ディープラーニング(深層学習)の確立によって始まった、第三次AIブームですが、現在の“人工知能(AI)のできること”と“AIのできないこと”、あるいは“AIの負の側面”がはっきりしてきたことで、冬の時代も近い、という識者の意見も増えています。

そこで今回は、AIの未来について、検証していきたいと思います。

AIとは? 何に使われている?

「物体を人間にように考えられる存在にできないか?」あるいは「人間を超えられる知能を、人間が生み出せないか?」という考えは太古から続く人間の望みだと指摘されることがあります。例えばギリシャ神話では、愛の女神であるアプロディーテーが女性像に生命を吹き込み、その女性像が王妃となるピュグマリオーンの物語が知られています。

このように当初は、夢物語のように語られていた「人工物に人間のような知能を与える、というアイデアですが、脳科学は発達するにつれて、科学的に実現を目指す人たちが登場します。

そして、生まれたのが人間の脳の動きを再現する数式モデル「ニューラルネットワーク」というアイデアです。ちなみに、ニューラルネットワークを2010年頃に発明された、「最新のAIモデル」と思っている方が、たまにいますが、むしろ逆で、1940年代に示された「最古のAIモデル」です。

このように今から半世紀以上前にスタートした人工知能の研究ですが、その後、AIへの期待が高まり投資が過熱する“ブーム期”と、期待が失望に変わり研究投資も縮小する“冬の時代”が繰り返されてきました。2020年現在は、2006年に発表されたディープラーニングを起爆剤とする、第三次AIブームの途中、またはブームの終結期に向かっていると言われています。

現在の第三次AIブームの特徴は二つあるように思います。

一つは、AIは私たちの生活の中で「普通の存在」になりました。例えば、チャットボットやレコメンド広告、迷惑メールフィルター、みなさんは意識していないかもしれませんが、日常の様々なところで人工知能が活躍しています。

あるいは、企業がAIを使ってマーケティング分析をしたいだとか、あるいはロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)と組み合わせて業務改善を試みたいなど、「業務で利用できる」レベルとなっているのです。

また、ゲーム業界や金融機関が良い例だと思いますが、AIをずっと昔から使ってきた企業・業界が、ディープラーニングによって、より高度化したAIを利用するようになりました。

クレジットカードやローンの与信枠の計算は、第三次AIブームの時代以前からAIによって行われていました。野生のポケモンが、次にどういう“わざ”を繰り出すのか決めるのもAIの役割です。

さらに、ディープラーニングは画像や動画など、第三次AIブーム以前のAIでは扱いにくい情報の分析も得意です。富士フイルムでは非破壊検査のためのAIを開発しているようですが、このような職人技の世界でもAIが活用できるようになりました。

AIはどうなる? 未来を予測

AIの未来ですが、まず、はっきり言うと、期待が失望に変わり研究投資も縮小する“冬の時代”を迎えるのではないか、という悲観的な見方は実際、正しいように思います。

ブームが始まって10年以上経ちました。2010年代半ば頃は「時代はAIだ!とりあえず、AIのセミナーに社員を送り込め」というマインドの企業経営者も多かったですが、最近は一歩引いて、「そのAIは本当に役に立つの?」と一歩引いて冷静に考えるようになった方が多いように思います。

理由としては、『AIのメリットとデメリットを徹底検証』でも書かせていただきましたが、現行のAIにはメリットだけでなく、倫理性について判断できないなど、多くの問題点も抱えています。

ディープラーニングの登場を聞いて、一瞬は「現在のAIは万能になりつつある」と感じた方も、さらに時間が経って「いや、現在のAIも万能ではない」と感じ、AIの有効性を認めつつも、AIが人々の仕事を奪うという未来予想図に違和感を感じてられている方が多いという点が挙げられます。

また、2020年年明けから世界を震撼させている新型コロナウイルスの脅威もAI研究投資を縮小させる要因となるでしょう。

ただし、「AIの進化に対する研究投資」が縮小するという話と「企業のAIニーズ」が縮小するかは別の問題です。すでにAIをマーケティング分析ツールとして使っている会社が、より最適化されたAIに改良したいだとか、時代に合わせて更改したいと考えることがあっても、「AIって思ったより使い勝手悪いから、このマーケティング分析ツールは廃止」と判断するとは思えません。

結論としては、当面、AIの技術的進化は見込めないですが、企業からの引き合いという意味において、AIニーズは引き続き安定したものとなるでしょう。

AIエンジニアが活躍する業界は?

現在、AIエンジニアの多くが在籍しているのはIT業界です。Web系、SIer、ゲーム業界、様々な領域でAIエンジニアが活躍しています。

ただし、AIエンジニアを欲しているのはIT企業だけではありません。

例えば、コンサルタント業界にも、ビジネスコンサルタントツールとしてのAI開発ニーズがあるため、AIエンジニアが多数在籍しています。トヨタや清水建設、日本郵政など大手のメーカーやその他さまざまな業種で製品品質向上や業務プロセス改善のために、AIエンジニアを欲しています。

特に日本郵政グループは、金融系子会社(かんぽ生命・ゆうちょ銀行)を中心に、AI導入に積極的です。日本国内に十分な能力を持ったAIエンジニアが十分に存在しないとして、インドなど海外人材の獲得を志向しているという報道が流れたこともあります。AI人材は不足しており、世界的な人材獲得競争が行われている、と言われることがありますが、日本を代表する企業もその一員なのです。

そして、繰り返しになりますが、AI冬の時代が来たとしても、企業の「AIで業務改善をしたい」という欲求が止むことはないでしょう。引き続き、ありとあらゆる業界から、AIエンジニアへのオファーが続くでしょう。

AIエンジニアに必要なスキルは?

こちらも『AIのメリットとデメリットを徹底検証』にも書かせていただきましたが、AIやAIを組み込んだシステムを実装できるのは当然として、「どんなAIが欲しいの?」と要件定義できるだとか、「今度どんなスケジュール感で導入していくの?」といったプロジェクト管理ができるなど、上流工程スキルも重要です。

考えると当たり前で、クライアントが真に期待しているAIを作るためには、クライアントの課題やニーズを正確に分析しないといけません。普通のシステム開発でも、正しく要望を聞いて、正確に要件定義できないままシステム開発を進めると、どこかでボタンの掛け違いが見つかって、手戻りや、最悪、案件失敗ということになってしまいます。

AIもシステムの一種類ですから、開発プロセスや考慮点も実はまったく同じなのです。

まとめ: 第三次AIブームの先も心配不要

繰り返しになりますが、現在、ディープラーニングをきっかけとして、第三次AIブームが収束に向かっている、という意見があるのも確かです。

しかし、AIを組み込んだシステムや機器、サービスは着実に増えており、世の中に広く浸透しています。“一世を風靡したものの、その後、生死すら不明な一発屋芸人”のブームなどと違い、“良い形で”AIブームが落ち着きを見せているでしょう。

引き続きAI人材需要も高い水準で維持されると考えて間違いありません。

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