった副業へのコミットメントの課題についても、本業をコントロールすることで乗り越えています。これから副業を始める上で、本業との両立に不安を感じている方や、すでに両立に苦しんでいる方へ示唆に富む内容は必見です。

本業の「当たり前」が、他社では「価値あるスキル」

新保:

現在、流川さんは本業・副業でどのような働き方をされていますか?

流川:

月曜日〜木曜日まで一部上場IT企業で働きながら、金,土,日曜日で副業をしています。

本業は、毎週金曜日に有給を使って週4日勤務としています。新卒で入社してから3年目を迎えているのですが、現在は、SaaSのプロダクトマネージャー(以下、PdM)として働いています。具体的な業務内容は、プロダクトの企画、設計がメインです。

副業に関しては、2020年1月より始めており、2020年8月からは2社目を経験しています。現在は、エンジニアとしてフロントエンドからサーバーサイドまで、横断的に開発に携わっています。本業では出来ないような、小規模のエンタメサービスを開発しています。

新保:

本業では、コードは書いていないのですか?どちらかというビジネスサイドという感じですか?

流川:

ビジネスサイドですね。主に、ユーザーの声を聞いて、プロダクトの要件をつくっています。GASやスプレッドシートなどの業務支援ツールを使って、簡単なDevOps系のシステムを作ることはありますが、手を動かしてコードを書くことはほとんどないですね。

新保:

副業をしてよかったことはありますか?

流川:

「自分が本業でやっていることが、他社でも活かせるんだ」と気づけたことですね。自社で当たり前のようにやっていることが、他社では価値のあることなんだと感じました。あまり一般的な回答ではないかも知れないですが、私にとっては価値のある気づきでしたね。

あとは、本業で携わることのない領域で仕事ができる点ですね。企業規模や業界が本業とは全く違うので、そういった環境下で仕事ができる点はおもしろいですね。別業界の人と関われることだけでなく、旬なサービスや最新のデザイン、技術に触れる機会が多くなったので、知識や経験の幅が広がりました。

新保:

スキルの転用に関しては、共感できますね。私もコンサル時代に培った仕事の進め方やロジカルシンキングが、現職でかなり役立っています。むしろ、「コンサル時代よりも活かせてるんじゃないか」と思うこともありますね(笑)。

本業での「余裕」が副業を始めるきっかけに

新保:

エンジニアとして副業を始めたきっかけはありますか?

流川:

きっかけは、2つあります。

1つ目は、友人の紹介です。その友人とは、学生時代にタイでインターンをしていた時に出会いました。彼の先輩が会社を辞めて独立し、エンジニアを探しているという連絡をもらいました。実際にその方とお会いして話を聞き、興味を持ったというのが1つ目のきっかけです。

2つ目は、本業のPdMの仕事を一通りやりきり、技術的な勉強をしたいと考えていたからです。当時は、入社してから2年を迎える時期で、社内では一定の評価を頂いていました。本業に余裕が出てきたこともあり、もっと技術的な勉強をしたいと思い始めました。友人と読書管理サービスを作ったことはあったのですが、お金にはならなかったですね。そういったこともあって、「技術的な知見がある方のもとで、お金をもらいながらスキルを身につけたい」と思い、副業を始めました。

新保:

タイでのインターン経験もあるんですね。その時は、エンジニアとして働かれていたのですか?

流川:

エンジニアとして働いていました。タイに行く前にも、インドとベトナムでインターンを経験しています。まず最初に、インドのスタートアップ企業で、半年間フロントエンドエンジニアとして働きました。その後3ヶ月間は、ベトナムにて日系企業の現地法人でオフショア開発に携わり帰国。帰国後は就活をして、終わってすぐにタイに行き、8ヶ月間インターンをしました。

新保:

学生時代から、濃い経験をされていますね。ちなみに、本業では最初からPdMとして入社予定だったのですか?エンジニアとしてインターン経験を積まれる中で、もっとコードを書きたいと思いはなかったのでしょうか?

流川:

現職には、総合職で入社して、最初の3ヶ月間は営業として研修をしました。その後、エンジニアとして働くか、PdMとして働くかの2つのオプションをいただき、プロダクトマネージャーを選択しました。当社は事業作りにとても強く、自社開発よりも、ベンダー開発が中心です。そういったことを考慮した上で、「エンジニアとして働くよりも、ビジネスサイドで働いたほうが得られるものが多いのでは。技術はあくまで自走して学習することがなんとなくできそう。」と思い、ビジネスサイドで働く決意をしました。

副業の難しさ:単価交渉と業務のスピード感

新保:

では、ここから「副業をする難しさ」をお伺いしていきたいと思います。難しかったことはありますか?

流川:

まずは、単価交渉ですね。自分のプロダクトを見せて、私の実力をある程度把握してもらおうとしました。しかし、エンジニアとしてインターンや自分のプロダクト開発以外に実務経験がなかったので、自らの市場価値を明確に定義するのが難しかったです。最終的には、ベンチャー企業だったということもあって、柔軟に対応して頂けました。

スキル面でいうと、すごく難しいと感じたことはほとんどなかったですね。と言うのも、副業先のCTOが伴走して指導しくれたので、レベルを徐々に上げながらタスクを振ってくれました。おそらくCTOは、私のことを「本業がPdMだから、どこまでコードを書けるんだろう」と思っていたはずです。そういった前提でいてくれたおかげで、自分も徐々にスキルアップできました。

新保:

素晴らしいサポート体制ですね。私自身、エンジニアを募集されている企業の担当者と話す機会がよくあるのですが、副業を受け入れることが難しいという声もあります。仕事の切り分け方や、成果物が納期までにちゃんと上がってくるかを懸念されているそうです。流川さんは、成果物を作成する上で意識されていたことはありますか?

流川:

スケジュールの見積もりをしっかりしていました。納期から逆算して、いつまでに何をやるかを明確にしていましたね。1社目の副業先は、代表も含めて全員がフルタイムではなかったので、業務を進めるスピード感が全員同じでした。そのため、トラブルになることはほとんどなかったです。一方で、2社目は私以外のメンバーのほとんどがフルタイムだったので、スピード感の違いに苦戦しました。そんな中、コロナの影響で2020年2月から本業がフルリモートになったんです。通勤時間がなくなり、時間に余裕が生まれたことで、キャッチアップしやすくなりました。正直、あのまま出社の日々が続いていたら、スピード感についていけていなかったかもしれません。

新保:

「業務をすすめるスピードについていくのが難しかった」とのことですが、ご自身が知らない間に、以前話していた方針や要件が変わっていたといったことはなかったのでしょうか?

流川:

2社目の副業先では何度かありましたね。1社目は、全員フルリモートなので、オンラインにて同じタイミングで認識のすり合わせができました。そのため、いつの間にか方針が変わっているということはなかったですね。一方で2社目では、私以外のメンバー全員がフルタイムで出社していたので、「1週間前に言っていた要件と違うよね」というケースが何度かありました。

新保:

私もプロダクトオーナーとして、要件を変えたり、無茶をお願いしたりしてしまう気持ちはわかります(笑)。要件をまとめて開発をお願いしたものの、ユーザーと話をして「やっぱりこうだったな」と気づくことがあるんです。悪気はないんですよ。。

流川:

私も本業ではビジネスサイドをやっているので、気持は良く理解できます。そのため、方針の変更が原因で衝突することはなかったですね。

断ることは断る。正直ベースで話す重要性

新保:

お互いの認識を常に同期させるために、何か対策を取られたりしましたか?例えば、チャットの確認頻度やタスクの受け取り方など。

流川:

大きく分けて3つの対策を取りました。

・コミュニケーションに忖度はしない

・無茶な要望は断る

・成果物ベースで話してドキュメントに記録する

こちらが提示する納期も変にバッファーを設けず、正直ベースでコミュニケーションをしました。逆に、無茶なお願いや納期が守れなそうなものについては、断ります。そして、決まった要件は、ドキュメントに残し、後から認識のずれが生じた時に検証できるようにしました。

新保:

ビジネスサイドと開発サイドが円滑に業務を進めるにあたって、流川さんが仰った3つの対策は重要ですね。話を聞く限り、副業にかなりコミットされていますが、本業に支障が出ることはなかったのですか?

流川:

本業に支障が出たことはないですね。入社3年目になり、ある程度余裕ができたことが、大きな要因だと思います。

新保:

本業で自律的に仕事ができないと、副業をするのは厳しいですよね。

流川:

そうですね。私自身、入社して2年が経つまでは、副業に手を出せなかったです。社内で一定程度の信頼関係を築けたあたりから、本業に余裕が生まれました。入社当初から「副業をしたい」と強く思っていたわけではないのですが、余裕が生まれたことで、副業を考える機会ができました。

「作業は週末まとめて」でも、タスクを最新情報に同期が肝要

新保:

流川さんが考える、副業に「向いている人」と「向いていない人」はどんな人ですか?

流川:

まず、完璧主義な人は、向いていないと思います。反対に、頻繁に連絡をとって、中間成果物を早く作れる人は、向いているのではないでしょうか。つまり、3日かけて100点の物を作ろうとする人ではなく、1日で50点の物を作って、レビューしてもらおうとする人のことですね。レビューを挟むことで、「作ってみたら見当違いなものになっていた」というリスクを低減できることが、大きな要因です。

新保:

悩みながら作業をするぐらいなら、荒い状態で1回提出して叩いてもらった方が、結果的に効率よく良いアウトプットを生み出せるということですね。また、個人的には、期待値コントロールも大切だと思ってます。

流川:

同感です。私は、期待値の齟齬が発生しないように、チャットに対応する時間帯を伝えています。平日は、基本的に1日の最初と最後のみチャットに対応します。それ以外の時間でチャットが来ても、メッセージは一切見ません。サービスが止まるなどのバグが発生した際は、電話をしてもらうように伝えています。

新保:

毎日定期的に確認しないと、チャットがたまって大変なことになりますね。チャットの対応をする上で、心がけていることはありますか?

流川:

土日の仕事をスムーズこなせるよう、平日は、不明点や疑問点を解消することを意識していますね。土曜日の朝に質問しても、相手が休んでいて対応が遅れてしまう可能性があります。タスクの進行に支障が出ないよう、平日の間にチャットで認識のすり合わせをしています。

新保:

同期コミュニケーションが出来ない分、やるべきタスクを常に最新の状態に同期しておくということですね。

最後に、副業を検討されている方や既に始められている方に向けてメッセージはありますか?

流川:

副業は良いものだと思います。本業との兼ね合いもありますが、スキルアップを目指している人や知見を広げたい人にとっては、素晴らしい機会になるのではないでしょうか。この記事が、少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

エンジニアの副業推進にあたっての示唆

前回のインタビューで浮き彫りになった2つの課題、“コミットメント” と “同期コミュニケーション” に対して、解決策を示していただきました。コミットメントについては、本業がコントロールできていることが大前提であること。流川さんは、本業がある程度安定してから新しい挑戦することで、“両方が大変” という事態に陥っていません。また、コミュニケーションについても日々チャットで状況を確認し、「自分のやるべきタスクに変化がないか」を意識されています。そうすることで、週末のまとめ作業になってもすぐに着手できるようにされています。

次回のインタビューは、社員採用前に副業参画することで、お互いのズレがないようされているSOELUさんにお話を伺います。

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