様々なCTOにキャリアの原体験、これからの野望などをインタビューする、一般社団法人日本CTO協会とのコラボレーション企画「突撃!隣のCTO」。今回は東京大学大学院工学系研究科に在学中でありながら、起業家として活躍する株式会社Lightblue Technologyの代表取締役・園田 さんにお話を伺いました。ご自身の幼少期の体験がきっかけとなって「IoTを使って労災をゼロにする」というビジョンを掲げ、AIという先端技術を駆使して社会貢献を目指す園田さんの姿勢とその背景に迫ります。

死と隣り合わせの労働環境

―エンジニアを志した原体験を教えてください

エンジニアを志した原体験は幼少期まで遡ります。僕の出身は宮崎で、実家は林業を営んでいました。小学生の頃、おじいさんに連れられて山に行き、仕事をする姿を見ては「自然と共生し向き合う姿がかっこいいな」と思ってました。一方で、大きな木が倒れてくる瞬間は、何とも言えない恐怖を感じました。林業は全産業の中でも特に労災の発生率が高い産業で、機械の接触や巻き込み事故が多発しています。普通、雨の日に「電車乗りたくないな」とか「仕事に行くのが面倒だな」と思うことはあっても、「怪我をするかもしれない」と思うことはほぼないですよね。しかし林業に携わる家庭では、雨の日は特に「怪我をしないで無事に帰ってきてほしい」と心配します。常に死と隣り合わせの「危なさ」。これが心に残っていました。先の話になりますが、東大に入学してプログラミングを始め、何の課題を解決したいか考えたとき、幼少期の原体験がシンクロし「テクノロジーを使って労災を解決できるといいな」という考えが芽生えました。これが原体験とエンジニアを志すきっかけになっていると思います。

1日16時間掛けてプログラミングを独学

―東大の工学部を志望した理由を教えてください

きっかけは、田舎から出て東京に行きたいという思いでした。加えて、親に負担をかけたくないので国立に絞り、東大を志望し入学しました。工学部は「ものづくりはかっこいい」という漠然とした理由だけで選びました。僕が大学1年生になった2013年は、ビッグデータやデータサイエンス、クラウドが流行りはじめた時期です。大学でもみんな、「統計を勉強しよう」という風潮がありました。未知の領域だったこともあり、関心を持ちました。それから2年後にAIという単語が市民権を得た頃、僕は根っからのミーハー癖があったので「どうせ勉強するならAIを」と、データ解析や予測が学べる研究室を選びました。しかし、その頃はプログラミングよりも部活(ヨット部)を優先していたので、本気でプログラミングには取り組んでいませんでした。いたって普通の大学生活を送っていましたが、4年生となって卒論と向き合うことでプログラミングが楽しいと感じたことがきっかけとなり、エンジニアを目指すことになります。当時書いていた卒論のテーマは人工知能応用でした。研究室の指導教員であった鳥海不二夫先生が当時、「人狼知能」というゲームAIのプロジェクトをしていて、そのプロジェクトを世の中の人にも身近に感じてもらおうと書籍を出版することになりました。その書籍の中で私の卒業研究の結果を載せる機会に恵まれ、最終的に書籍として出版できました。本という目に見えるアウトプットを出せたことで、さらに心から「テクノロジーって楽しいな」と実感しました。その頃から完全にプログラミングにハマり、春休みで時間があったということもあり、1日16 時間ぐらいプログラミングを独学し、機械学習(ディープラーニング)などの先端技術に追いついた感じですね。その後大学院に入学し、その年の5月に研究室の先輩が起業した会社で業務委託としてプログラミングの仕事を始めました。コーディング規約が存在することも知らず、ただ無理やりコードを書く状態でした。

テクノロジーの力で「危ない」労働環境を改善して、労災をなくしたい

―起業のきっかけを教えてください

業務委託先の方からたまたまエンジェル投資家を紹介され、アメリカに連れて行ってもらう機会に恵まれました。そこでイグジットしたベンチャーの創業者や大手のVCに会わせてもらいました。会った方に共通して言えることが、「仕事もプライベートも本気で取組んでいて」「スーツでなく普段着で」「環境問題などへの意識も高い」ことでした。その姿が純粋にかっこよく見え、「僕も将来はそうなりたい」と思いました。それが起業への動機となり、2018年1月に友人と二人で起業しました。

―起業してどのような事業を立ち上げましたか?

最初に立ち上げたサービスはビジネスマッチングのサイト「Business Hub」というサービスです。このサービスは、自分たちが起業する際に税理士や不動産屋を探すのに一苦労した経験から、スモールビジネスを始めるのに必要なサービスを一括で探せるサイトがあったら良いなと思い、立ち上げました。しかしユーザー数が伸び悩み、8ヶ月後にクローズしました。敗因は、集客やマッチングなどインターネットビジネスに対するノウハウが足りなかったことです。そもそもビジネスを始めたばかりなのにビジネスマッチングサービスをするのは果敢な挑戦だったと思います(笑)。

―その後の会社と事業の展開を教えてください

業務委託で受けていたデータ分析の受託開発は順調だったので、会社を畳む選択はせず、サービスをピボットすることにしました。新規サービスの検討を進めていた時、自身が生まれ育ってきた環境が頭によぎり、危ない仕事環境をテクノロジーを使って解決し、「労災をなくしたい」という想いが芽生えてきました。

そこで、会社のミッションを「テクノロジーで労災をなくしていく」というミッションに変え、社名も株式会社Lightblue Technologyへと変えました。Lightblueという社名には「テクノロジーを使って明るい未来を作りたい」という想いと、会社の戦略として競合があまりいない画像解析分野である「ブルーオーシャン」で戦いたいという想いを込めました。また、個人的な話ですがLightblueは自分にとって頑張れる色なんですよね。大学のスクールカラーでもあり、所属していたヨット部のウェアもLightblueだったからです。株式会社Lightblue Technologyでは、最先端の知識と機械学習機能をパッケージサービスとして提供し、すべての産業、業種、業態に利用していただくことを目指しています。「人」にフォーカスした画像解析で、建設現場、工場、倉庫などの現場で働く方向けに安全管理や健康管理、業務の見える化をお手伝いしています。

―最初の起業で得た学びから、現サービスに活かされていることは?

プロダクトはお客様ありきにもかかわらず、「良いプロダクトを作りたい」という気持ちが先行し、ただ開発するだけになっていたと気付きました。それとデザインへの意識が低かったと思います。データ分析や画像解析を使ったソリューション提供は、顧客のニーズを想定し、使いやすさを重視しなければなりません。分かりにくいUI/UXでは操作に気を取られ瞬時の判断ができません。「労災をゼロにする」というミッションを掲げた時に、ただ技術や機能が良いだけではなく、ユーザー体験つまりUI/UXが高くなるデザインがより重要になると思いました。今は現場で使用する従業員にヒアリングしてデザイン設計をしています。

自分の仕事に誰よりも詳しくなってほしい

―技術責任者として今取り組んでること、これから取り組みたいことを教えてください

ビッグデータを使って業務効率を改善しながら事業を拡大したいというお客様が抱える課題に対して、データの集め方や設計、運用に至るまでのソリューションの幅を広げるために、アルゴリズムの画像解析だけではなく、低レイヤーの部分である教師データ(AIの学習データ)の画像取得を含め、全体をパッケージ化したプロダクトを作りたいと思っています。アルゴリズムの画像解析は専門性が高く当社でしかできないサービスであるため、お客様からは「Lightblueじゃないとダメだよね」と言っていただける機会が増えています。「あなたしかできない」という評価は技術者として最高のフィードバックなので、そういった声を増やしていきたいですね。社内での取り組みでは、社内エンジニアの技術的なスキルアップや、リモートワークの拡充、バランスを保って働ける環境を整備したいと思っています。

―社内エンジニアに期待することは?

まず、社員には「自分の仕事に誰よりも詳しくなってほしい」と思います。例えば、アルゴリズムを作っているデータサイエンティストも、最終的なプロダクトはUI/UXが付いたプロダクトをお客様に納品するので、UI/UXの知識が必要です。ボタンの配置にしてもどこに置いたら使いやすいのか考えなければなりません。また在庫の扱いや在庫ロスの課題を抱えているお客様に対しては、使うべきアルゴリズムも変わりますので、お客様が抱える課題を理解しなければなりません。つまり、アルゴリズム、UI/UX、お客様の課題を含めプロダクトに関わる全てについて誰よりも詳しくなってほしいと思います。これは、僕自身心がけているところでもあり、当社のエンジニアはそうあるべきだと思います。

―経営陣の一員として今取り組んでること、これから取り組みたいことを教えてください

日本はWITHコロナの中、景気後退の局面に入っています。アメリカの調査によると景気後退の局面では労災は減りますが、死亡事故は減っていません。なぜなら、労働者は解雇を恐れて労災を申請せず、泣き寝入りしていることが多発しているからです。これはアメリカの労働者の話ですが、日本でも起こり得ると思っています。そもそも労災を起こさせない、ミッションである「労災をゼロにしていく」ことを通して、安心安全な職場環境を提供し、社会に貢献していきたいです。

最強のエンジニアになれる方法

―これからあるべき技術者(エンジニア)像とは?

エンジニアの方やエンジニアを目指す方は、先ほどお話したように「自分の仕事に誰よりも詳しくなってほしい」と思います。また、SESや派遣という形で働くエンジニアの方も、半年から1年も経てば扱う技術は変わってきますので、就業先の誰よりもプログラミングに詳しくなれば、最強のエンジニアになれるはずです。実現のためには、時間の使い方が最も重要です、僕の経験ですが1日15時間ぐらいやれば半年も掛からずに実現できると思います。プログラミングは大切だと言いながらも、実はみんなあまり学習していないので、チャンスだと思います。特に20代などの若い方は体力もあるし、頭も柔らかいはず。経験値が低いと諦めず、むしろ優位なところもあると認識してチャレンジしてもらいたいと思います。

妥協できないことは妥協しない

―「信念」「価値観」「大切にしていること」は?

妥協できないことは妥協しないことです。プロダクトの改善においても、妥協することによって「人が死ぬかもしれない」と考えると、プロダクトの精度検証や改善においても丁寧に行わなければならないと思っています。

例えば、人月の単価をクライアント先から「継続で発注するから25%下げてよ」と言われることがあります。その場の売上を考えて妥協したくなることもありますが、もし妥協すると次の値上げが難しくなり、会社の売上が長期的には減り、技術への投資が遅れるため、僕たちのミッション「全国で労災をゼロ」にする時期が後ろ倒しになってしまいます。極端な話、後ろ倒しになった期間に労災で人が死んでいる可能性を否定できません。僕の判断(妥協)によって10人死んでしまうかもしれません。そう考えると「妥協できないところは妥協しない」というのが重要だと思っています。

世界を視野に入れて、危ない労働環境を少しでも減らしたい

―これからの目標や野望を教えてください

僕たちのプロダクトはシートベルトと同じようなものだと思っています。使い手から直接「ありがとう」と言われるものではないですが、気づかれずに安全を確保するものだと思っています。そこを目指したいですね。そして日本だけではなく海外にも進出し、危ないとされる労働環境を少しでも減らしたいと思います。

―最後にお知らせしたいことがあったら、教えてください

「労災ゼロにする」というミッションに共感してくれるメンバーを絶賛募集中です。副業として手助けてしてくれる方も募集しております。

取材を終えて

プロダクトを通して労災のない世の中、全ての人が安全に働ける環境を目指す園田さんの想いや、自分が作り出すプロダクトが「死と隣り合わせである」という気概を持って取り組む姿勢に感銘しました。多くの労働環境は整備されているとはいえ、労災は日々、どこかで起きています。今回のインタビューを通してミッションである「労災ゼロ」が実現できる日は近いと感じました。

プロフィール:園田 亜斗夢

東京大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科在学。AIの社会実装、レコメンダーシステムの研究を行う。人狼知能プロジェクトメンバー。人工知能学会学生編集委員。ビジネスコンテスト優勝、受賞歴多数。AI関連本執筆。 

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