海外のエンジニアリング案件とは?
「プラントやインフラなどの設計、調達、建築、保守を請け負う業態」のことをエンジニアリングと言います。
プラント(plant)とは工場設備・生産設備一式という意味です。
天然ガスなど天然資源の採掘現場では、採掘するだけでなく、採掘したての天然資源を利用可能なように、不純物を取り除いたり、あるいは輸送しやすいように加工する(天然ガスの場合だと冷却化して液体化させます)ためのプラントが作られます。
あるいは、みなさんが使っているパソコンやスマートフォンはメーカーの工場で製造されているはずですが、そうした工場もプラントであり、工場建設もエンジニアリング案件に含まれます。
また、ここでいうインフラとは、発電所や上水道システム、下水処理場など、社会インフラのことです。
エンジニアリング業界に所属しプラント建設に関わる企業は様々ですが、いずれの企業もある分野において他社では提供できない特殊なノウハウ・ナレッジを持っています。
ところで、「なぜ、海外のエンジニアリング案件が注目なのですか? 国内はどうなっていますか?」と疑問に思った方多いでしょう。
結論から言うと、業界全体の流れとして、現在、海外志向になっています。
理由としては、日本国内はすでに社会インフラがほぼ全域に展開されており、プラントに関しても、すでに産業が成熟しているため、建設案件があまりないためです。
つまり、国内ではすでにある社会インフラ・プラントの保守がメインで、新たな案件が発生しにくいのです。
対して、海外に目を向けると、まだまだ発展途上で、これから社会インフラを整えたいと考えている国・地域がたくさんあります。
プラントについても同様で、発展途上国の方が成熟状況にある日本国内よりもずっと新規案件が多いです。
さらに、石油や天然ガスなどの天然資源が埋蔵されているが新たに分かった、だとか、前々から分かっていたが、いままでなにかしらの理由で、開発できていなかったので今後開発したいのでプラントが必要、というところもあるでしょう。
ちなみに、ここ10年くらいの状況としては、タイやベトナムなど東南アジア諸国が活況のようです。
海外のエンジニアリングの職種は?
国内外問わずかもしれませんが、エンジニアリング業界で働く人材の業種・スキルを整理しておきましょう。
エンジニアリング事業、つまり「プラントやインフラなどの設計、調達、建築、保守」は一人でできるようなものではなく、複数の職種の人材がスクラムを組んで進めていきます。
このスクラムを構成する必須人材は、工学系人材・土木系人材・電気系人材です。
この三種類の人材は、いかなる種類の設備を設計するのにも、稼働した設備で起きたトラブルを解決するにも、設備の保守をするにも必要不可欠です。
そして、案件の性質に合わせて、工学系人材・土木系人材・電気系人材以外の人材が適宜追加されるイメージです。
例えば、天気予報情報が公的機関から提供されていない、提供されても精度が低い発展途上国での案件であれば、気象系の人材がアサインされるでしょう。
天然資源を採掘するためのプラント建設であれば、効果的な採掘が可能なように、地質学の専門家が同行することもあるでしょう。
このように状況に応じてフレキシブルなところもありますが、基本は工学系人材・土木系人材・電気系人材であり、ITエンジニアも工学系人材に内包されて必要とされることが多いようです。
給与は高いのか?
国や地域などにもよりますが額面上は高い年収が期待できると思います。
プラントエンジニアのための求人サイト「トライアロー」によるとプラントエンジニア平均月収は60万円/月で、年収は600万円~700万円とのことでした。
海外案件に参加している方となると1000万円超えも少なくないとのことでした。
言葉は悪いですが、職場は“辺鄙な場所”が多く、そこに専門的な技術を持った人材を集めるために、年俸もそれ相応に高額になっています。
参加したことのある方が「自身が関わるプラントや大規模インフラによってもたらされる(経済的なことだけでなく、現地経済への貢献などの社会的な影響も含めて)利益は大きいので、やりがいがあって、お金ももらえる、素晴らしい仕事だ」とおっしゃっていたのを聞いたことがあります。
ただし、天然資源系のプラントやインフラ設備は都市部から離れているなど、ただ住みにくい環境であるだけでなく、政情不安な国の案件では、命の危険すらあることもあります。
石油を含む天然資源の開発プラントは“金のなる木”ですから、支配権をめぐって武装集団の襲撃が行われるかもしれません。
外国人の運営する開発プラントやインフラ設備は、「外国による支配・搾取の象徴」として攻撃の対象にされる可能性が高いです。
実際、2013年には、アフリカのアルジェリアにて、天然ガス精製プラントに対してイスラム系武装集団が襲撃を行い、日本人10人を含む、8か国37人死亡するアルジェリア人質事件も発生しています。
もちろん、このような事件は滅多に発生するものではありません。
企業も人命優先で運営を行っており、近年はリスクの高い中東やアフリカ北部での案件が縮小しています。
現地政府も自国の経済発展のために海外から訪れたエンジニアの安全に細心の注意を払っているとは思います。
とはいえ、宗派対立、民族対立という火種のある地域に参加すると、そうしたリスクに合う可能性はゼロではない、という知識は持っておくべきでしょう。
・海外のエンジニアリングで活躍にするにはどんなITスキルが必要か?
海外のエンジニアリング案件で求められるITエンジニアのITスキルは究極的には二種類のみです。
まず一つ目のスキルは、各種プラントやインフラ設備周りのITスキルです。
具体的に言えば、最初から各装置に制御システムが組み込まれていますが、現地の状況に合わせて、チューニングする必要が出てきた際に、それに対応するITスキルです。
例えば、いまどきのプラントにはセンサーが組み込まれており、センサーが各部の状況を自動検診するなどの機能が搭載されていますが、現地の気象状況の問題からセンサーの誤検知が多くなる、という問題が発生するかもしれません。
そうなったときは、センサーの感度を調整する必要が出てくるかもしれません。
実装力も大切ですが、人的資源を含めてリソースが限られる現地の状況に対応しながら、問題に対処できる課題解決能力がさらに重要です。
なお、難題に当たった時、全部ひとりで答えを導かなくてはならないのか?と問われるとそうではありません。
テレビ電話などで、他拠点との通信が簡単に可能な時代ですので、必要に応じて、例えば日本国内にいる、よりその分野に精通したエンジニアたちと協議して問題解決することもあります。
事態をうまく説明し、必要な援助を引き出す能力も重要と言えます。
二つ目に求められるITスキルはそれこそテレビ電話システムのセットアップなどOA管理者的なスキルです。
各種プラントやインフラ拠点は、本店や支店、事業所などと同じで“事業拠点”です。
従業員がいて社内OA環境のようなものが通常あります。
そして、社内OA端末を使って他の拠点とメールのやり取りを行ったり、インターネットに抜けていくといった“日々の業務”が行われているはずです。
少なくない案件で、各種プラントやインフラ拠点における社内OA管理者として振舞うことが求められます。
まとめ:業界として海外志向
すでにお伝えした通り、エンジニアリング業界自体が海外志向ですので、海外で挑戦したいという気持ちの強い方にはおススメといえる業界です。
ただし、SIerやWeb系などで純粋な「ITエンジニア」をしてきた人のスキルセットと、求められるスキルセットが一致しないところがあるので、キャリアチェンジとなる点だけはご注意ください。