「時間ができたから、副業したい。」という声を頻繁に耳にするようになりました。コロナ禍でリモートワークが促進され、移動時間や会議時間が減ったことが大きな要因であると思います。ただし、Beforeコロナにおいても「働き方改革」が叫ばれており、副業解禁は加速していました。リモートワークの急拡大がさらなる後押しとなり、2020年は大副業時代到来の年だったとも言えます。
 ITエンジニアというと、自分自身で作業するから副業しやすいというイメージがあります。実際に、副業したいと考えているエンジニアも非常に多く、雇用者である企業としても、副業を認めるケースは年々増えています。しかしながら、副業先を見つけることに苦労している人が多いのが現状です。企業は、エンジニア不足を課題として掲げているものの、副業者の受け入れには消極的です。今回、テックキャリアマガジンでは、これまで多くの方とお話してきたことを踏まえて、エンジニアの副業の難しさを考察します。
 第2回以降では、副業を取り入れる企業やエンジニアさんにも取材しています。そのインタビューから、エンジニアの副業の課題を乗り越えるポイントを考察していきます。
多くのCTOや人事の方、あるいは副業しているエンジニアの方にご協力いただき、感謝申し上げます。

大副業時代到来、約80%のITエンジニアに副業意向あり

 ここ最近、「副業に関するサービスローンチ」や「企業が副業解禁」というニュースを目にすることが多くなりました。数年まで、副業というと一部のフリーランスの方が行っているものだったり、ちょっとした小遣い稼ぎといった印象でした。ここ数年では自分のスキルを武器に、他社でも仕事をする人が増えています。昨年末に、シューマツワーカー社が発表したカオスマップを見ても、数多くのサービスが立ち上がっており、市場が活況であることが一目瞭然です。

副業系サービスカオスマップ
出所:シューマツワーカー社「副業系サービス カオスマップ 2020年版」

 また、各企業において副業解禁というニュースも毎週のように流れており、副業ができる環境が増加しています。エンジニアの仕事と聞くと、リモートワークなどとも親和性が高く、副業のイメージも強いと思います。実際、エンジニア個人の希望に目を向けると、約80%のエンジニアが副業を希望しています(グラフ1を参照)。実際、私も数十人のエンジニアの方とお話をしていても、「リモートになって、移動もないし、意味のない会議がなくなったので、副業がしたいと思っています。中々いい案件が見つからないのですが、いい案件ありませんか?」と言われることが多くあります。

エンジニアの副業意向
エンジニアの副業意向(当社アンケートより)

エンジニア正社員採用と真逆のエンジニア副業需給事情

 ここで一度エンジニアの転職市場(主に正社員採用)を見てみましょう。転職求人倍率は8.08倍(出所:doda)となっており、他の職種と比較しても圧倒的に人材需要過多になっています。各企業のCTOや人事担当の方々と話をすると、「エンジニア採用が極めて難しい。どんどん難しくなっている。」という切実な声が、必ずと言っていいほどあがります。そこで、私から「副業ならやりたい人は多くいそうだが」と聞くと、「うちは副業の採用はやっていないんですよね」という反応が返ってくるのです。。典型的なエンジニアの副業に関するやりとりは以下の通りです。

副業によくあるやりとり

 このやりとりから分かる通り、エンジニア副業市場は、副業したいエンジニアもいる&所属先も認めており、人材の供給は多いんです。しかしながら、肝心の副業受け入れ先が少ないという「エンジニア正社員採用と逆」の事象が起きています。
 この点において統計データで定量的に示されてはいないため、筆者で副業案件紹介サイトを分析してみました。2021年1月時点で、Web開発という案件で検索してみると、案件数は85件に対して、エンジニアからの提案数(応募数)511倍となっており、応募倍率が6.06倍といえます。定量的に見ても、人材の需給バランスがエンジニアの正社員市場と真逆になっていることがわかります。

エンジニア副業市場

“副業活用にポテンシャルを感じるが、エンジニア副業が難しい”の原因を考察してみた

 上記の図だけを見ると、正社員でなく副業で開発リソースを確保するという考えても良さそうですが、実際にはそうなっていません。ここから「なぜエンジニアの副業を受け入れないのか」ということを考えてみたいと思います。
 多くの方々と議論する中で、エンジニアの副業の難しさのポイントを抽出してみました。結論に入る前に、そもそもエンジニアリングワークがどういった特徴をもっているかということを見ていきたいと思います。個人プレーという印象を持つ方もいる方もいるかと思いますが、エンジニアリングワークは極めて高度なチームワークで成り立っています。お話を伺ったCTOは異口同音に「昔は、一人の天才とその他のエンジニアでサービスを作るということもあったが、現在は、分業してサービスをつくっている状況」と言います。具体的に難しさのポイント抽出してみると、①明確にタスクが割当 ②タスクに依存関係がある ③追加機能/スケジュールに変化がある という3つです。

副業難しさ

 この特徴が副業と相性が悪くなっている要因と言えるでしょう。 まず、明確にタスクを割り当てるというという点ですが、それを割り当てる担当者に相応のスキルがあることが前提です。副業の場合、スキル教育やOJTサポートなども難しく、副業者自身がコミットメントできるかどうかを事前に見極める必要があります。実際、副業を実施している人も知り合いのツテというケースが多く、ある程度スキルがわかっているからこそ成り立っています。
 続いて、追加機能/スケジュールに変化があるということについては、副業者はどうしても平日の日中にコミュニケーションがとれない、あるいは同期コミュニケーションがとれないことがあり、キャッチアップが極めて困難になってしまいます。三日間、メールやチャットを見なかった場合、開発状況にキャッチアップするだけでも時間がかかってしまい、限定的な時間参加の副業者には厳しい環境なんです。
 最後に、タスクの依存関係の部分ですが、この点はコミットメントに関わってきます。本業の場合、作業時間や報連相の機会も多く、タスクにコミットしやすい環境です。また、本業に急なトラブルが起きたときにに副業のタスクを期日内で終わらせることができるかという問題もあります。
 開発を依頼する側としては、このような課題から、なかなか副業者にお願いできないという構造になっています。

エンジニアの副業に活路を考える

以上で考察したように副業が難しいとすれば、エンジニアの副業は現在のように知人同士で依頼するなど限定的になってしまうのでしょうか?一方、エンジニア不足については深刻であり、2030年におけるエンジニアの不足は50万人〜80万人とも言われています。この解決にあたっては、未経験者の増加や海外エンジニアの呼び込みなどの方法が上げられています。
しかし、多くのエンジニアが副業を希望しており、実際に開発経験をもっているらば、副業に大きなポテンシャルを感じます。エンジニア不足を解決するためには、上記のような根本的な課題を乗り越える必要があります。
そのヒントを得るべく、今回弊社では「真剣にエンジニア副業受け入れに取り組む企業」「並行して複数の案件に携わるエンジニア」にお話を伺いました。全4回の連載で、エンジニア副業拡大の活路を模索していきます。

インタビュアープロフィール:新保博文

 
大学卒業後、東京海上日動火災保険に入社。同社では企業営業に従事。
その後、デロイトトーマツコンサルティング、ドリームインキュベータにて保険会社をはじめとし、様々なセクターのクライアントへ戦略立案、オペレーション変革等の多数プロジェクトを経験。
シリコンバレー発企業であるNautoに参画し、ビジネスディベロップメントやマーケティングに従事後、2020年からはアイデンティティーで執行役員COOを務める。

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