企業やエンジニアの方へのインタビューを通して、エンジニアの副業の成功ポイントを模索する企画。第5回は、大手メーカーの研究開発企業で個人事業主として従事しながら、様々な企業で副業をされている佐藤さんにお話を伺いました。同時進行で様々な仕事のタスクにコミットすることは非常に難しいものです。佐藤さんは、「できないことを伝える」と言いきります。これまで副業を依頼してきた企業の声からすると、佐藤さんの副業への姿勢は、非常に安心できます。佐藤さんの取り組みやその姿勢から、副業を始める方、副業で苦労している方は多くのヒントを得られることと思います。

転職をきっかけに “副業” も開始

新保:

佐藤さんはどのような副業をしているのですか?

佐藤:

主にソフトウェア開発です。具体的には、スタートアップ企業でのサーバーサイド開発、Microsoft Azureの調査検証、プログラミングスクールのメンターをしています。

知人や、私のHPを見た企業さんからお声がけいただくことが多く、自ら積極的に営業することはせず仕事をお受けできています。

新保:

個人事業主になったきっかけ、副業をはじめたきっかけや目的はなんだったのですか?

佐藤:

そもそも転職する時点で、副業ありきでした。今の会社では、新しい挑戦をしているのですが、これまでやってきたことを活かしたりもしたいなと思っていました。

2ヶ月ほど働いたところで、なんとなく社内の様子や仕事内容が見えていました。そろそろ個人事業主として開業してもいい頃かもしれないと思い、2019年に開業しました。

新保:

副業にどれくらい時間を割いているのですか?

佐藤:

多いときで週に14時間ほどでしょうか。平日の夜に少し作業して、休日に時間を確保してまとめて作業しています。

私が携わっている副業はそれぞれ稼働時間がばらばらなのですが、スタートアップ企業での副業が1番稼働時間が長いです。プログラミングスクールのメンターは、自分の時間を2時間作れるのでやっています。講師というより、勉強の進め方などを面談するメンターのような仕事です。

新保:

すきま時間だけで少しづつやるより、休日にまとめて時間を確保した方が効率が良さそうですね。平日はどのように働いているのですか?

佐藤:

日中は本業、夜に副業という働き方をしています。本業の就業時間はある程度コントロールできるので、18時に仕事を終え、食事などを済ませた21時ごろから副業にとりかかります。夜の方が副業先のメンバーと連絡がとりやすいということと、私自身朝が苦手ということもあり、夜に時間をとっています。

新保:

本業で就業時間に融通が効くことも、副業にコミットするカギとなりますね。現在はリモートワークされているのですか?

佐藤:

本業副業ともにリモートワークです。そのおかげで時間がとりやすく、副業ができています。電車に乗って通勤するだけで疲れますからね…。会社から帰宅して、「さて副業するか!」というやる気は起きにくいと思います。

開発の進捗確認を欠かさず、不安にさせない

新保:

副業の難しさはなんですか?

佐藤:

本業と副業のキャッチアップをしていくことは大変だと思います。本業がある中で、副業の状況も変わってきます。そこについていかないと、必要な開発ができなくなります。しかし一方でそのキャッチアップが、副業にコミットするうえで重要です。

新保:

タスクを依頼された場合もすりあわせは行うのですか?バッファの決め方や、タスクの受け取り方で意識していることはありますか?

佐藤:

すり合わせはしています。具体的に言うと「仮に依頼が100あったとして、まず30やれば中身はブレないので30やります。残り70はまた決めましょう。」と、タスクを細かく切って工数を見積もっています。それに加えて、「これは不要なタスクではないですか?」という無駄を削減する提案もたくさんします。

副業において細かく指示が出されることは少ないと感じていますが、私の場合「こんな感じのものがほしい」という依頼の方がやりやすいと感じています。

その他私が副業で気にかけていることは、自分の進捗を常にSlackで報告することです。「今日は作業時間の確保が難しい」ということも伝えています。リモートだと「この人は今何をしているんだろう?」と進捗が心配になったり自然と悪い考えに至ってしまいます。

新保:

開発チームでのコミュニケーションを念入りにされているのですね!やはり副業のSlackは、平日でも常に追っているのですか?

佐藤:

1日1回は見ています。まとめて見ようとすると、終えきれないですからね。

スタートアップの副業を例にすると、自分が担当している仕事など、「これ一旦ストップします」と、要件が変わることがよくあります。大きく変わることがあった際は、本業のあとでも「MTGで状況を聞かせてください」とお願いをして、オンラインMTGでキャッチアップしています。

できないことを明確に伝える勇気

新保:

コミットメントやモチベーションはどのように維持していますか?

佐藤:

自分の中では、報酬だけではなく自分なりに目的を決めた上で取り組んでいます。プログラミングスクールに副業で関わっているのは、エンジニアを目指す人、なりたい人をサポートして貢献したいからです。スタートアップでの副業に関わる理由は、年齢的に本業としてダイレクトに参画することが難しいので、副業として関わりどのようにしてグロースしていくのかを見ていきたいから。 “本業ではできないけれど興味がある” ことを副業でやっています。どんなにお金がよくても、興味がなかったらやらないかもしれません。

新保:

成長意欲の高い人が副業でスキルアップをしている印象を受けます。佐藤さんの考える、副業に向いている人・向かない人はなんですか?

佐藤:

副業に向いている人の判断は難しいですが、副業に向かない人は、“ネガティヴなことを言えない人” です。例えば「本業が忙しいので副業の時間を確保できそうにないです」など。「やってみます!頑張ります!」という人がだめというわけではなく、相手の期待に対して、本当のことが言えないと副業はできないと考えています。ネガティブな情報ほど、相手に伝える必要があると思っています。

新保:以前、副業を受け入れている会社の方が、「がんばります」が一番不安と言っていたので、逆に安心しますね。

佐藤:

私は副業の仕事を受ける時点で、期待値のすり合わせをしています。本業があるため日中は副業ができないこと、本業でトラブルなどの緊急対応があればそちらを優先することなどを、事前に伝えています。もちろん期待値のすり合わせをしたうえで、試しにやってみましょう!と副業をやってみて、噛み合わないということもあります。

ビズデブの近さから得られる社会貢献度

新保:

これまで副業の大変部分を伺ってきましたが、副業をやっていてよかったことはありますか?

佐藤:

“興味があるけど本業ではできないこと”を体験できる点です。ただし、ただ興味の向くままにやっていては仕事として成り立たないので、自分がどのようなバリューをだせるかのすり合わせは必要です。

本業では使うことのない技術に触れることができたり、異なる業界と携わることで視野が広がったり、自身のスキルアップにつながることができると、やっていてよかったと感じます。

コミュニティという観点では、スタートアップ企業と関わる機会をいただいて、ビジネスの進捗や資金調達などこれまで入ってこなかった情報がすぐ入ってくるので、日々発見があります。

新保:

スタートアップ企業は、人数的にもカルチャー的にもビジネスサイドと開発サイドの距離が近いです。その分、自分たちが作ったプロダクトが評価されていると実感されやすいのでしょうか?

佐藤:

おっしゃる通りです。実は最近、自分が携わったプロダクトでプレスリリースを打ってもらったことがありました。自分の仕事が、会社に貢献できているという形になったことは嬉しかったです。

新保さん:

直接貢献できるほど嬉しいですね。これからも副業は続けていく予定ですか?

佐藤:

そうですね。とはいえ副業に関してまだ模索中なのですが、現在考えていることは “チームで副業” です。本業で一緒に働いているチームメンバーも副業をしており、このチームで同じ副業の仕事に取り組むことで、より良い成果を出せるのではないでしょうか。これからも働き方を模索していきたいと思います。

エンジニアの副業推進にあたっての示唆

“できないことをはっきりと伝える”と言い切る佐藤さん。副業先企業としては、この姿勢がむしろ安心します。根拠のない“がんばります”が、不安にさせているケースも多くあり、正直にできないことを伝えつつ、それによってコミットできることを明確にしています。また、本業で得られないような経験を副業先で得ることでコミットを高めています。企業側も、副業者の方であっても一緒ビジネスをしていく仲間として巻き込むことで、ハイパフォーマンスを得られることになります。

本連載では、4つのインタビューを通じて、エンジニアの副業について模索してきました。本業とは異なる環境であることを踏まえて、企業とエンジニアの双方で期待値設定し、コミュニケーション方法すりあわせることが重要であると認識させられました。特に、「できないことをはっきりさせること」が重要であると浮き彫りになりました。「頑張る」ことは当然必要なことですが、「頑張る」という言葉があると曖昧さが残ってしまいます。企業側も求めることもはっきりさせ、エンジニア側が本当に副業を受けられるかを確認する必要があります。エンジニア側は、本業がある中でデリバーしきれるのかということを慎重に見積もった上で、できるできないを提示する必要があります。こうしたすり合わせを行うことで、お互いにメリットのある副業が実現できるのではと考えています。今回の取材で得た、副業を始めるにあたってのチェックポイントを以下にまとめます。これから副業を始めたいという方はぜひ参考にしてください。

①本業がある程度コントロールできるか

②その上で、副業へまとまった時間コミットできるか

③副業先の仕事へのやりがいを感じるか

④平日も一定程度チャットなどのコミュニケーションがとれるか

今後も、エンジニアの副業については好事例などを取材していきたいと思います。

プロフィール:佐藤 竜也

プログラマー。

1981年生まれ。名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程単位取得退学(修士)後、2009年楽天株式会社入社。C向けWebサービス、社内情報システム、プライベートクラウドの開発、新規事業開発に従事。2013年からスクラムを取り入れた開発を始める。

2019年7月より株式会社デンソーにて製造業でのソフトウェア開発に従事。

社外では、Ruby、OSS開発、スクラムやアジャイル開発などを中心にコミュニティ活動を行っている。

また個人事業主として、プログラマーとしてソフトウェア開発の支援やプログラミングスクールでのメンターを務める。

個人のHPはこちら、チームのHPはこちらをご覧ください。

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