株式会社ZOZOテクノロジーズにてSREチームのテックリードを務める光野達朗さんにインタビューをしました。新卒でヤフー株式会社に入社し株式会社VASILYに転職。吸収合併を経て現職株式会社ZOZOテクノロジーズ。現在は、AWSを専門とした会社全体のインフラ周りの整備をされており、プロダクトを危険から守っています。そんな光野さんの過去から現在に迫ります。
「AWSを極めたい」その想いで転職を決意
―現在の仕事に就くまでの経歴、転職時の決断の背景を教えてください
新卒でヤフーに入社し、ヤフオク!のサーバサイドエンジニアとしてキャリアを積みました。その後社内の起業家育成制度から子会社を設立するというタイミングで代表から声をかけられ、子会社に出向しました。そこでAWSに出会い、それ以来AWSの世界でキャリアを積んでいます。AWSは、使いこなすことでプロダクト開発の課題をどんどん解決できる部分に魅力を感じています。当時ヤフーではAWSが積極的に使われていなかったので転職を決意し、VASILYに出会いました。
―AWSに魅了され、更に技術を極めるためヤフーを飛び出したのですね。最終的にVASILYを選んだ決め手は何でしたか?
VASILYには私が転職する際に考えていた外せない3つのポイントを全て押さえていました。
1つ目は情報発信を評価しているということです。私個人として、業務で培ったノウハウを積極的に情報発信したく、VASILYはその行動を評価し背中を押してくれる企業でした。
2つ目は、1つのサービスに力を入れている会社ということ。社員全員がその1つのサービスを追っているという点が印象的でした。
3つ目は私が役員全員と顔を会わせてから決めたいと考えており、実際に全員とお会いできたことです。子会社での経験から、小さい企業ほど役員の方々の意向や方針に左右されるという実感がありました。そのため役員の方々と会い、その考えに共感できるかを大事にしていました。
上記3つを満たしたのがVASILYでした。
サービスの安全を守りつつ、エンジニアの自由も守る
―現在の仕事内容や携わっているサービス内容について教えてください
特定のサービスではなく、会社全体のインフラ周りの整備と、AWSを中心としたエンジニア教育に携わっています。現在、会社としてクラウドシフトに力を入れており、今までオンプレミスで動いていたサービスをAWSやGCPという新しい環境へリプレイスしています。全く違う環境ですので、脅威からどのように守りを固めるか、それを1から検討する必要があります。ユーザの方々に不利益が無いよう、インターネットの脅威からサービスを適切に守らなければなりません。最近は、将来のリスクになるような設定をどのように検知するか、どう対応するかという、予防策の検討・実施に携わっています。
前述の通りZOZO全体のAWSを担当しているのですが、全体管理者と言いつつも、プロダクトが使うAWSアカウントの管理はそれぞれのチームがやっています。私は主体的に動くメンバーの横に立っているイメージです。細かいところに口を出すというより、プロダクトチームの開発を、危険から守る警備員のようなポジションですかね。しかし、彼らの行動をブロックしたくないんです。口うるさい人ではなく、大事なところは光野が守っていると思われる存在でありたいです。
―全体を管理されているということもあり、コミュニケーションが必要な場面が多いと思いますが、コミュニケーションで意識していることはありますか?
基本的にはSlackとDiscordを使ったコミュニケーションが多いです。日々のやりとりはSlackで、時間がある時はDiscordで音声によるコミュニケーションをとっています。1日1時間は“みつのアワー”という時間を設けて、相談しやすい環境づくりをしています。特に現在はリモートワークになりチームメンバーの状況が見えないので、コミュニケーションが取りやすい環境作りを意識しています。リモートになる前から1年くらいみつのアワーを活用しているのですが、しばしば別チームのスタッフから相談が来ることもあります(笑)。
―“みつのアワー”非常に素敵な取り組みですね!SlackやDiscordを使用されているとのことですが、その他どのようなツール、スキルを使っているのか教えてください
一般的にはチームで1つのプロダクトを担当するかと思いますが、私が所属するチームで様々なプロダクトに関わっています。活発に開発しているプロダクトは3,4つあります。特定の技術というと難しいですが、スキルとして重視している部分は、アプリケーションを把握する能力ですね。自分たちはAWSを使ってインフラを作る専門のチームではありますが、インフラだけあってもただの箱にすぎません。アプリケーションがあって、それに応じたインフラを作っているので、アプリケーションを理解し、過剰ではなくそれに適したインフラを開発する。いかに最小構成のインフラを提供できるかを意識しています。RDSやAmazon ElastiCache、ECS、EKS、Fargateをはじめとしたフルマネージドサービス※を利用し手間のかからないサービスをつくることがチームの課題です。
※フルマネージドサービス:サーバやクラウド環境の基本設定(サーバのOSやミドルウェア設定)だけでなく、サービス開始に必要なサーバ構築、監視・障害対応・セキュリティ対策まで、サーバ運用に関する全ての作業代行を提供するサービス。
未来のあるZOZOテクノロジーズにジョインしたことへの誇り
―ZOZOテクノロジーズに入社して良かったことを教えてください
ファッション系の会社ということもあり、オシャレになれたかなと(笑)。
また組織全体を見るということを実体験で学ぶこともできました。組織としてもプロダクトとしても、制度や仕組みがまだ整っていないと感じています。しかしサービスは大きい。その中で、組織として守るべき部分と働きやすい環境の両立を考えながら、サービスに携わることができるのは良い機会だと思っています。
「光野は攻撃部隊をケアし武器を持たせ、支える存在」
―ぶっちゃけ辛かった・しんどかったエピソードはありますでしょうか
辛かったエピソードは2つあります。1つ目は、短期間で企画を実行しなければならなかったことです。当時、ある新規事業を立ち上げる企画がありました。発表の1週間前に、サービスのインフラ周りができていないと告げられ「光野頼む!」と言われたことですね(笑)。アプリケーションがあってのインフラなので、アプリケーションの把握や、デプロイの仕組みを作ったり、監視の仕組みを作ったりと、1週間で最低限の品質をどのように作るか悩んでバタバタ働きました。時間がなかったという意味でしんどかったエピソードです。
2つ目はAWSの全体管理者という役割に迷っていたことです。各プロダクトはそれぞれの担当チームが主体的に開発します。AWSが登場するそれら全ての詳細を把握していないことが、全体を管理する者としてあっていいのかと、ストレスに感じていました。内容を把握するために各チームに絡んでいくのですが、どうしても中途半端になるので、横から口を出すだけの人という存在になっている気がして、それもストレスでした。しかし、自分がいなくてもサービスは継続するという当たり前の事実に気がついた瞬間があり、初心に戻り後方支援に徹するんだと、気持ちを切り替えました。
VASILYの入社時に代表の金山に言われたことは、「VASILYのメンバーは攻撃力が高く、武器なしでも突撃していく。そしてたまに怪我をして帰ってくるので、それを支えてまた前線に戻してあげてほしいし、武器を用意してくれる人が必要。そういうエンジニアを探していた。それが光野だよ。」と言われた事を思い出しましたね。その言葉もあって現在は前向きに働くことができていると感じています。
―金山さんのお言葉、非常に感慨深いですね。次にエンジニアの評価制度について教えてください。
これまでは定性評価で行動が強く評価されるものでした。今後は期待されていることを定量的にまとめ、達成すれば基準点、基準を超える達成があれば加点される制度が検討されています。
評価者に関しては、エンジニアの直属の上司、エンジニアリーダーが努めます。私の直属の上司はCTOの今村で、エンジニアの上司は必ずエンジニアになっています。
―ご自身のスキルアップのために心がけていることがあれば教えてください
やはり直接手を動かすに尽きます。特にAWSはリリースが多く、どんなことができるかは触ってみないとわかりません。
RSSのフィードを登録しており、情報が勝手に流れてくる状況を作っています。そこで目立つものは実際に触って確認し、なるべくイベントに登壇したりブログ記事を書いたり、世の中に発信することも心がけていますね。情報は発信するところに集まるように思います。2019年にはAWS Summit Tokyoに登壇しました。国内最大級のイベントで登壇し弊社の取り組みをお伝えできたのは、私自身のスキルアップに加えて組織を大きくPRできたと感じています。非常に貴重な体験でした。
“光野に任せておけば大丈夫” そんな存在でありたい
―これまでで最も成長した経験はありますか?
ヤフーに務めていた時に、AWSを何もわかっていない状態から2週間でWebサービスを作ったことがありました。社内の人にレビューしてもらい「このクオリティなら本番環境でも使えるよ」と言ってもらえたことは成長を実感した経験ですね。今の自分につながる大きな出来事だと感じています。
―何もわかっていない状態から短期間でWebサービスを作ってしまうチャレンジ精神、素晴らしいですね!次にエンジニアで良かったと思う瞬間を教えていただけますか?
自分で学習し、できなかったことをクリアする喜びは非常に大きいですね。現在も、どうやってやるんだろうと頭を悩ませるような課題を解決した時には、AWSに出会った時のことを思い出します。そういう意味でも、限られた時間と制約の中で頭をひねり、自分が作ったものが世に出た時はエンジニアで良かったと感じます。世の中に価値提供ができて良かったと思えるし、励みにもなります。
―仕事で実現したいビジョンはありますか?
後方支援の仕組みをつくることです。攻撃部隊を技術的にサポートできるチームが少ないと感じています。「私がいなくても良い」が理想です。私だけができていたってスケールしないですから。私がいなくても後方支援できるようなチームを会社の中に作りたいです。
―光野さんご自身の夢や野望を教えてください
「最高の右腕になる」
組織のトップになりたいというより、自分が尊敬する人物のもとで働き、「光野に任せておけば大丈夫」と言われる存在になることが夢です。プライベートでも、友人に何かあったときに頼られる、そんな存在でありたいです。現在取り組んでいるインフラ周りの整備や後方支援も、全てここに繋がると思っています。
取材を終えて
「攻撃部隊に武器を与え、支える存在だ」と金山さんに告げられたエピソード、目頭がじんわり熱くなりました。サービスを危険から守る守護神がいるからこそ、ZOZOテクノロジーズがあり、ZOZOがあります。
また、光野さんはブログ記事を書いたりイベントに登壇したりと、世の中に積極的に情報発信をされています。そんな光野さんの元で働けたら、インプットが増え視座がかなり高くなるのではないかと感じました。ぜひ、これからも世の中への発信を続け、世界のテクノロジーを支えてください!
プロフィール:光野達朗(みつの たつろう)
2012年にヤフー株式会社⼊社。ヤフオク!のWebAPI及び法⼈機能を担当。企業内起業家育成制度にて設⽴された⼦会社でAWSと出会い、転職。2016年4⽉からは株式会社VASILYでインフラエンジニアとしてサービスの安定運⽤と改善に務める。法⼈の吸収合併に伴い2018年4⽉から現職。現在はAWSを専⾨とするSREテックリードとCTO室を兼務。組織横断で利⽤するクラウドアーキテクチャの構築と信頼性向上に従事。ウィスキーと葉巻が好き。愛してる。