一般社団法人日本CTO協会が協会会員と招待客の方々に感謝を伝えるべく開催したオフラインイベント「#ThanksGivingDay2022」。
本記事では、スポンサー企業と協会理事により対談形式で行われた5つのセッションから、「バイセル今村CTOに聞く!データドリブン経営の実践」をご紹介します。

登壇者紹介

今村 雅幸 氏

一般社団法人日本CTO協会 理事
株式会社BuySell Technologies 取締役CTO

2006年ヤフー株式会社に入社。Yahoo! FASHIONやX BRANDなどの新規事業開発に従事。2009年に株式会社VASILYを創業し、取締役CTOに就任。2017年にVASILYをスタートトゥデイ(現ZOZO)に売却し、会社統合とともに2018年、ZOZOテクノロジーズの執行役員に就任。CTOとしてZOZOのプロダクト開発やエンジニア採用・教育・評価などのエンジニアリング組織マネジメントなど幅広くDXを推進。2021年3月に株式会社BuySell Technologies取締役CTO就任。

岩成 祐樹 氏

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 カスタマーエンジニア

グーグル・クラウド・ジャパン・合同会社のカスタマーエンジニア。Google Cloud の導入支援やイベント登壇を通じて、スタートアップなどのデジタルネイティブ領域のお客様を技術支援。好きなプロダクトは Cloud Run & Cloud Spanner。趣味は旅行とキャンプ。鳥取出身。

データドリブン経営のきっかけ

[今村]
当社は、エンジニアの世界ではあまり知られていない会社かもしれません。しかしながら、マーケットや投資家界隈では「データドリブン経営をうまくやっている会社」として認知されています。
「データドリブン経営」とは、KPIなどの経営に必要な全ての指標を数値化し、データドリブンに意思決定していく経営のことです。具体的に当社では、100個以上あるKPIの全てをツリー化しています。さらに例として営業部隊にフォーカスすると、「どのような能力を持つ」「誰が」「どのくらい売上可能性のある」「どこに」というところまでブレイクダウンして見ています。
このようなデータドリブン経営は、代表取締役社長兼CEOの岩田が得意とするメソッドであり、当社はそれを実践することにより成長できています。

[岩成]
BuySell Technologiesにおけるデータドリブン経営への取り組みは、今村さんがジョインされる前から動いているものもあるかと思います。
一方で、今村さんがジョインされてからもさまざまなことに取り組まれているかと思いますので、その辺りをお伺いできればと思います。

データドリブン経営への課題と取り組み 〜テクノロジー〜

[岩成]
まずはテクノロジーの観点で、課題となっている点や解消するための取り組みがあれば教えていただきたいです。

[今村]
まずは課題として「データソースが散らかっている」「データソースの信頼性」という点が挙げられます。
データドリブン経営では多数のKPIを扱うため、その分根拠となるデータソースが必要になります。データベースやスプレッドシートで管理されているものならまだ良いのですが、誰かのデスクトップ上にあるExcelなどのローカルファイルを元に、なんとかこねくり回して数値を出しているようなものもたくさんあります。そのような場合、データの信憑性にも欠けてしまいます。そのような点において、仕組化がまだまだ甘いなと感じています。
データドリブン経営において、データソースやデータ基盤は最も重要です。またAI活用やDX推進などを進めていきたい場合にも、データ基盤は最重要項目です。前職である株式会社ZOZOテクノロジーズ(現在は株式会社ZOZO及び株式会社ZOZO NEXTに吸収分割)にジョインした際も、まずはじめにデータ基盤の構築をしました。

[岩成]
データソースが散らかっているという課題に対し、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

[今村]
今まさに進めているものとして、「データレイクを1カ所にする」というものがあります。全てのデータを1カ所にまとめ、いわゆるSSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)のような状態を実現させようとしています。その中で選んだのが、Google Cloud のBigQueryという素晴らしいプロダクトです。

[岩成]
ありがとうございます(笑)

[今村]
BigQueryには全てのデータを入れます。全てとは、プロダクトのデータベースはもちろんのこと、スプレッドシート上で管理しているものや、プロダクトに関係のない社内人事情報などのデータも含みます。そうすることにより、全てがBigQuery上にあるような、SSOTの状態の実現を目指しています。
分析フェーズにおいては、さまざまなBIツールを検証した上で、Google Cloud の Looker Studio(旧:データポータル)を選ばせていただいております。
またデータ基盤は、データベースをリアルタイムでBigQueryにデータシンクしてくれる Google Cloud の Datastreamへの切り替えを検討しています。
他にも、スプレッドシートや誰かのローカル環境にあるCSVファイルなどに関しては、Databricksを用いて自動的にBigQueryに取り込まれるようにしています。

[岩成]
ツールやプロダクトの選定理由や選定プロセスに関してはいかがでしょうか。
CTOという立場で、そういった意思決定にどのようにインフルエンスしていったのかを伺いたいです。

[今村]
技術選定に関してはCTOの仕事だと思っています。
現職でも、「BigQueryを使う」という事自体の意思決定は、過去の経験や周りの話を聞いた上で僕がしました。一方で、Looker StudioのようなBIツールや、Databricksのようなものは、必ず現場の検証結果をもとに意思決定するようにしています。

[岩成]
現場の納得感を得つつ進められているのですね。

[今村]
これまでエンジニア組織を作ってきた中で、CTOは万能ではないと思うようになりました。技術選定においても、CTOより適切に選定できる方が組織内にいる可能性はおおいにあります。また、技術は日々進化をしているので、過去に良いなと思った技術が今は廃れてしまっているなんてこともあります。自身の経験則に基づいた先入観だけで選定するのではなく、現場に技術検証をさせ、納得感を持ってもらった上で選定するようにしています。そうすることにより、現場のモチベーションも圧倒的に上がるということに気づきました。
データ基盤に限らず、フロントエンドのフレームワークなども、現場に検証してもらった上で選定をするようにしています。
また、それをアーキテクチャとしてドキュメントに残していくようにしているので、組織としてのスケールも見込めますし、僕が明日いなくなっても問題ないかなと思います。

データドリブン経営への課題と取り組み 〜組織・カルチャー〜

[岩成]
データがローカル環境などに散らかってしまっている場合、データを出す側は手間がかかるため、「よしやるぞ」という掛け声だけだと、なかなか動いてくれないということもあるかと思います。
そういった中で、データドリブンに向かっていくための意識付けとしてどのような取り組みをされていますでしょうか。

[今村]
とにかく、啓蒙(けいもう)が大事かと思います。具体的には、データサイエンス部というデータを扱う部門が、全社向けにデータに関する勉強会を開いたり、毎日1時間データサイエンス部へ質問できる時間を設けていました。そうした啓蒙(けいもう)をしていくことにより、ビジネスサイドであってもクエリを書けるようになるというところまで育成をしようとしています。

[岩成]
私自身も、プリセールスとして営業とともに動いていく中で、データドリブンに関してそもそも価値を見いだしていない人に動いてもらうのは非常に難しいと感じました。そういう時にはハンズオンで一緒に進め、「このオペレーションが自動化できた」「良いデータが取れた」といった体験をしていただくことにより進めていた事もあったので、共感いたしました。

データドリブン経営 〜現在地と今後の展望〜

[今村]
現在地点としては、ようやく1カ所にデータをまとめられるようになった点と、少しずつビジネスサイドでも使える人が出てきたという点が挙げられます。
また会社の成長にはスピードが大切だと思っています。そのため今後の展望としては、ビジネスサイド一人一人が意思決定に必要なデータを自分で取り出し、加工、可視化できるようにして、さらにスピードを上げていきたいと思っています。表計算ソフト単体では限界があると思っているので、文化づくりも含めてスピード感のある組織づくりをしていきたいと思っています。

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